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パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK 交響楽団 2017年 9月16日 NHK ホール

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快進撃を続けるパーヴォ・ヤルヴィと NHK 交響楽団 (通称「N 響」) であるが、先に採り上げた NHK 音楽祭での「ドン・ジョヴァンニ」に続き、定期演奏会の 3プログラムに臨む。今回その最初の A プログラムで演奏されたのは、ショスタコーヴィチの交響曲第 7番ハ長調作品60「レニングラード」である。この曲が初演されたのは独ソ戦の真っただ中、1942年である。ナチス・ドイツによる言語に絶する壮絶なレニングラード (現サンクト・ペテルブルグ) の封鎖によって疲弊した人々を鼓舞し、人道的見地から、欧米でも争うように演奏されることになった大作交響曲。このブログの過去の記事では、2016年 6月 3日の、ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクト・ペテルブルグ・フィルによるこの曲の凄絶な演奏を採り上げ、私が読んだレニングラード封鎖についての本もご紹介した。この曲が書かれた背景についてはその記事に譲るが、人類が犯してきた愚行の中でも、このレニングラード封鎖は実に鳥肌立つような悲惨な出来事であり、この交響曲を考えるに当たっては、いかに音楽のみ虚心坦懐に楽しもうと思っても、それはなかなかできない相談なのである。

今回の演奏の、練習場でのリハーサル写真はこれである。
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おや、何やらコンサートマスターを務めているのは、モジャモジャ頭の外人のようである。そう、今回の客演コンサートマスターは、1992年以来ミュンヘン・フィルのコンマスを務めるロレンツ・ナストゥリカ=ヘルシュコヴィチ。大変に長い名前で、なかなか覚えられないが、1992年以来ということは、チェリビダッケ時代からのミュンヘン・フィルのコンマスなのである。
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ステージを見渡すと、弦楽器はコントラバス 10本の大編成で、金管の別動隊 (トランペット 3、ホルン 4、トロンボーン 3) は、舞台いちばん奥の、打楽器群の後ろに位置している。これはティンパニ奏者にとっては、かなり苦痛だったのではないか (笑)。ともあれこの大編成によるショスタコーヴィチ 7番の演奏、事前に自分の中であらかじめ音のイメージがあった。長身のヤルヴィが背筋をピンと張り詰め、その長い両腕を前に伸ばしてタクトを一閃すると、いきなり重々しい音楽が、強い推進力をもって鳴り始める・・・。そして実際に響いてきた音は、事前にイメージした通りの、見事に密度の高いものであったのだ。80分に及ぶこの大曲には様々な聴かせどころがあって、最強音から最弱音まで、隅々まで張り詰めた音で表現する必要があるのだが、さすがにヤルヴィと N 響である。それぞれの音楽的情景の説得力には、間然するところがない。曲の冒頭から終結まで、大きな太い一本の棒であるかのような雄渾さ。細部について語る気がしないのである。特に弦楽器の強い集中力は圧巻で、全曲の終結部では客演コンマスのナストゥリカ=ヘルシュコヴィチはほとんど席から立ち上がり、渾身の力を込めて音を炸裂させた。オーケストラ音楽の醍醐味ここに極まれりと言いたくなるような水準の演奏であった。

ふと思い立って、私の手元にあるこの曲の初期の西側での録音を再確認することとした。以下左から、セルジュ・チェリビダッケ指揮ベルリン・フィル (1946年)、アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC 交響楽団 (1942年 7月)、レオポルド・ストコフスキー指揮 NBC 交響楽団 (1942年12月) である。
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この曲の西側初演が、トスカニーニ、ストコフスキーと、セルゲイ・クーセヴィツキーの 3者で争われたことはよく知られている。それだけ、ドイツに苦しめられている連合国の一員、ソ連に対する人道的な面での同情があったということだろう。戦後すぐに、ソ連を苦しめた当事者であるドイツを代表するベルリン・フィルがこの曲を演奏したというのも大変に興味深い (ライヴではなくスタジオ録音である)。実は日本初演も意外に早く、1950年に上田仁指揮東宝交響楽団によってなされている。今、平和な日本でこのショスタコーヴィチの 7番がこのようなクオリティで壮大に鳴り響いていることには大変に価値があることは、間違いない。その一方で、歴史を知ることで純粋に音楽以外の要素を考えることも、たまにはよいかもしれない。私の手元にはまた、この曲の誕生を描いたこんな本もある。実は数年前に買ったまま、未だ読んでいないのであるが、そのうち時間を見つけて読むこととしたい。愚かなことをするのも人間なら、尊いことができるのも人間。歴史から学ぶことは無限にある。
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by yokohama7474 | 2017-09-17 02:07 | 音楽 (Live)