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レオナルド × ミケランジェロ展 三菱一号館美術館

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東京、丸の内の三菱一号館美術館で開かれているこの展覧会、会期は 3ヶ月以上あったのだが、ふと気づくと今週末で終了してしまう (東京のあと岐阜市歴史博物館に巡回)。私が訪れてから随分と時間が経ってしまったが、どのような展覧会であったのか、振り返ってみようと思う。

西洋美術史上知らぬ者とてない、いや、西洋美術に興味がなくとも誰もが知る、レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロ・ブオナローティ、この 2人の巨匠の作品を展示しているということで、そもそもが展示スペースが狭いこの美術館が大混雑になることを恐れつつ、訪問することとした。案の定、最初に訪問した週末には、建物の外にまで人の列ができていた。そこで一計を案じ、政府が推し進める働き方改革のひとつであるプレミアム・フライデー、つまりは毎月の最終金曜日には早く会社を出ようという運動に従って、定時前に会社を退出して美術館を再訪したところ、すいている!! 私の場合はこのプレミアム・フライデーをいつも有効活用しているのであるが、今回も大変に大きな成果があった。東京における経済活動にささやかながら貢献するとともに、自らに文化的刺激を与えることができたのである!! なんとも模範的国民ではないか (笑)。

さて、最近の展覧会ではよく写真撮影 OK のコーナーがあって、入場前にロッカーに手荷物全部を預けると、後で後悔することがあるが、今回もしかり。一旦展覧会を出てから荷物を取り出し、スマホと半券を握りしめて会場に戻り、撮った写真がこれらである。
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この美しい大理石の彫刻は、展覧会の最後に展示されている、ローマ郊外のバッサーノ・ロマーノという都市にあるサン・ヴィンチェンツィオ修道院付属聖堂が所蔵する、ミケランジェロの「十字架を持つキリスト (ジュスティアーニのキリスト)」 の実物である。制作は 1514 - 1516年。ローマのサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会のために制作されたが、制作過程で顔に黒い傷が現れたため (確かに上の写真でも写っている) 途中で放棄された。ミネルヴァ教会には今日、ミケランジェロの手になる別の完成作が置かれているが、この未完成の像の方は、依頼主の貴族の子孫によって売りに出され、その後つい最近までは所在が明確でなかったところ、2000年になってから、この像がそのミケランジェロの未完成作を 17世紀の彫刻家が完成させたものであると認定されたという。尚、この像のニックネームにあるジュスティアーニとは、この像が安置される聖堂を建てた、聖職者兼美術収集家の名。実はこの像を完成させた 17世紀の彫刻家とは、当時そのジュスティアーニのもとにいた、若き日のあのバロックの天才ベルニーニであるという、ちょっと出来過ぎの説もあるという。ともあれ、静かな展示室でこのような素晴らしい彫刻と向かい合う時間は、本当に貴重なものである。

この彫刻のほかの展示品にはスケッチなどの小品がほとんどのであるが、もちろんそれは当然のこと。ダ・ヴィンチとミケランジェロのオリジナルの油彩画を持って来るようなことになると、この敷地面積の狭い美術館は人でごった返してしまうだろう。そうではなく、ひとつひとつの紙片に天才たちの息吹が生々しく感じられる距離で接することを楽しむことこそ、この展覧会の醍醐味である。あまりに混雑していては、その貴重な時間を持つことができなくなってしまう。ポスターにあしらわれている 2点を見てみよう。これは、ダ・ヴィンチの「少女の頭部 / 『岩窟の聖母』の天使のための習作」(1483 - 1485年頃)。「この世で最も美しい素描」とも言われているらしい。
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「岩窟の聖母」は、よく知られている通り、ルーヴル美術館にあるものとロンドンのナショナル・ギャラリーにあるものとの 2点が残されているが、このスケッチは前者のもののようである。よく見るとこの 2作において、画面向かって右側にいる天使の顔の角度が (それから、姿勢そのものも) 違っているからだ。以下、上がルーヴル、下がナショナル・ギャラリー (あ、もちろん、どちらもこの展覧会には出品されていません!!)。
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そしてこれは、ミケランジェロの「『レダと白鳥』の頭部のための習作」(1530年頃)。これも美しいが、どうやらモデルは男性で、ミケランジェロの弟子であるらしい。下にはまつ毛を長くしたところを描いていて、より女性らしく見える工夫をしているようだ。この「レダと白鳥」は既に失われてしまった作品であるが、ダ・ヴィンチの同名作と併せ、あとでまた触れることとしたい。
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これも貴重な作品で、ダ・ヴィンチの「天使のための習作」(1470年代)。師であるアンドレア・デル・ヴェロッキオの「キリストの洗礼」(ウフィツィ美術館蔵) の画面左側に、若き日のダ・ヴィンチが描いた天使のスケッチである。
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この天使のあまりの美しさが評判になって、師匠を顔色なからしめたとは有名な話。完成作 (もちろん本展には出品されていません) はこんな感じ。確かに美しい。
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以前、アルチンボルド展の記事でも少し触れたが、ダ・ヴィンチは恐ろしいまでの写実性を持った芸術家であったが、その写実性は、ただ美しいものだけを描くためにあるのではなく、人間心理の真相に迫るような表現にも駆使されている。これは「老人の頭部」(1510 - 1515年頃)。老人の人生がそこに透けて見えるような顔は、実にリアリティがあり、またその一方で、まるでエイリアンのような不気味な顔なのである。
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事物のリアリティを求めるダ・ヴィンチの模索のあとは、膨大な紙片に残されているが、これは「顔と目の比率の研究」(1489 - 1490年頃)。文字はもちろん、鏡文字 (鏡に映して通常の文字になる、つまりは裏返しの文字) で書かれている。
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ダ・ヴィンチに比べるとミケランジェロはより人間くさいところが魅力である。これは「『トンド・ドーニ』の聖母のための頭部習作」(1504年頃)。
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「トンド・ドーニ」とは、ウフィツィ美術館所蔵になる板絵の聖家族の肖像の愛称で、このような、一度見たら絶対忘れないユニークな構図の作品だ。あ、もちろんこれも展覧会には出品されていません!!
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ミケランジェロの素描をあと 2点。「システィーナ礼拝堂天井画『ハマンの懲罰』のための人物習作」(1511 - 1512年頃) と、「背を向けた男性裸体像」(1504 - 1505年)。お得意の筋肉表現は力強いが、常に人間性が感じられる。
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ミケランジェロの小さめの彫刻がいくつか展示されている。これはフレンツェのカーサ・ブオナローティ (日本語では「ミケランジェロの家」と呼ばれる) 所蔵の「河神」(1525年頃)。顔や腕、足の一部を欠くトルソであるが、これでも復元されたものであるという。完成作ではなく「三次元モデル」(大作用に試作するものであろう) であるらしいが、それでもいかにもミケランジェロらしさが見て取れる作品だ。
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これはダ・ヴィンチの「髭のある男性頭部」(1502年頃)。ローマの軍人・政治家であったチェーザレ・ボルジアの肖像かとも言われているが定かではない。ここでもやはりダ・ヴィンチの筆致は容赦なく人間の内面を抉り出している。
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さて、ダ・ヴィンチとミケランジェロはともに、「レダと白鳥」のテーマによる油彩画を作成したが、現在ではいずれも失われてしまっている。だがいずれも模写が多く作成されたことで、今日でもそのイメージを持つことができる。これは作者不詳の「レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく『レダと白鳥』」(1505 - 1510年頃)。レダの謎めいた笑みがダ・ヴィンチ風だし、卵から生まれる天使たちの不気味さも面白い。ただ、白鳥はちょっと品がないようにも見える (笑)。
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こちらは、フランチェスコ・ブリーナという画家に帰属する「レダと白鳥 (失われたミケランジェロ作品に基づく)」(1575年頃)。メディチ家礼拝堂の「夜」を思わせる女性の人体表現であるが、健康的なエロスがある。
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両者とも、いわゆる美術のだけでなく、建造物の設計等の実用的な活動を行った。これはミケランジェロの「プラート門の要塞化のための計画案 / 人物習作」(1529 - 1530年頃)。人物像の上に建築プランを書いているようだ。でもその組み合わせが、不思議と彼の創作意欲を実感させるのである。
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こちらはダ・ヴィンチの「大鎌を装備した戦車の二つの案」(1485年頃)。彼は様々な武器や軍事用の機械を考案したが、これは大きな鎌を装備した戦車で、ミラノ公ルドヴィコ・スフォルツァに提案されたもの。まるで人形を使ったイメージのように手足を切られる敵の姿を描いている点、諧謔味もあるが、少し冷徹さも感じさせるように思う。
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最後に、両者の手稿をご紹介しよう。これはミケランジェロによるジョヴァンニ・フランチェスコ・ファトゥッチ宛の手紙 (1526年 6月17日)。宛先の人物はローマ駐在のフィレンツェ大聖堂の司祭で、ミケランジェロの友人でもあった。上でも言及したメディチ家礼拝堂のあるサン・ロレンツォ聖堂についての実務的な内容である。力強い作品の数々を残した人であるが、文字は意外と繊細で丁寧に見え、彼の人柄を想像することができる。
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こちらはダ・ヴィンチの「蛾が飛び回る炎を前にする人物像 / 詩文による解釈」(1483 - 1485年頃)。この写真では切れてしまっているが、左上に、座っている女性とその回りを飛んでいる蛾を描き、そこに詩が添えられている。空中を飛ぶ能力にうぬぼれて、蝋燭の光に飛び込んで羽根を燃やしてしまう蛾の愚かしさを歌っているらしい。驚くのは、実利的な記述のみならず、詩作まで鏡文字で書いてしまうことだ。万能の天才には、いかなる文章でも、他人に覗かれたくないという願望があったのだろうか。それとも彼らしく、何か実利的な理由でもあったのであろうか。
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このように、偉大なる 2つの個性に間近で向き合える、素晴らしい展覧会である。既に期日は残り少なく、次のプレミアム・フライデーには東京での展覧会は既に終了してしまっているが、秋の岐阜に出掛けて行くという選択肢もあり、それなら、より静かな環境で鑑賞できる。中部地区の方々はもとより、首都圏の方々も、一考の価値ありではないだろうか。

by yokohama7474 | 2017-09-21 12:02 | 美術・旅行