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愛知県犬山市 犬山城、如庵

10月も半ばに至り、さすがに秋の空気になってきたが、今年は (も?) 奇妙な夏であった。東京では 7月に酷暑が来て、8月はどうなることかと思うと、雨天続き。時にその雨は、傘を支えるのもやっとという激しいものになり、各地で豪雨が相次いだ。これからいくつかの記事で、そんな夏に私が出かけた場所を、遅ればせながらご紹介して行きたい。それは実は名古屋近辺なのであるが、この地域には、知れば知るほどに深い歴史の痕跡がある。もしかすると名古屋地区在住の方でも、「へぇ、そんな歴史があるんだ」という感想を持たれる場合もあるかもしれない。川沿いのラプソディ流、名古屋の歩き方。ご参考として頂ければ、そんなにありがたいことはありません。

まず、ひとつの写真をお目にかけよう。
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これは、愛知県北部、犬山市にある犬山城である。日本に残る 5つの国宝天守閣のひとつであり、小ぶりながらも大変に美しい城である。未だ戦乱の世が完全に安定していない時代、関ヶ原の翌年の 1601年に建てられたとされる古い城だ。だが、この写真、屋根についている一対のしゃちほこのうち向かって左側が欠けているように見えないか。別の角度からの写真がこれである。ちょうど上の写真の裏なので、左右は逆になっているが、やはり片方が欠けている。
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これにはわけがあって、実は今年の 7月12日の落雷によって、片方のしゃちほこが破損してしまったのだ。天守閣内にそのしゃちほこが展示されていた。
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先般の熊本地震による熊本城の被害などは最近での大規模な文化財の損傷であるが、もともと天災の多いこの国で、燃えやすい木造建造物を守り、後世に伝えて行くことはいかに困難かということを改めて思い知る。その一方で、しゃちほこの片方が破損しただけではこの国宝建造物の持つ価値は全く減じることはない。そのように、文化財の持つ生命力ということも、よく認識しておく必要があるだろう。

さてこのブログでは過去に、国宝 5天守閣のうち既に 3つ、つまり、姫路城、松本城、彦根城をご紹介したので、この犬山城で 4つめ。残るひとつは松江城で、ここは私も国宝に格上げされる前ににしか訪れたことはなく、随分ご無沙汰だが、またそのうち現地を訪れて、記事を書く機会を求めたい。犬山城の場合、私にとっては今回が既に 4度目の訪問であったが、何度行っても興味深い場所なのである。 このような入り口から風情のある坂道を少し登って行くことになる。
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門を入ったすぐの場所が、恰好の撮影スポットになっている。本当に美しい姿をしている。
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入り口や、中の階段などは相当に急角度であり、かなりワイルドな感じである。
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考えてみれば、400年前にできた城郭建築が、後世の補修は当然あるものの、今でも現存していて、しかも人々がその中に入ることができるということは、なかなかに大変なことである。城としての機能を失った明治期以降は、古い城廓建築を維持するだけでもそれはそれは大変なことであり、各地の城の中には、明治期に壊されてしまったものも多い。日本人は情緒的である割には、ある意味で変わり身が早く、建物のスクラップ・アンド・ビルドは、かなり大胆に行う方ではないか。それは、西洋のような石造りではなく、木造であるということも一因であろうが、日本人のメンタリティの何かと関係しているようにも思う。ところがこの城の場合、もともとの建造は織田信康 (信長の叔父) によるものだが、その後、1617年 (今からちょうど 400年前だ!!) に、尾張徳川家の家老であった成瀬正成が城主となり、その成瀬家が明治維新まで城主であり続けた。それゆえこの犬山城は、つい最近まで、国宝建造物として唯一、成瀬さんという個人所有のものであったのである (現在では財団の所有)。天守閣の最上階には、歴代城主の肖像が掲げられている。ネクタイを締め、ウィスキーグラスなど傾けている城主さんとは、なんとも面白いではないか。
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尚この最上階には赤い絨毯が敷いてあって、私は後で本で知ったのだが、これは第 7代城主、成瀬正壽 (まさなが、1782 - 1838) がオランダ商館長と親しかったことから、その頃に敷かれたものであるらしい。へぇー、私はてっきり、昭和のものかと思いましたよ。
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それにしてもこの城、その佇まい自体は、本当に武士の時代に思いを馳せることのできる場所だ。ほら、このように畳に自然光が入ると、すっと扉を開けて侍が出てきそうな感じすらするではないか。
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未だ実戦を想定していた頃の建造なので、ある階の床は、このように板と板の間に、わざと隙間を設けてある。下の階に忍び込む者をここからチェックできるのである。ただ、その時城はかなり危機に瀕しているであろうが (笑)。
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犬山城が建っているのは、木曽川のほとりの丘の上である。城の背後は天然の要害地となっているわけである。
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今回破損したしゃちほこが、いつどのように修復されるのか分からないが、この強い生命力を持つ建物の長い歴史の中では、ごくちょっとしたトラブルでしかない、と考えたいものだ。

さて、近隣の神社や犬山の街自体も大変に情緒があり、商店街を覗いたり、その中に保存されている歴史的建造物や、犬山祭りの山車やからくり人形の展示なども興味が尽きないのだが、今回は時間の関係でパス。ただ、城から歩いて数分のところにある場所だけは、絶対に外してはならない。このような名前の場所である。名鉄犬山ホテルの敷地内にある、有楽苑 (うらくえん)。
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この有楽苑は、よく手入れの行き届いた日本庭園なのであるが、そこでの見どころはなんと言っても、上の写真にある通り、如庵 (じょあん) という茶室である。犬山城天守閣が、日本に 5つしかない国宝天守閣のひとつなら、この如庵は、日本に 3つしかない国宝茶室のひとつなのである。因みにほかの 2つとは、京都、山崎の妙喜庵にある待庵と、大徳寺の塔頭である龍光院にある密庵。実は、待庵は日本史の教科書にも出て来たが、事前予約制での公開で、私は見たことがない。密庵に至っては、全く公開をすることがなく、この寺の所蔵するやはり国宝の曜変天目茶碗と同様、幻の国宝なのである。従い、この如庵を犬山で見ることができることは、非常に貴重なことなのだ。これが有楽苑の門。
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如庵は、織田信長の弟で、大名であり茶人でもあった織田有楽斎が作った茶室。もともとは京都の建仁寺の塔頭に建てられたが、明治になって京都の中で移転されたのち、その後東京の三井家本邸に移築。昭和に入ってから一度大磯に移ったあと、1972年に名古屋鉄道 (名鉄) によって現在の地に引き取られた。織田家ゆかりの名古屋近郊で、ようやく忙しい移転生活を終え、その凛とした姿を人々に見せていることは、実に感慨深いものだ。中に入ることはできないが、解説もあり、自由に写真も撮ることができて、有り難い限りである。私は以前、外人のグループをここに連れて来たことがあるが、皆大変に興味深そうに内部を覗き込んでいた。
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実はこの有楽苑には、ほかにも興味深い建築がいくつもある。この如庵に隣接しているのは、重要文化財の旧正伝院書院。これは有楽斎の隠居所であり、中には長谷川等伯や狩野山雪などの襖絵が残されているという。内部は非公開だが、床下からこのように内部を覗くことができる。暑い日だったので、開け放した襖によって風が通り、置いてある団扇を扇いで涼を取ると、日本人でよかった、と思ったものだ。
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それから、有楽斎が大坂の天満に作ったという元庵という茶室を、古図に基いて復元してある。これは如庵と違って大きな建物で、商都大坂の賑わいを思わせるものだ。
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このように、有楽斎ゆかりの建物が気品ある佇まいを見せるこの有楽苑、観光客がそれほど多く訪れるようには見えないが、少なくとも犬山城を訪れる人たちには、是非是非見て欲しいところである。それにしても、名鉄がこのような文化的な事業に力を入れているということは素晴らしいことだ。そしてそのことは、次なる目的地にてさらに圧倒的に迫って来ることとなるのである。犬山地域の探訪は、続きます。

by yokohama7474 | 2017-10-15 01:23 | 美術・旅行