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エリアフ・インバル指揮 大阪フィル 2017年 7月28日 大阪・フェスティバルホール

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つい先だっての記事で、イスラエル出身、今年 81歳の名指揮者エリアフ・インバルが指揮する東京都交響楽団によるマーラーをご紹介し、世界有数のマーラー指揮者であるインバルのマーラーをまた聴きたい!! と絶唱 (?) したのであるが、そのチャンスは意外と早く巡ってきた。東京以外に本拠を置く日本のオケとしては有数の歴史と実力を誇る大阪フィルハーモニー交響楽団 (通称「大フィル」) が、その定期演奏会の指揮台にインバルを招き、しかもその曲目は以下の通りだ。
 マーラー : 交響曲第 6番イ短調「悲劇的」

大フィルの演奏会には以前からなかなか興味深い指揮者と曲目の組み合わせがあるので、聴いてみたいなぁと思うことが結構ある。だが、このオケの定期演奏会は木・金に行われており、週末はないのである。東京在住者としては、なかなか聴くチャンスがないのだ。だが。だがである。ちょっと待て。現在日本政府はライフ・ワーク・バランスに鑑みて、毎月最終金曜をプレミアム・フライデーと称して、早めに退社するように強く薦めているではないか。実際、私が日常的に関係のある省庁の人と 7/28 (金) の午後、打ち合わせをしようと打診すると、「その日はプレミアム・フライデーだからダメです」との回答。むむむ、そういうことなら話は簡単。15時過ぎの新幹線に乗って、一路大阪へ。かくして、インバルの指揮するマーラーをこの日本で再度楽しむことができた私は、本当に幸せ者なのである。ええっと、ここで白状すると、7/15 (土) に井上道義指揮大フィルの演奏会、バーンスタインのミサを聴いたときに、既にチケットを購入したものであった。ライフ・ワーク・バランスなら任せて欲しい (笑)。
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クラシック・ファンの方々には今更紹介するまでもなく、インバルは過去 30年以上に亘り、マーラー演奏の大家として揺るぎない地位を保っている。海外オケとの来日以外にも、NHK 交響楽団、読売日本交響楽団等といった在京オケとの顔合わせで精力的な演奏活動を日本でも繰り広げて来た。その中でも、2008年から 2014年までプリンシパル・コンダクター (日本語の意味は首席指揮者) を務めた東京都交響楽団との顔合わせは、数々のレコーディングもあり、世界に誇れるクオリティの演奏なのであるが、そのレパートリーの中心は、なんと言ってもマーラーである。それゆえに先日の交響詩「葬礼」と「大地の歌」の名演も、その流れの中にあった。指揮者にはいくつかのタイプがあり、活発に多くのオケとの共演を展開する人もいれば、気心の知れたオケと集中的に演奏に取り組む人もいる。インバルのキャリアを見ていると、基本的には後者であると思うのだが、それでも、80を超えてなお、新しいオケとの演奏を行っている点も驚異的なのである。そう、昨年 9月に初めて東京以外の日本のオケを指揮したインバルが、この大フィルとともに演奏した曲は、モーツァルト 25番とマーラー 5番。それから 1年を経ずして大フィルの指揮台に帰ってきたインバルは、やはりマーラーの大曲で勝負したのである。日本人のマーラー好きをよく知っているのであろうし、また日本でのマーラー演奏を楽しんでいるのであろうと思う。

先の都響との演奏会と同様、2本の指揮棒を持って現れたインバルは、いつものように譜面をめくりながらの指揮。冒頭の低弦は、少し呼吸が揃わないきらいがあったが、ズッズッズッと刻むリズムの重さは充分だ。今回のコンサートマスターは、大フィルの首席客演コンサートマスター、崔文洙 (チェ・ムンス) である。彼はまた新日本フィルのソロ・コンサートマスターでもあるのだが、今回の演奏では、まず第 1楽章のいわゆる「アルマの主題」を強く歌うところで、ほぼ中腰になって持てる力すべてをもってという様相を呈する演奏ぶりだ。つまり、中腰というか、ほぼ椅子から立ち上がりかかった姿勢での演奏であったのだ。その後も全曲を通して、全身全霊をもって大フィルの弦楽器をリードするという気概に圧倒された。素晴らしいコンマスなのである。
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今回の演奏、大フィルによる熱演であったことは間違いない。技術的なミスはほぼ皆無であった。だが。だがである。東京でしのぎを削るオケの数々においても、その音の充実感で東京一、つまり日本一を争う、あの都響を聴いた後では、さすがに分が悪いことを否定できない。どこがどうというのは難しいのだが、全体的に、私がよく使う言葉で言えば、音の緊密さを少し欠いていたように思うのである。もちろん、例えば今から 20年前なら日本のどこのオケでもフゥフゥ言いながら演奏していたこのとてつもない難曲を、技術的な破綻なく通して演奏するだけでも大変なもの。なので私は大フィルの健闘には拍手を送りたいのであるが、都響と比べて云々という評価方法にはひとつの意義があって、つまりは日本のオケ全体のレヴェルが、過去 20年間の間に急速に上がってきているということなのである。それゆえ、終演後のインバルはここでもまた、満足そうな表情を浮かべていた。実は今回インバルは、第 1楽章と第 2楽章、そして第 3楽章と第 4楽章 (ちなみに、第 2楽章と第 3楽章の順番は、伝統的な順番、つまりはスケルツォ - アンダンテ) の間をほとんど空けずに、いわゆるアタッカで演奏した。私が過去に何度か経験したこの指揮者のマーラー 6番ではどうだったか、にわかには思い出せないが、ここで勝手な推測を述べてしまうと、インバルの意図は、オケの集中力を途切れさせることなく、全曲をひとつの大きな弧として連続性をもって表現することで、音の緊密さを少しでも高めようとしたものではないか。弦はもっともっと歌ってもよい。金管はもっともっと炸裂してもよい。そして木管は、もっともっと目立ってもよい。そのようなインバルの思いが伝わってくるような指揮ぶりであったと思う。

繰り返しだが、私は今回の演奏を充分に堪能した。だがその上で、東京以外のオケの雄である大フィルには、まだまだ上を目指すことができると思うがゆえに、率直な感想を書いてみた。私は、オーケストラ音楽のいちファンとして常々思うことには、地方オケをもっともっと聴いてみたい。東京のオケの地位を脅かすような、充実の演奏を期待したいものだ。この大フィルに関して言えば、現在の井上道義体制から来年発足する尾高忠明体制に向けて、さらに意欲的な演奏を行っていって欲しいものだ。以前も書いたが、この中の島のフェスティバルホールは、キャパが大きい割には音響がよい。もちろん、大阪にはまた、素晴らしい音響のザ・シンフォニーホールもあって、音楽的な環境は既に贅沢なほど整っているのである。これがフェスティバルホールでの大フィルの演奏風景。
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今後の大フィルのスケジュールを見ていると、面白そうな演奏会がいくつかある。東京から聴きに行くのは決して楽ではないが、願わくばまたプレミアム・フライデーの恩恵をこうむって、素晴らしい演奏会を大阪で体験してみたい。

by yokohama7474 | 2017-07-29 23:11 | 音楽 (Live)