川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ (ジョン・リー・ハンコック監督 / 原題 : The Founder)

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ファウンダーとはもちろん、創設者のこと。このポスターを見るに、どうやらあのハンバーガーショップ、マクドナルドの創設者の話らしい。・・・と思った瞬間にあなたは既に映画の作り手のペースにはまっている。邦題によると、そこには何か「ヒミツ」があるらしい。そもそも日本で「マクドナルド」と平坦なイントネーション、強いて言えば「マ」に若干の、「ナ」に明確なアクセントがある発音で呼ばれるこのハンバーガーショップ、英語でそのまま発音しても英米人には通じない (もちろん、関西で使われる「毎度」と同じ発音による「マクド」という名称では、絶対に通じない。笑)。英語では、「ド」の音に強いアクセントがあり、強いて日本語表記すれば、「マクッ、ドーーウナルズ」となるのである。それはそのはず、店名の英語の綴りは "McDonald's" である。これは、マクドナルドという苗字の人たちが、自分たちの苗字に因んだ店名としてつけたもの。因みにこの Mac または Mc という最初の音は、スコットランド系の名前において、"son of" (= ~の息子) を意味し、発音する際には決してそこにアクセントが来ることはない。この名前、なんとかバーガーという店に比べると、やはり何か印象に残るものがある。また、日本で (これまで営業上の浮沈はあったものの) 放課後の高校生たちも気軽に利用し、青春の舞台ともなるマクドナルドの店舗は、現代の米国ではちょっと雰囲気が違っていて、場所と時間帯によってはちょっと怖いくらいの荒れた感じのところもある。ともあれ、米国のファーストフード (最近時々使われる「ファストフード」という言葉には大変違和感ある。英語でも "fast" の発音は普通は「ファースト」だ) の文字通り代名詞であり、全世界の店舗数は実に 35,000 を超えるらしい。まさに一大ハンバーガー帝国。そのファウンダーとはいかなる人であり、どのようにしてこの大帝国を築いたのであるかを描いたのがこの映画である。

いや、もう一度ここで明らかにしておこう。ここでファウンダーを自称しているのは、もともとミキサーのセールスマンであったレイ・クロックという人 (1902 - 1984) である。おや、ファウンダーの名は、マクドナルドさんではないのだな。そう、マクドナルドはもともと、カリフォルニアの砂漠地帯にあるサンバーナーディーノという街で、マックとディックというマクドナルド兄弟が始めた店を、このレイ・クロックがフランチャイズ化したもの。ということは、映画の題名にまでことさらに創業者であることが主張されているものの、その内実は、他人の作り出したものを広めたというに過ぎない。いや、「過ぎない」というにはあまりに巨大な業績を残した人なのである。その手腕、人間性なところと非人間的なところ、また彼が一大帝国を作り上げて行く様子を、非常に冴えた演出で見せてくれるのが、この映画なのだ。主演は、かつてのバットマン役であり、最近ではなんといっても「バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡)」でのパンツ姿の熱演 (笑) が記憶に新しい、マイケル・キートン。これが彼の演じるところのレイ・クロックと、本物のレイ・クロックの写真。映画の役柄の方が、本物よりも少し賑やかな人間像になっているのかもしれない。
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まず何より、マイケル・キートンの演技を絶賛する必要があるだろう。ここでの実業家レイ・クロックの姿を見て、人はどう思うであろうか。自分の意志を貫く情熱家。目的のためには手段を選ばない冷徹な人間。冴えない中年男のようで、意外にもピアノの腕前が達者で、色恋沙汰にも無縁でない人物。そして、成功してもどこか憎めないところのある男。これらをすべて満たす複雑な人間像は、マイケル・キートンが演じているからこそ、十全に描き出されていると言ってもよいだろう。上記の通り、もしかすると実在のレイ・クロックは、もう少し面白みのない人間であったのかもしれない。あとで知ったことにはこのレイ・クロックは、現代日本を代表する実業家である孫正義や柳井正も尊敬するビジネスマンであるらしい。合理性と勤勉によってあれだけの大成功を収めた人であるから、そのビジネスのやり方には学ぶべきところが多々あるのであろう。最近の実話をもとにした映画ではしばしばそうである通り、この映画においても、末尾の部分で実在の人物の語る様子や、映画で描かれた時代のあとどのような人生を歩んだかが紹介される。そこでレイ本人の語る言葉の印象には、それほど面白みはないように思う。だからこの映画は、実話だから面白いということよりも、まずは役者の演技が素晴らしいから面白いと言ってもよいのではないだろうか。実際、米国の辣腕ビジネスマンのやり方を評して、血も涙もないと非難しても、あまり意味がない。というのは、そんなこと当たり前なのである。逆の言い方をすれば、ビジネスにおいて冷徹であっても、人間としては必ずしも血も涙もないということもないケースがあることだ。そして面白いのは、ビジネスで大きな成功を収めるためには、本人の才覚に加えて、いろいろな幸運に恵まれる必要があり、有能なスタッフも、いつどこでどんな偶然で現れるか分からないということ。この映画ではそのようなビジネスの世界の機微、そして人生の機微が大変うまく表現されている。監督であるジョン・リー・ハンコックの手腕が大いに冴えている。
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この監督は今年 60歳。もともと弁護士であるらしく、その風貌からも知性が読み取れるが、脚本家として頭角を現し、監督作としても「オールド・ルーキー」「アラモ」「しあわせの隠れ場所」等があるが、なんと言っても素晴らしいのは、「ウォルト・ディズニーの約束」である。エマ・トンプソンやトム・ハンクスが出演したこの映画、ミュージカル「メリーポピンズ」映画化の内幕を描いたものであったが、本当に素晴らしい作品であった。恥ずかしながら、普段は滅多にないことなのだが、この作品を劇場で見た私は、ボロボロ泣いてしまったことを白状しよう。今回の「ファウンダー」では泣きはしないものの、そのスピーディかつ要領を得た演出には完全に脱帽である。

マイケル・キートン以外の役者も、それぞれに個性的で素晴らしい。妻役のローラ・ダーンは久しぶりに見るが、うーん、昔のデヴィッド・リンチ映画に出ていた頃からすると、さすがに年齢を重ねたなぁという思いは禁じ得ない。
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印象的なシーンは幾つもあるが、やはり忘れがたいのは、終盤でマクドナルド兄弟の片割れとトイレであったときに彼の語る言葉。マクドナルドには、ほかのレストランにない絶対の強みがあると主張するレイ・クロック。それが一体何であるのか、ここで明らかにするのは避けるが、私などは、なるほどそうかと思ったものである。優れたビジネスマンの持つ、一種のインスピレーションのようなものが、いかに重要か。そしてまた、彼はそのインスピレーションを信じることで、誰も成し遂げたことのないことをやってのけた。それこそ "persistence"、忍耐の賜物なのである。忍耐なくしては、このような成功はあり得ない。
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そうして、この映画を見たあとは、日本式な「マクドナルド」ではなく、「マクッ、ドーーウナルズ」と、English - American な名前を口に出してみよう。もしかすると目の前に何か新たな人生のヒントが現れるかもしれない。そんなことを考えさせてくれる映画でした。

by yokohama7474 | 2017-08-26 02:06 | 映画 | Comments(0)
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