川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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メモ帳

猿の惑星 聖戦記 (グレート・ウォー) (マット・リーヴス監督 / 原題 : War for the Planet of Apes)

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前回の記事で少し触れた通り、しばらく旅行に行っていた。10/27 (金) に出発して11/4 (土) に帰国した私は、自分が不在の間の日本で、台風 22号が通過し、日本シリーズが進み、気分が悪くなるような猟奇連続殺人が発覚し、イヴァンカ米国大統領補佐官が滞在して既に帰国したことを知っている。一方で、その間にこのブログの総訪問者数が 15万人を超えたことは、ネットの大海の中の一滴の水のような微細なことであれ、私にとっては大きな出来事であった。だが、残念なことには、見ようと思ってリストアップしていた映画のうち数本は既に上映が終了しており、美術の分野では、出光美術館の江戸琳派展と、サントリー美術館の狩野元信展に行くことができなかった。ま、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。音楽の分野ではこれから重要なコンサートが目白押しで非常に忙しくなるし、ここは自分に鞭打ち、未だアップできていない多くの記事と、これから体験する文化的イヴェントの記事とを、並行的に書き進めて行くこととしたい。

そんなわけで、帰国後最初に見た映画がこれである。つい最近公開されたばかりと思っていたが、実際、10/13 (金) の公開からわずか 3週間で、自宅近くのシネコンでは既に 1日 1回の上映のみという事態に陥っている。昔のシリーズは 1作目しか知らないが、今世紀に入ってからの「猿の惑星」シリーズ 3本すべてを見てきている身としては、やはりこの作品はどうしても見なくてはならない。ところで、上に今世紀に入ってから制作された「猿の惑星」シリーズを 3本と書いたが、実はその中で最初のもの (ティム・バートン監督の 2001年の作品) は孤立していて、その次の作品から今回までの 3本のみがシリーズを構成している。つまり、「猿の惑星 創世記 (ジェネシス)」、「猿の惑星 新世紀 (ライジング)」と、この「猿の惑星 聖戦記 (グレート・ウォー)」の 3本である。このシリーズでは人の言葉を喋る猿のリーダー、シーザーが主人公であり、猿と人との壮絶な闘いが描かれてきたわけである。これがそのシーザー。
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この映画を見て誰もが、このシーザーの表情のリアルなことに驚くだろう。作品中で実際に、敵である大佐がそのような言葉を口にするし、そもそも冒頭近く、猿のアジトで姿を現す彼を見るだけで、その堂々たるリーダーぶりは明らかだ。もちろん猿のことであるから、リーダーであることを示す勲章や冠はつけておらず、ただその雰囲気だけで観客に分からしめる必要があり、その点実にうまくできている。予告編でも見られたシーンだが、彼が登場したときに、捕虜として対面する人間の射手 (のちのちストーリーに大きく関係することになる) が、「あなたがシーザーですね。探していましたよ」と口にするのも印象的だ。この部分の和訳は、「お前がシーザーだな。探していたぜ」とすることも可能であろうが、その場で囚われの射手がシーザーの存在に圧倒されていることから、やはりこのような敬語を入れた訳がふさわしい。この作品の成功にはいろいろ理由があると思うが、ひとつにはこのシーザーの「演技」であると言えるだろう。3作を通じてこの役を演じているのは、アンディ・サーキスという英国の俳優。こんな風に、実際に人間が演技をした画像を CG で猿に変えて行くようだ。
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この俳優、なじみがないので調べてみると、様々な作品に出演しているが、代表作はなんと、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのゴラムであるそうだ。おー、マイ・プレシャス!!
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そんな堂々たるシーザーはここで、実に厳しい状況に置かれて、悲しんだり怒ったりする。その人間的なこと!! あ、まずい。ここで猿は人間と闘っているのであった。猿のことを人間的と表現するなんて、不適ではないか。いやいや、それがそんなことはないのである。人と猿と、一体どちらが野蛮であるのか。また、人は人で、猿は猿で、一致団結した行動を取っているだろうか。そのあたりを考え始めると、この作品のメッセージの奥深さに気づくのである。もしこれを荒唐無稽な作品であると整理している人がいれば、それは誤解であるとはっきり申し上げよう。これは、人間という存在の愚かさを仮借なく描き出した作品である。別に、ここで猿が強制労働で作らされている壁から、現在来日中の米国大統領の公約を連想する必要はあるまい。また、猿の存在を、かつて白人たちに虐げられたアジアやアフリカの人たちになぞらえる必要もないだろう。ただ、猿たちの行動や発想に、「人間的」に価値のあるもの、つまりは愛情や団結や勇気といったものを見出し、それと対照的に、人間たちは内輪もめを含む戦争ばかりしているという、この逆説の意味をよく考えてみたい。そしてさらに、そうは言っても猿の中にも卑劣な奴らがいることや、人間の側にも複雑なロジックがあるのだということに思い至ろう。これは現実に存在する、大きな矛盾を抱えた人間社会の善悪そのものではないか。だから私は、最初から最後までこの映画を、「痛み」をもって見ることとなった。そうだ、これはこの上なく痛ましい映画である。ただ、邦題の「聖戦」という言葉は、ちょっとどうだろうか。これではイスラムのいわゆるジハードを連想させて、ちょっと不適ではないだろうか。実際、前作では猿と人の激しいバトルが展開したと記憶するが、今回は戦闘シーンは多くないのである。いやむしろ、人間同士の殺し合いがメインと言ってもよいのである。原題の "War for the Planet of Apes" とはむしろ、人間の性としてやめることのできない「戦争」を指しているのではないだろうか。つまり、それだけ痛ましい映画であるということである。ソウセイキ、シンセイキと来て、語呂を踏んでセイセンキという苦肉の策であることは分かるものの、語呂優先で、映画の本質から外れるのはいかがなものか。

それから、この映画の面白いところは、疫病が蔓延して人類が滅びつつあるという設定だ。このことは、冒頭で字幕によって説明されるので、ネタバレではないと整理しましょう (笑)。ゾンビ物も通常、疫病が蔓延するという設定になっているが、この映画での疫病 (猿インフルと命名されている) によって起こる症状は、ゾンビ物ほど過激なものではない。だが、この地球が人間から猿の手に渡ってしまうということは、人間に何かが起こってしまうということだ。決して猿が暴力で人間たちを根絶やしにするという想定ではないのである。このような少女が出て来るが、彼女の名は「ノヴァ」。つまり、新しいということである。何がどう新しいのか、映画を見れば分かるのだが、なかなかよいネーミングである。もっとも、この名前の女性キャラクターは、オリジナルの「猿の惑星」シリーズにも登場していたらしい。
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また、映画の中に出て来る壁の落書きで、"Ape-pocalypse Now" という言葉があるが、これはもちろん、"Apocalypse Now"、つまり「地獄の黙示録」のパロディである。実際、この映画でシーザーの敵である人間たちを率いるのは、「大佐」と呼ばれるこのスキンヘッドの男である (演じるのはウディ・ハレルソン)。最後の方では明らかに「地獄の黙示録」を連想させるシーンもあり、もしかするとこの役名の「大佐」自体も、同作においてマーロン・ブランドが演じたカーツ大佐に因むあだ名のようなものなのかもしれない。役柄の性格にも近いものがある。
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それから、音楽がなんともストレートで、例えば緊張感のある場面では、ティンパニの緩やかな連打であったり、弦のトレモロであったり、いかにもそれらしい。そして大詰めの感動シーンでは合唱が入るなどして、ちょっと気恥しいような気もする (笑) が、まあ古典的な映画音楽という印象である。音楽担当は、J.J.エイブラムスと長年の協力関係にあるというマイケル・ジアッキーノ。そして本作の監督、マット・リーヴスは、前作に続いての登板だが、やはり J.J.エイブラムス制作の「クローバーフィールド / HAKAISHA」の監督なども務めている。

楽しい映画もいいものだが、このように考えさせられる映画も、やはり見ておきたいものである。シリーズの過去の作品を見ていなくても、舞台設定のイメージさえあれば、ストーリーを充分に理解できる点も、昨今では貴重であると思う。

by yokohama7474 | 2017-11-06 01:42 | 映画 | Comments(0)
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