川沿いのラプソディ


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キリル・ペトレンコ指揮 バイエルン国立管弦楽団 (ピアノ : イゴール・レヴィット) 2017年 9月17日 東京文化会館

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通常このブログでコンサートを採り上げるときには大抵、そのコンサートのチラシやポスターを冒頭に利用させてもらうのであるが、今回はそれが思うようにできない。というのも、一応チラシはあるにはあるが、このようなモノクロの地味なものなのである。
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これは、都民劇場という音楽サークルの主催によるコンサートであり、シリーズ券のほかに一回券も発売されたわけであるが、ご覧の通りあまり派手な宣伝にはならなかった。だがなんのことはない、会場に足を運んでみると完売御礼だ。その盛況の理由のほとんどは、冒頭に写真を掲げた指揮者にあるだろう。クラシックファンは先刻ご承知であろうが、このブログのポリシーに従って、一般の方でも分かるように説明すると、この 1972年生まれのロシア人指揮者、キリル・ペトレンコは、2018年からサイモン・ラトルの後任としてベルリン・フィルの首席指揮者・芸術監督に就任するのである。ベルリン・フィルの首席とは、音楽界広しと言えども、オーケストラのポジションとしては文字通り、世界に冠絶する最高のもの。今から 2年前の 2015年に決定したものだが、確かにペトレンコの名前は候補者のひとりに挙がっていたものの、何分録音も少ないし、日本に来たこともないので、私なども全くイメージがなく、全く想定もしていなかった。それゆえ、楽員による 2度の投票を経て彼が選ばれたのを知って、本当に驚いたものである。今回彼は、現在音楽総監督を務めるドイツ有数の名門オペラハウスであるバイエルン国立歌劇場 (ミュンヘン・オペラ) との公演で、初来日に臨むわけであるが、彼の指揮するワーグナーの「タンホイザー」は、9/21 (木) を初日として3回の上演。それ以外にアッシャー・フィッシュの指揮するモーツァルトの「魔笛」が 4回あるが、それら一連のオペラ公演の前と後に 1回ずつ、オーケストラコンサートが開かれる。今回私が出かけたのは最初のもの。つまり、記念すべきペトレンコの、日本での初めてのコンサートということになる。そして、曲目がまたすごい。
 ラフマニノフ : パガニーニの主題による変奏曲 (ピアノ : イゴール・レヴィット)
 マーラー : 交響曲第 5番嬰ハ短調

つい先日も、上岡敏之指揮の新日本フィルのユニークな演奏を聴いたばかりのマーラー 5番は、私を含めたマーラー・ファンが皆大好きな、マーラーらしさが随所に溢れた傑作であり、ペトレンコの手腕を聴くには最高の曲目だろう。私自身は、このブログの初期に書いた通り、2015年のバイロイト祝祭音楽祭で「ニーベルングの指環」全 4部作という巨大な作品をペトレンコの指揮で聴いており、彼の音のイメージはそれなりにあるが、実際、録音でも実演でも、彼のシンフォニーは聴いたことがないので、本当に今回は楽しみな機会なのであった。尚、このオケの表記はドイツ語で Bayerisches Staatsorchester で、日本語ではバイエルン国立管弦楽団という名称が一般的だ。ベルリンやドレスデンのように、シュターツカペレという名称ではないが、同じオペラハウスのオーケストラである。因みにこれが、2015年、ベルリン・フィルとの契約にサインするペトレンコ。
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さて今回の演奏会、期待通り大変充実した内容であったのであるが、ペトレンコの前に今回もまた、素晴らしいピアニストとの邂逅があったことを喜びたい。彼の名はイゴール・レヴィット。1987年生まれのロシア人。ちょうど 2日前も、同じロシアの素晴らしい若手ピアニスト、ダニール・トリフォノフを聴いたばかりであったが、このレヴィットは彼より 4歳上、今年 30歳の若手である。コンクール歴を見るとトリフォノフほど派手ではないものの、既にベルリン・フィル、バイエルン放送響、シュターツカペレ・ドレスデン、ロンドン響、クリーヴランド管など、数々の名門オケと共演しているという実績の持ち主。
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彼が今回弾いたのは、たまたま先日の読響のコンサートでトリフォノフの CD を購入して聴いたばかりの、ラフマニノフのパガニーニの主題による変奏曲だ。録音と実演の違いこそあれ、たまたまロシアのこれら俊英ピアニストの聴き比べになったが、私の印象では、トリフォノフは大玉の水晶のようなキラキラした音を奏でるのに対し、レヴィットの音はもう少し小粒で、光をより複雑に反射する。より情緒があると言ってもよいかもしれない。細部まで彫琢されたその音の進みには常にドラマがあって、ともすれば有名な第 18変奏 (今回も実に美しい!!) 以外は退屈しがちなこの曲を、大変に面白く聴かせてくれる。そしてペトレンコの指揮も最初から丁寧に音の流れを作り出す姿勢が明確で、冒頭間もない箇所での木管楽器のフレーズを、片手をヒョロヒョロと上げて表情豊かに導くなど、その音楽の特性が早くも見えたのである。その意味で、この指揮者とこのピアニストは、ともにロシア出身ということを除いても、曲の持つ情緒の表現という点において、類似したものがあるように思った。そしてラフマニノフの演奏終了後、カーテンコールを経て、レヴィットがピアノの前で集中してから弾き出したアンコールは、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の終曲、「愛の死」であった。その繊細かつ怪しく燃える情緒の表現には舌を巻いた。そう、その点でも、プロコフィエフをバリバリ弾くタイプのトリフォノフとは、よい対照をなしていたと言えるであろう。

メインのマーラー 5番は、これまた大変な力演。バイロイトの「指環」体験で感じた彼の音楽の推進力はここでも全開であり、ヴァイオリンを左右対抗配置とし、きっちりと譜面を見、指揮棒を持っての指揮だが、スコアに書いてある音が太字で次々と宙に浮かんでくるような印象と言えばよいだろうか。ペトレンコは小柄な人なのであるが、まさに全身で音楽を奏でるタイプの指揮者であり、出て来る音楽は実にスケールが大きい。個々の場面では奇をてらったところは全くないが、それでいてどの部分も説得力が強い。例えばこの曲の第 2楽章のコーダ手前の盛り上がりは、実は全曲の大団円である第 5楽章の終結部手前と同じ音楽であり、暗い中から突然日の光が差して、勝利の凱歌が響こうとするところで、また闇に戻ってしまい、光は一旦閉ざされてしまうという風情なのだが、今回の演奏ほど、その第 2楽章での盛り上がりが強く強調されたことはあまりないだろう。これはつまり、音楽の彫琢方法として、葛藤は乗り越えられる、だがそれは今ここではなく、さらに試練を経てからだという曲のメッセージを伝えるには有効な方法であると思う。それはほんの一例で、ほかにも、マーラーが書いた複雑な音の絡みの数々を、骨太なリードで見事な劇性を持って描いてみせた。このオケの音は、ウィーン・フィルとかシュターツカペレ・ドレスデンなどとは違って、幾分硬いと言えるような気がするが、それがプラスに作用し、ペトレンコの忙しい指示に必死に食らいつくオケの音たちは、凝縮力があって見事であった。だから聴き終わったときの満足感はもちろん大変なものであったのだが、もしあえて難点を探すとすると、ちょっと聴き疲れたかなということか。場面によってはもっと遊びがあってもよいとは思ったのである。これだけ力強く明晰な音楽を聴けるのは稀有なこととは思いつつも、盛大な拍手に応えるペトレンコを見ながら、早くベルリン・フィルとのフランス音楽なども聴きたいなぁと思ったことである。欲張りすぎか ? (笑)
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さて今回の会場には、バイエルン国立歌劇場自身で用意したとおぼしい日本語の小冊子が置いてある。よく海外の観光名所で、写真入りのローカルな案内書を売っていて、私はその種の本が大好きなのであるが、翻訳の問題で、日本語版には意味不明な内容が多々ある点も、愛嬌である (笑)。今回の小冊子は、活字などちょっとそんな雰囲気で手作り感満載。ペトレンコのコメントも載っている。
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いわく、ラフマニノフは常に身近にある作曲家で、自身もピアニストとして勉強していた 12歳のときにこの作曲家の「音の絵」を好んで弾いていたし、ピアノ協奏曲も何度も聴いていたとのこと。今回採り上げる「パガニーニの主題による変奏曲」も好きで、レヴィットとともに新しい解釈を提示することに、心引き締まる思いであるとのこと。一方のマーラーについては、この 5番には声楽は使われていないが、周到に考えられた多声音楽の様式である。作曲者自身、新しい様式は新しい技術を必要とすると語っている通りで、声楽を使ったり、音以外の情景を表現することの多い 1番から 4番までとは異なる、「楽曲の性格や印象を包括した交響曲の傑作です」とある。うーん、最後の部分は、まさにローカルの観光名所案内のように、分かりにくい日本語だが (笑)、言わんとすることは分かるような気がする。視覚に訴える情景や、文章によって表現される情緒ではない、マーラーとして初めて取り組んだ純器楽の交響曲ということだろう。だから私のように、情景によって音楽をたとえることは、本当は控えなければならないのだろうが、いずれにせよ、説得力のある音楽だけが聴き手に様々な印象を与えるのであるから、それはそれでよいと思うこととする。45歳にして世界のトップに躍り出たこの指揮者の今後に期待したい。

by yokohama7474 | 2017-09-18 02:39 | 音楽 (Live) | Comments(4)
Commented by 吉村 at 2017-09-18 22:09 x
レヴィットの演奏、本当に良かったですね。ロシアの人材の厚さには驚かされます。ソビエトの音楽教育の体制がまだ保たれている、ということなんでしょうか。
マーラー5番の第二楽章、盛り上がりに驚きました。また、第三楽章も丁寧に振り抜いていて、ペトレンコという人の集中力の高さと持続性には感服します。
このことは今日観て来たタンホイザーの公開練習でも言えていて、第一幕を2時間かけて丹念に修正したり、色付けしたりしていました。
ネタバレは避けますが(もうご存知でかもしれませんが)、決してNHKでは放送できないような演出でして、オペラ演出の現代性というものを大切にするといろんな展開があるということを改めて考えていました。均整のとれた美しさとグロさのコントラストは面白いですね。
本公演は25日に観に行くんですが、想定の範囲内ではありましたが、夕方までは仕事をせざるを得なくなりましたので、最終幕しか観れないという展開になりそうです!
全公演平日の午後というのはきついですね。まあ、ペトレンコとのご縁は長く続くでしょうから、気長に楽しみます。
Commented by yokohama7474 at 2017-09-18 23:14
> 吉村さん
リハーサルをご覧になったのですね!! 演出は、いくつかの刺激的なヴィジュアルイメージだけしか知りませんが、まあドイツでのワーグナー演出ですから、一筋縄ではいかないでしょうね (笑)。おっしゃる通り、「タンホイザー」は平日の午後だけとは、さすがにちょっと無理があります。私は初日を見るので、また記事にてどんな様子であったかをご報告します。
Commented by エマスケ at 2017-09-18 23:30 x
こんにちは。
連日のコメント、失礼します。
やはり、ペトレンコの初来日公演に行かれたのですね。
マーラー5番は、きっちり音を構築して、凝縮された素晴らしい演奏でした。例えるなら、六曲二双の見事な屏風絵があって、近づいてよく見ると細密画が施されているような。第2楽章が終わった時点で思わずため息が出るほどでした。
演奏の終始、指揮台から大きな身振り手振りで奏者に合図を送っているのにも驚きました。「華麗なタクトさばき」の指揮者は少なくありませんが、あのようにスコアを見つつ、かつ密にコミュニケーションを取るスタイルの指揮者は他にいるのでしょうか。体力的にも厳しそうですし….。

オペラの本公演もとても楽しみです!
Commented by yokohama7474 at 2017-09-19 01:38
> エマスケさん
連日コメント頂き、恐縮です。やはり皆さん、第 2楽章の凄まじさに圧倒されたようですね。ベルリン・フィルが選んだ指揮者ということで、ペトレンコ本人にもプレッシャーは様々あるものと思いますが、彼の活動の今後が、本当に楽しみです。ともあれまずは「タンホイザー」、楽しみにしたいと思います。
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