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サントリーホール 2017 リニューアル記念 Re オープニングコンサート ジュゼッペ・サバティーニ指揮 東京交響楽団ほか 2017年 9月 1日 サントリーホール

サントリーホール 2017 リニューアル記念 Re オープニングコンサート ジュゼッペ・サバティーニ指揮 東京交響楽団ほか 2017年 9月 1日 サントリーホール_e0345320_23144288.jpg
さて、9月である。東京でも音楽シーズンが再開する。これから秋にかけて、今年もまた東京の音楽シーンは、それはそれは大変なものになるのであるが、それはおいおい、できる限りこのブログで実況中継させて頂くとして、何よりも東京のクラシックファンにとっての朗報は、サントリーホールのリニューアル・オープンである。このブログでもご紹介した通り、昨年 10月にオープン 30周年を祝ったのち、今年 1月末をもって本格的な演奏会は一旦打ち止めとなり、まる 7ヶ月の間、改修のために閉鎖されていたサントリーホール。もちろん東京にはほかにもよいホールは幾つもあり、ここが休館の間も音楽シーズンは続いて行ったのであるが、やはりこのホールは東京で No. 1 であり、世界的に見ても今や名ホールの仲間入りを果たしていると言ってよいと思う。そう、このようなワインヤード式としては日本初のコンサートホールであったこのサントリーホール、その待ちに待ったリオープンである!!
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今回の演奏会は、通常よりも 1時間早い 18時の開演。例によって台風接近中のため大気が不安定な中、会場に辿り着いてみると、さほど華美すぎないものの、このような垂れ幕と、入り口に据えられた美しい花が、久しぶりの来訪者たちを快く迎え入れてくれる。
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7ヶ月もの改修を経て、サントリーホールはどのように変わったのであろうか。な、なんと、あの複雑なワインヤード形式のホールが、あろうことか、なんとなんと、単純な形状のシューボックス形式に変えられていた!! ・・・という驚愕の出来事は起こらず (驚かれた方、すみません。真面目にやります)、ホールの中は特に変わったところはない。ざっと中を歩いてみて気づいたのは、以前はポスターが貼ってあった 1階と 2階の掲示板が縦長の電光表示になっていて、時間とともに宣伝されるコンサートが変わっていたこと。また、新たに横長のモニタースクリーンが設置されていたこと (今回は、この 11月にボストン交響楽団と来日する、髭を生やしたアンドリス・ネルソンスのインタビュー映像が流れていた)。それから、1階のホワイエからホール自体のドアに向かう数段の階段の左手に、車椅子用のスロープが設置されたこと。そして、一般利用者にはこれが最も影響あるだろうが、2階のトイレが改修されたこと。このホールの 2階は、エスカレーターや階段で上がってきてすぐ右手に女性トイレ、その左隣が男性トイレであったところ、以前の男性トイレの入り口が女性トイレの出口になっており、男性トイレはその奥、RB ブロックの入り口扉の前あたりに新設されている。これにより休憩時間の長蛇の列は男女でうまく分散されることになった。そして私は男性であるからして、もちろん男性トイレを使用したのであるが、恐らく便器の数は増えたものと思われるが、敷地面積は少し減ったようで、若干せせこましい。だがひとつ明らかな改善点があり、それは、列をなす人たちのスペースが手洗い場を邪魔しないことだ。よい工夫である。

さて、トイレの話はこの程度にして (笑)、今回の記念すべきリニューアル・オープンの内容をご紹介しよう。まずメインは、往年の (といってもほんの 10年前まで活躍していた) イタリアの名テノール歌手、ジュゼッペ・サバティーニが指揮をする東京交響楽団 (通称「東響」) による、ロッシーニのミサ・ソレムニス (荘厳ミサ曲)。これは、もともと「小荘厳ミサ曲」と題されたオリジナル編成、つまりは合唱、独唱をピアノ 2台とハルモニウム (オルガンの一種) が伴奏する形態を、作曲者自身が大管弦楽伴奏に編曲したもの。しかも今回は、2013年に出版されたロッシーニ全集版の日本初演である。これがサバティーニ。あの青山の有名レストランのオーナーとは親戚だと以前聞いた記憶があるが、再確認しておりません。尚、サントリーホールとは、かなり以前からホールオペラという試み (セミナーを含む) を率いるなど、深い関係がある。
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私は思うのであるが、この名ホールの再開を記念するコンサートが、このような比較的地味な内容であることに、文化都市としての東京の成熟を見ることができないだろうか。これは、音楽の本当に高度な喜びを見出すことができる、素晴らしい企画である。今回は、ホール入り口からすぐの場所に、サントリーホール館長であるチェリストの堤剛がタキシードを着て立っていて、夫人同伴で、知り合いの来訪者の人たちに丁重な挨拶をしていたのが印象的であった。

さて、ロッシーニの「小荘厳ミサ曲」である。以前もこのブログで触れた記憶があるが、私にとっては、1981年にミラノ・スカラ座が初来日した際に、カルロス・クライバーとクラウディオ・アバド率いるオペラ公演とは別に開かれた、合唱指揮者ロマーノ・ガンドルフィ指揮によるスカラ座管弦楽団の演奏で、初めて耳にした曲。もちろんその頃私は高校生であり、実際のステージに触れることはできなかったが、この曲を含むすべての演目 (アバド指揮のヴェルディのレクイエムも含めて) が FM で生放送され、テレビでも放送されたのである。このロッシーニの曲は、その斬新な音響がまるでストラヴィンスキーのようだという評価を当時耳にしており、興味を持って聴いたところ、確かに、彼のオペラにおけるいわゆる「ロッシーニ・クレッシェンド」の、あの快活な疾走感のある音楽とは全く違う内容であったことに驚いたものだ。それ以来、実演に触れることは久しくなかったはず。だが、CD なら同じガンドルフィ指揮による録音も持っているし、脳髄の奥底で、確か誰かの演奏で生で聴いたはず・・・という思いが疼いている。あたりをつけて調べたところ、すぐに見つけることができたのは、2008年 11月にロンドンのバービカン・ホールで開かれたリッカルド・シャイー指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の演奏会のプログラムである。そうでしたそうでした。それは聴きましたよ。ただ、それ以外の実演の記憶はなく、今回は本当に貴重な機会であったのである。ジョアッキーノ・ロッシーニ (1792 - 1868) はイタリア人だが、若くしてオペラの作曲はやめてしまい、晩年はパリに住んだ。さすが美的センス随一の大都会パリというべきか、彼の肖像写真が残っている。
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久しぶりの実演で聴くこの曲は、やはり実に斬新な音で満ちており、快活なロッシーニの音楽とは別物である以上に、いわゆる 19世紀の宗教音楽というイメージからもほど遠い。この曲の管弦楽版の編曲は、ロッシーニ最晩年の 1866年から 1868年にかけて行われ、そしてこの大作曲家は、その完成後間もない 1868年の 11月に死去するのである。管弦楽版編曲の動機が振るっている。「自分の死後、サックス (当時発明されて間もない楽器、サキソフォンの発明者) やベルリオーズが騒々しい編曲をすると困るから」ということ。なるほど、皮肉屋のロッシーニらしい。調べてみるとベルリオーズはロッシーニよりも 11歳下の 1803年生まれ。だがロッシーニ死去の翌年、1869年に世を去っているから、このミサ曲の勝手な編曲をしている時間は、どのみちなかったことにはなるが。

さて今回の演奏は、さすが名歌手サバティーニの指揮だけあって、大変に細かい詩情まで丁寧に描き出した素晴らしいものであったと思う。その流れには常に音楽への情熱が感じられ、これは演奏者のものであると同時に、作曲家のものでもあったと感じることができた。合唱がアカペラで歌う場面も多くあるかと思えば、ソプラノとアルトがオペラ風に抒情的なメロディを歌いあげることもあり、またいくつかの曲の終結部は、なにやらプッツリ切れるなど、90分の演奏時間の中のそこここに、様々な音楽的情景がちりばめられている。皮肉屋ロッシーニが晩年に見ていた世界は、古典派の均整のとれた秩序あるものではなく、このようにいびつで謎めいたものだったのであろう。サバティーニは、上にも名前が出て来たリッカルド・シャイーが 1993年に当時の手兵ボローニャ歌劇場管を指揮してこの曲を録音した際に、そのテノールパートを歌っていたらしい。つまりは自家薬籠中の作品ということになろう。今回はかなり音響のコントロールに神経を使っている様子であったが、東響はその意図をよく汲み取り、広がりのある音で充実した演奏を繰り広げたのである。合唱団は、東京混声合唱団と、このサントリーホールでの育成プログラムのひとつである、サントリーホール・オペラ・アカデミーの共演。相当に鍛錬された声を披露しており、これまた聴きごたえ充分であった。そして、ソリストは以下の通り。
 ソプラノ : 吉田珠代
 アルト : ソニア・プリーナ
 テノール : ジョン・健・ヌッツォ
 バス : ルベン・アモレッティ

それぞれに活躍する多彩な顔ぶれ。特にアルトのソニア・プリーナは、髪形も衣装も個性的で、かつ素晴らしい表現力の声であると思った。
サントリーホール 2017 リニューアル記念 Re オープニングコンサート ジュゼッペ・サバティーニ指揮 東京交響楽団ほか 2017年 9月 1日 サントリーホール_e0345320_00524310.jpg
それから、終盤に登場する、ある種異様なオルガンソロを弾いたのは、イタリアの若手オルガン奏者、ダヴィデ・マリアーノ。実は彼はこのコンサートの前半にも登場していた。そこで彼は、東京佼成ウィンドオーケストラの選抜メンバーである TKWO 祝祭アンサンブルの面々と共演し、ガブリエーリやバッハを演奏。また、オルガン・ソロではヴィドールやデュリュフレといった、この楽器ゆかりの作曲家の曲を演奏していた。また、TKWO 祝祭アンサンブルは、このサントリーホールのリオープンを祝して、上記の曲に加え、ヨハン・シュトラウスのワルツ「美しき青きドナウ」も演奏した。全体としては楽しい演奏であったが、ブラスアンサンブルとしては、さらに鋭くスリリングなやりとりがあってもよかったような気がする。

このように、大変に興味深いコンサートであり、今後このホールで展開する目くるめく音楽の世界に対する期待感を高めることができた。だが、今回少し驚くようなことが、しかも立て続けに 2回起こったので、ここに記しておこう。まず最初のトラブルは、前半のブラスアンサンブルの演奏が終わり、10名のメンバーがカーテンコール時に袖からステージに出て来たときに起こった。ブラスアンサンブルであるから、トランペットやトロンボーンやホルンに加え、チューバ奏者がいるのだが、通常チューバほど重い楽器を持ってステージと楽屋を往復することは少ないだろう。なにせこんなに大きい楽器なのであるから。
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だが今回はその、楽器を持ったままでの移動が、災難を巻き起こした。つまり、ステージに再登場したメンバーのうち、チューバ奏者が歩いている途中でバランスを崩し、かわいそうなことに、ステージに激しく倒れてしまったのである。客席からは悲鳴があがり、拍手もその転倒の際には止まってしまったのであるが、奏者が立ち上がると、励ましの意味を込めて、勢いよく再開した。私は舞台に向かって右側の RA ブロックにいて、その様子がよく見えたのだが、チューバ奏者がバランスを崩し、楽器の重さに引っ張られながらオットットと懸命にバランスを取り戻そうとしたときに、足が滑ってしまったのである。床を見ると、改修前はかなり年季の入った、ある意味ではこのホールの過去 30年の栄光の歴史を示すような、色のくすみやデコボコのある床であったものが、きれいな表面に変えられていた。つまり今回災難に遭われたチューバ奏者の方は、ピカピカツルツルの新しい床に、文字通り足元をすくわれたわけである。だが私は見逃さなかった。この奏者は倒れながらも楽器をかばい、自分の体を床に叩きつけることで、楽器の破損を防いだことを。これぞプロ魂。腕に負傷されていないことを祈ります。

もうひとつのトラブルは休憩時間に起こった。自席でプログラムの解説に目を通していた私は、近くの女性の悲鳴に顔を上げた。すると、ちょうどステージを挟んで反対側の LA ブロックで、初老かと思われる小柄な女性が、なんとなんと、階段を何段も、横になってクルクルともんどり打って転げ落ちるという衝撃的なシーンを目撃したのだ。すぐに周りの人たちや係員が駆け付けたが、女性係員が男性係員を呼びに走って不在になったときには、何やら怒号も飛んでいた。これは本当に危ないことである。これまでに何度となく通っているこのホールにおいて、私はこれまでこのような激しい転倒のシーンは見たことがなかった (横浜みなとみらいホールで、階段で足を滑らせた女性が勢いよく階段を駆け下りることになり、腹で手すりに激突した場面は見たことがあったが)。だが確かによく見ると、LA ブロックと RA ブロックの階段は、かなり急勾配なのである。一定の年齢以上の方は、本当に気を付けて、手すりを持ちながら昇降しなければいけないと改めて思った。転送した女性はしばらくしてスタッフに連れられて自力で歩いて退場されたが、結局、メインのロッシーニは聴けなかったようだ。本当に、大事ないことを祈りばかりである。

このような、コンサートの内容以外で波乱含みのサントリーホールのリオープンであったが、やはり演奏者も聴衆も、くれぐれも事故のない楽しいコンサートにしたいものです。災難に遭われた方々、何卒お大事に。

by yokohama7474 | 2017-09-02 01:26 | 音楽 (Live)