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ライフ (ダニエル・エスピノーサ監督 / 原題 : LIFE)

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この映画の題名は「ライフ」、つまりは「生命」という意味である。なるほど、この地球上にあまた存在し、躍動するあの生命のことだ。つまりこの映画は、生命の尊さを訴え、この地上に平和で穏やかな日々が続くように祈ろうという内容なのか。あるいは、「ライフ」のもうひとつの意味である「生活」を意味するなら、新たな自分を求めて頑張ろうという積極的なメッセージを伝えるものなのかもしれない。または、貧しくつらい日々の生活の中にも笑いありペーソスありの、家族愛による心温まる物語なのであろうか。・・・でもそれなら、こんなポスターのはず。
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うーん、何かちょっと違うようだぞ。なぜなら、冒頭に掲げたポスターの謳い文句は、「人類の夢も未来も砕かれる」というなんとも物騒なものであり、どう見ても、地球上の生命や人々の生活の尊さを訴える内容ではなさそうだ (笑)。そう、正直なところ、私の意見としては、この映画の題名はよくない。私のように、ブラックで怪奇で邪悪なものを愛する人間にとっては、題名だけで映画をチェックするならば、見落としてしまうではないか。この、優れてブラックで怪奇で邪悪な映画を (笑)。実際、予告編も見る機会がなかったので、シネコンのスケジュールをチェックした時には危うくこの作品をスルーするところであったが、念のためと思って解説を見ることとし、その本質を理解すると、早速いつ見に行くかの検討に入ったのである。危うくこんな面白い映画を見落とすところであったのだ。危ない危ない。

ストーリーは簡単。6人の乗組員の乗る宇宙船が火星に到達し、そこで採取した土壌に原始的な生命体を発見する。最初はただの小さな細胞であったその生命体に対し、かつて地球で起こったような生命活動のための様々な要因を整える環境を作ると、それは徐々に活動を始める。そしてそのものは急速に成長・進化し、ついには人間を襲い始めるのである。そうして閉ざされた宇宙船の中は、逃げ場のない壮絶な闘いの場となる。この生命体を絶対に地球に届かせてはいけない!! というもの。うーん、これは面白い。もちろん昔の名作「エイリアン」とも共通する設定なのであるが、当時と比べて現在の映画技術における無重力表現のリアルさには、本当に舌を巻く。この迫真のリアリティあってこその、究極の密室ホラーなのである。
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もちろん、これからご覧になる方のためにいつもの通りネタバレは避けるが、培養によって育ってきた火星生物 (ここではカルヴィンと名付けられる) は、最初はこんな感じ。何やらイカの刺身のようである (笑)。
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さぁ、ここからいかに物語は進展するのか。白状すると、私はもう、心臓バクバクものでスクリーンに見入ることとなった。フィクションとは分かっていても、もし異星の生命体が発見されて、それが成長すれば、まさに完全な未知との遭遇であって、ドキドキするに決まっている。そして、もしあらすじを事前に知っていなくても、このイカの刺身がいずれ人間を襲うようになるという予感は、画面のそこここから漂っているので、なんとも息苦しく落ち着かないのである。この感じ、「エイリアン」を含むほかの映画ではこれまでに味わったことのないほど強烈な、何か人間の本能に訴えかける恐怖感だ。この生命体は高い知能を持っていて、道具を使ったり、あるいは何か物事が起こったらその結果として起こることも予測した上で行動を取る。最初の方こそゴキブリ退治感覚で見ていても、すぐにエイリアン的世界に突入、これはヤバいぞ、ヤバいぞ、と心の中でつぶやきつつ、拳を握りしめながら事の次第を見守ることとなる。もちろん乗組員たちの何人かは犠牲になるのだが、例えば船内に浮かぶ人物の口からゴボゴボッと出て来る血が大小の不定形な塊となって宙に漂うシーンや、生存者たちが無重力の船内を進んで逃げる際に、先に犠牲になったほかの乗組員の死骸が未だそこに浮いているシーンには、やはりそのリアリティによって、本能的な恐怖を掻き立てられたものである。だから本当にこの映画は怖い。そして、ストーリーが単純であればこそ、先の読めない展開に翻弄されてしまうのだ。ふとここで考えるのは、私の場合は題名によって本来パスすべきところを、内容をチェックしてから見ることにしたため、まだある程度の覚悟はできていたものの、その逆のケースはどうなるのかということだ。つまり、清く正しく美しい映画を好む人が、この題名だけを見て、これを清く正しく美しい映画だと勘違いして劇場に入った場合である。きっと驚きのあまり全身の毛は逆立ち、目は飛び出て、悶絶することであろう。それはまさにこの映画と同じくらい、怖い (笑)。

この映画はまた、出演している役者たちがよい。まずは、ジェイク・ギレンホール。様々な作品に出ていて、一度見たら忘れない顔だが、もうひとつ代表作と呼べるものがない (私が見ていない「ブロークバック・マウンテン」はきっと違うのだろうが) ように思う。ここでも少し特殊な役なのであるが、人生に対して少し投げやりな態度を示し、だが非常に真摯な情熱を持った人物像に仕上がっている。諦観とは表裏一体の、そこはかとないユーモアも見て取れる。この映画をこれからご覧になる方、是非彼の最後のセリフにおける、無限のニュアンスを聞いてみて頂きたい。それは、最高に悲劇的で、かつ最高に喜劇的なシーンなのである。なぜなら、人類の夢も未来も砕かれるなら、もう笑うしかないではないか。
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そして、レベッカ・ファーガソン。このブログで彼女の出演作をご紹介するのはこれで 3度目だが、スウェーデンの女優で、1作ごとに違った顔を見せてくれている。ここでは宇宙飛行士らしい凛とした強さを持ちながら、人間としての感情に溢れた難役を極めて印象深く演じていて素晴らしい。
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そして、ライアン・レイノルズ。言わずと知れた「デッドプール」の主役だが、その役にも通じる、軽口は叩くものの、いざというときには頼りになる役を演じている。ところで今調べて知ったことには、この人、一時期スカーレット・ヨハンソンと結婚していたらしい。
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それから、真田広之。もちろん、日本人の宇宙飛行士がいてもよいので自然な設定ではあるが、ここでもやはり、ハリウッド映画における「日本人」であることが前提の役で、それはつまり、寡黙で目立たないが、静かな情熱と家族への愛を持った人物ということなのである。その前提においては、なかなかよい演技を披露していると評価できるだろう。
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そして監督は、スウェーデン人のダニエル・エスピノーサ。このブログでは以前、トム・ハーディ主演の「チャイルド 44 森に消えた子供たち」をご紹介した。現在 40歳で、スウェーデン国外で国際的なキャストを使って撮った作品は、これがまだ 3作目。今回のような単純なストーリーを退屈せずに見せる手腕は大変なものだと思うので、今後も活躍の場を広げて行って欲しいものだ。
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この映画の大詰め、まさにこの異形で凶暴な地球外生命体が地球に到達するのか否かという瀬戸際の演出は、今思い出してもハラハラする。「ど、ど、どっちだ???」と叫びたくなるあの焦燥感。結末が分かっていても、もう一度見てみたい。それにしてもこの火星人カルヴィン、実に憎たらしいしグロテスクなのだが、実はちょっとかわいいところもあると思うのは私だけだろうか。そう、彼は必死に生き延びようとしているだけ。彼のライフにも、ほかの生物同様の尊い価値があるはずではないか。・・・とこう考えるだけで、既にブラックで怪奇で邪悪なものに毒されてしまっているのかもしれませんがね (笑)。

by yokohama7474 | 2017-07-24 21:48 | 映画