人気ブログランキング |

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 2017年11月13日 NHK ホール

e0345320_22061872.jpg
過去 2回のサントリーホールでの演奏会をご紹介してきた、90歳の巨匠ヘルベルト・ブロムシュテットの指揮するライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏会、今回が東京での 3回目のもの。これは NHK 音楽祭の一環として行われたもので、会場は NHK ホールである。上の写真は、会場入り口に下がっていた垂れ幕。

実はこのブログでは、昨日からちょっとした異変が起こっている。このブログの通常の訪問者数は、大体 1日に 300くらいなのであるが、昨日 (11/12) は 424。今日 (11/13) に至っては、23時55分現在で 468と、当ブログ史上最高記録を更新である。また、昨日のゲヴァントハウス管の演奏会の記事のアクセスは 171であった。これも私の記憶にある限り、1日のアクセス数としては、過去にちょっとない数である。改めて、この老巨匠に対する人々の極めて高い興味を実感することができる。
e0345320_22183933.jpg
さて、今回のブロムシュテットとゲヴァントハウスの日本ツアーの掉尾を飾るのは、ブラームスの傑作、ドイツ・レクイエム作品45。バリトン・ソプラノ独唱と合唱団を伴う 70分の大曲で、通常はラテン語で書かれたカトリックの典礼文が使われる死者のためのミサ曲をレクイエムと呼ぶのに対し、プロテスタントの国ドイツの作曲家ブラームスは、マルティン・ルターによるドイツ語訳聖書から自ら歌詞を選んで、そこに個人的な故人への思いも託した上で、演奏会用の宗教曲を仕上げ、それをドイツ・レクイエムと題したのである。実はこの曲、今回のゲヴァントハウス管のほかの演奏会のすべての曲目と同様、このオーケストラが世界初演を行っている。それは 1869年のことで、指揮を取ったのは、作曲家として音楽史にその名を留めているカール・ライネッケであったという。このオケの 275年の輝かしい歴史に、改めて思いを馳せる。実はこのブロムシュテット、今回の日本でのほかの 4公演 (札幌、横浜を含む) を主催した音楽事務所 KAJIMOTO が制作したプログラムでのコメントにおいて、同音楽事務所ではなく、NHK 主催のこの演奏会のことに触れている。こんな具合だ。

QUOTE
このたび彼ら (注 : ライプイツィヒ・ゲヴァントハウス管のこと) は、楽団の豊かな歴史の中でも特に重要な役割を演じた 5つの傑作 --- かつてライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が世界初演を任された 5つの曲 --- を、皆さまのために演奏いたします。いずれも、楽団の個性の本質を成す作品です。とりわけ私は、日本の聴衆の方々の前でブラームスの「ドイツ・レクイエム」を初披露できることに心躍らせております。
UNQUOTE

自社主催公演以外の公演をイチオシとしたこのマエストロの言葉に、KAJIMOTO の方には多少の同情は禁じ得ないが (笑)、その一方で、この指揮者の誠実なコメントに、ある種の感慨を抱くことができる点が大変好ましい。これだけ多くの来日を重ね、ドイツ物だけではなく北欧ものやロシアもの等、自らのほとんどのレパートリーを日本で披露していると思われるこの指揮者が、未だこの重要なドイツの作品を日本で指揮していなかったとは、意外である。実はブロムシュテットは、決して膨大なレパートリーを誇る指揮者というわけではなく、彼が採り上げる作品には必ず、彼自身が採り上げるべき理由についての確信があるとも言えるだけに、この老巨匠としても、この名作を披露できる今回は、期するところがあるということだろう。それからもうひとつ、実は私も比較的最近このコンサートのチケットを購入した (レオニダス・カヴァコスのリサイタルに行くかこれにするか、迷っていたのである) ときには気づいていなかったことには、合唱団に大変な驚きが隠されていた。このメジャーな声楽曲であれば、日本のどの合唱団も大変立派に歌うだけの優れた技量を持っているであろう。にもかかわらず、今回登場した合唱団はこの人たちだ。
e0345320_22520303.jpg
音楽ファンならすぐに判る、これはウィーンの楽友協会大ホール。そこを本拠地とする合唱団と言えば、もちろんウィーン楽友協会合唱団、Singverein である。これはなかなかの驚きだ。ちょっと調べてみたのだが、近辺の日程でこの合唱団単独のコンサート予定は見当たらず、どうやら彼らは今回、このドイツ・レクイエムを歌うためだけに来日したように思われる。そしてそこにもうひとつの歴史的要素を加えよう。ブラームスはこのウィーンの楽友協会の理事であった時期もあり、そのゆえんであろう、ここの小ホールはブラームス・ザールと名付けられているのだが、実は、ゲヴァントハウスによる全曲初演の 2年前、1867年に、このドイツ・レクイエムの最初の 3楽章がこのホールで試演され、その時の合唱を務めたのが、この楽友協会合唱団であったのである。なので、このオケにこの合唱団によるこの曲の演奏は、指揮者のこだわりによるものなのだと思われる。

このような歴史的な顔ぶれによる今回のドイツ・レクイエムは、この NHK ホールでの上演 1度だけで、会場はほぼ満員の盛況。期待感は充分であり、もちろんそこはブロムシュテットとゲヴァントハウスであるから、演奏が悪かろうはずもない。だが、正直なことを言えば、この日に先立つ 2日間、サントリーホールでこのオケの美音を聴き続けた身としては、今回 NHK ホールにおいて、この繊細な曲の本当の魅力が充分に耳に入ってきたかと問われれば、少々残念であったとお答えすることになろう。このドイツ・レクイエムは、もちろん有名な曲ではあるけれども、決して派手な曲ではない。その点で、例えば第九とかヴェルディのレクイエムとか、あるいはベートーヴェンのミサ・ソレニムスといった曲に比べても、音色の点ではさらに地味だと言ってよいと思う。既に冒頭の弱音からして、聴衆が耳を傾ける、まさにそのことによって音が動き始め、チラチラと炎が小さく燃え上がり、広がって行くような瞬間に立ち会いたい。今回も当然そのような音が鳴っていたと、想像力を駆使すればなんとか分かったように思うが、このホールでは残念ながら、「弱音に圧倒される」という経験は期待できないのである。冒頭以外でも、ブラームスらしい分厚い中音域が随所に聴かれ、そこに時折光が差すような高音やリズミカルな音型が入ってくるような箇所こそが、この曲の持ち味であると思うのだが、やはり、相当に想像力で音を補って聴く必要が出てきてしまった。一方、第 3曲のフーガなど、音が大きく渦を巻く箇所も何度かはあって、そういった箇所の迫力には傾聴すべきものがあった。だがやはり、弱音あっての強音の説得力であり、これがサントリーホールなら・・・と思ってしまったことは、正直に白状しておこう。私はこのブログで過去何度も、NHK ホールの音響についての課題に言及したことがあるが、最近はそれをやめていた。なぜなら、このホールを本拠地とする N 響の演奏では、最近は結構音が聴こえるような気がするからだ。もちろん、座席にもよるのかもしれないし、一概に言ってしまうのは適当ではないかもしれないが・・・。なので今回は久しぶりにこのホールにもどかしさを覚え、総勢 100名弱のメンバーが揃ったせっかくのウィーン楽友協会合唱団の歌も、多分に想像力で補って聴くこととなったし、ソリストについては、ソプラノのハンナ・モリソン (もともと予定されていたゲニア・キューマイアという歌手から変更になったが、経歴を調べると、バロック音楽を主に歌っている人であるようだ) は安定していたが、バリトンのミヒャエル・ナジは、やはり音響のせいかもしれないが、時に安定感を欠いていたようにも聴こえてしまった。それから、今回はステージ上に鍵盤が設置され、このホール自慢のオルガンを、音量は控えめながらも、使用していたようだ。調べてみるとこの曲でのオルガン使用は任意。私としては、上に書いた冒頭部分の弦楽器の伸びなど、純粋にオケの音に耳を澄ませたい場面であるところ、オルガンの周期的な音がごくわずかだが入ってきたこと (正確に言うと、冒頭部分で何か周期的な低音が入っていることが気になって舞台を見まわしてみたところ、オルガンが演奏していることが分かったのであるが) が少し興ざめであった点も、やはり残念であった。それにしても、交響曲もそうであるが、ブラームスの音楽は本当に上質の音色を必要とするし、実演ではホールの音響が演奏の印象に大きな影響を与えるだな、と実感したことである。

だが、繰り返しだが、この曲の魅力とこの演奏者の美的特色をある程度理解していて、そこに多少の想像力があれば、きっと今回も素晴らしい演奏であったのだろうということは、なんとか分かる。だがもうひとつ、これは本当に残念であったのは、終演後の拍手である。昨日のブルックナーと同じく、曲を振り終えて両手を静止させた指揮者が、ゆっくりと円弧を描いて右腕を下ろして行く最中、一人の人がかなりしつこく拍手を続けていたのだ。きっと、曲が終わったことを自分は知っていると、知識を誇示したかったのかと想像するが、それにしても、あれは明らかにマナー違反であろう。たった一人の行動によって、演奏会の雰囲気が台無しになるのは、なんとももったいないこと。文化都市東京においては、あのような行為は慎む必要があると思う。

今回の演奏は、もちろん NHK の主催であるからして、ほかの NHK 音楽祭のコンサートと同じく、FM と BS で放送される。きっと放送で聴くと、素晴らしい名演であることを認識することができるだろう。90歳のブロムシュテットの今回の来日公演は、それですべて終了。まだまだ意気軒高なマエストロは、またきっと来日してくれるであろう。実はそれは、早くも半年後、来年の 4月に予定されている。N 響定期 3公演に登場して、A プログラムでは、ベルワルト 3番と幻想交響曲、B プログラムでは、ベートーヴェン 8番、7番。C プログラムでは、やはりベートーヴェンのピアノ協奏曲 4番 (独奏はピレシュ) と交響曲 4番を指揮する。これまた、聴き逃せないものばかりだ。なるほど、これで、以前の記事で言及した、N 響とバンベルク響によるブロムシュテットのベートーヴェン・ツィクルス完了ということになるわけだ。ところで、ネット上でこんな写真を発見。ゲヴァントハウス管の新旧カペルマイスターの交歓の図であり、なかなか貴重なものだ。来年からはいよいよネルソンスが楽長に就任。このオケの今後も、また面白くなりそうである。
e0345320_23550607.jpg

by yokohama7474 | 2017-11-13 23:56 | 音楽 (Live)