このブログで過去何度か、その高い能力を称賛してきた、北オセチア出身の名指揮者、トゥガン・ソヒエフが NHK 交響楽団 (通称「N 響」) の指揮台に戻ってきた。今年 40歳になる彼は、トゥールーズ・キャピトル管弦楽団とベルリン・ドイツ交響楽団という 2つのオケを率いるほか、現在ではモスクワのボリショイ劇場の音楽監督も兼任しているという多忙な身である。私は以前から、この指揮者を初めて実演で聴いたときから、絶対に大成すると確信したと声高にふれ回っているが (笑)、実際、そのような自分なりの予感が的中し、その指揮者の活躍が活発化することは嬉しいし、何よりも、東京で実際に聴けるのがありがたいではないか。今回彼は、11月の N 響定期 3プログラムのうち 2つを指揮し、残る 1つのプログラムは、既にこのブログでご紹介した通り、マレク・ヤノフスキが担当した。ソヒエフの 2つのプログラムはすべてプロコフィエフ作品で、この指揮者を聴くには最適と言ってもよいと思うが、特にこの日の曲目は、大変興味深い。
プロコフィエフ (スタセヴィチ編) : オラトリオ「イワン雷帝」作品 116
通常 N 響定期では、チラシが作られることはなかったが、最近は時々あるようで、このコンサートも、上に掲げたような派手なチラシが作成されている。もちろん、それだけ注目のプログラムであるということだろう。この作品、ご存じの方も多いと思うが、あの映画史上の巨匠、セルゲイ・エイゼンシュテインが監督した映画「イワン雷帝」にプロフィエフがつけた音楽を編集してオラトリオとしたもの。曲としての知名度はそれなりにあろうが、実際に演奏されることは決して多くない。その理由の第一は、やはり作曲者自身の手によって編曲されたものではないということではないだろうか。その点が、同じプロコフィエフが、やはりエイゼンシュテインの映画のために書いた音楽を、こちらはカンタータとして編曲した「アレクサンドル・ネフスキー」とは異なると言える。だが、実際に聴いてみると、いかにもプロコフィエフらしい音楽でありながら、極めて平明で、大変に親しみやすい曲である。だが、曲について語る前に、ここはどうしてもエイゼンシュテインについて触れなくてはならない。1898年に現在のラトヴィアのリガに生まれ、1948年に没した、ソ連時代の巨匠映画監督である。このような、一目見たら忘れない、個性の強い顔立ちであった人。