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秋山和慶指揮 東京交響楽団 (ヴァイオリン : 佐藤玲果) 2017年11月25日 東京オペラシティコンサートホール

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このところしばらくは、贅沢この上ない世界最高クラスのオーケストラをとっかえひっかえ聴いてきたわけであるが、さて、それだけで本当によいのであろうか。もちろん、世界のトップオケの演奏には必ず何か発見があるもの。だがしかし、21世紀の東京に暮らす身としては、やはり「おらが街の」オーケストラもじっくり聴いてみたい。それこそが、東京が世界に発信できるはずの価値あるものであるべきだからだ。ただ問題は、この東京における「おらが街の」オーケストラは、フル編成のものだけで実に 9団体も存在するのだ!! これは間違いなく世界一であろうし、しかもそれぞれが独自の指揮者陣によって高度な活動を展開しているわけであるから、東京でおらが街のオケをフォローするだけでも、それはなかなかに大変なことなのである。だが、このコンサートなどはさしずめ、私のような人間にとっては必聴のものだ。なぜなら、私の敬愛する、今年 76歳になる巨匠、秋山和慶が、長年天塩にかけた東京交響楽団 (通称「東響」) を指揮して、何やら面白いプログラムを演奏するというのだ。どのくらい面白いかというと、このくらい面白いのだ。
 ロッシーニ : 歌劇「ウィリアム・テル」序曲
 シベリウス : ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47 (ヴァイオリン : 佐藤玲果)
 オッフェンバック : 喜歌劇「天国と地獄」序曲
 サティ (ケネディ編) : スポーツと気晴らし
 マルティヌー : ハーフ・タイム
 オネゲル : 交響的運動第 2番「ラグビー」

どうです、面白いでしょう? 上のチラシにある通り、このコンサートのテーマは「スポーツと音楽」。つまり、運動会で使われる曲や、スポーツそのものをテーマにした曲を集めてあるのである。私なりにもう少し分析を加えると、前半と後半、それぞれの冒頭に、「ウィリアム・テル」序曲と「天国と地獄」序曲を配したのは、この 2曲の作りが似ているからである。そして、前半では 20世紀初頭に書かれたシベリウスのコンチェルト (終楽章がまるで運動会のような曲)、後半ではやはり 20世紀初頭、1910 - 20年代のパリに因む曲なのである。大変に考え抜かれたプログラムであり、さすが名伯楽秋山の面目躍如たるものがある。
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いや実際、この演奏会の楽しかったことと言ったら!! 「ウィリアム・テル」序曲とか「天国と地獄」序曲といった曲は、あれこれ出て来るソロが巧くなくてはならず、そして何より、オケのメンバーが真面目に、かつ楽しく演奏しないといけない。今回はまさにそのような、真面目かつ楽しい演奏であったのだが、オケにおける最大の功労者はこの人だろう。
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2013年からこの東響のコンサートマスターを務める、水谷晃。1986年生まれというから、今年 31歳。実は既に 2010年に、群馬交響楽団に国内最年少のコンマスとして入団している。東響には長らく大谷康子という素晴らしいコンマスがいたが、彼女が退団しても、このように素晴らしいコンマスが後を継ぐのだから、東京のオケは侮れない。今回のコンサートにおいて水谷は、終始笑顔を絶やさずにオケをリードし、「天国と地獄」における自身のソロも完璧な出来。実に心強い。もともと日本人は顔の表情があまり豊かでない人が多いが、この水谷の演奏から、これから日本人に必要な資質を学びたいと思う。それから、このオケのオーボエのレヴェルは、以前音楽監督ジョナサン・ノットの指揮する「コジ・ファン・トゥッテ」の演奏会の記事でも書いたが、それはそれは素晴らしいもの。2人の若い女性首席奏者がいて、その名は荒絵理子と荒木奏美 (今回のトップは後者)。アラアラコンビだが、全くアラアラと思うほど、その演奏は素晴らしい。今後東響の演奏を聴く機会のある方は、是非オーボエに注目して頂きたい。
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そこに加わったのが、秋山の絶賛を得てソリストとして登場した、ヴァイオリンの佐藤玲果。1999年生まれで、現在東京藝術大学音楽学部附属音楽高校の 3年生。
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ステージマナーも初々しい佐藤は、シベリウス初期の傑作であるヴァイオリン協奏曲を弾いたのだが、やはり、フレッシュな音楽家の演奏はいいものだと思わせる内容であった。技術的には申し分なく、伸び伸びと弾いているところに好感が持てた。もちろんこの曲にも陰影があり、その表現は、佐藤が今後経験を積むにつれ、さらに深いものになって行くだろう。

そして、このコンサートの醍醐味は、なんと言っても最後の 3曲。いずれもスポーツに関係する曲だ。サティの「スポーツと気晴らし」はもともとピアノ曲で、この作曲家のファンである私は、高橋アキの録音でそれなりに聴いてきたが、ここではトーマス・ケネディ (1953 - 2007) の編曲による、全 21曲から 14曲を抜粋して曲順を入れ替えたヴァージョンでの演奏。14曲もありながら、演奏時間はわずか 10分ほど。いかにもサティらしい、皮肉でとぼけた味わいの曲で、まあそもそもサティとスポーツほど遠いイメージもないように思うが、この曲の中では、男性打楽器奏者が細長い木の棒をゴルフのクラブ代わりにしてスウィングし、その後膝の上で真っ二つにするというパフォーマンスもあり、生演奏ならではの面白みがあった。次のマルティヌーの曲は、名前はそれなりに知られているが、実際に演奏されることはかなり稀な作品。マルティヌーはもちろんチェコの作曲家であるが、1920年代にパリで学び、洒脱なモダニズムを身に着けた。この「ハーフ・タイム」はまさにその頃、1924年の作。彼はサッカー・ファンであり、ハーフ・タイム中の観客の喧騒や、サッカー選手の身のこなしを音楽にしたという。冒頭からいきなり、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」を思わせるような、色彩が明滅する面白い曲。これもわずか 10分弱の短い曲であるが、秋山と東響の演奏は、その持ち味を充分に出したもので、マルティヌーという作曲家をもっと知りたいと思ったことであった。そして最後はオネゲルの「ラグビー」である。これは交響的運動第 2番 (という訳が正しいのか否かよく分からない。なぜなら英語の "Movement" は、日本語では「運動」であると同時に、音楽における「楽章」でもあるからだ) と題されている。では、その交響的運動第 1番は何かというと、有名な「パシフィック 231」。疾走する機関車を描写しながら、実はバッハのコラール前奏曲へのオマージュでもあるこの作品に比べて、この「ラグビー」の知名度は若干低い。録音もあまり多くなく、私はジャン・マルティノンの録音でしか聴いたことがない。また、チューリヒ・トーンハレ管が、当時の音楽監督であった若杉弘と来日した際に聴いた記憶があって、調べてみるとそれは 1990年のこと。気がつけば随分前のことだが、多分生演奏でこの曲を聴くのはそれ以来だろう。ここでも秋山と東響の演奏は切れもあり愉悦感もありで、素晴らしい。曲自体も、ラグビーの運動性を描写していて派手であるが、よく見ると打楽器が全く使われていない。これは意外であった。ラグビーのイメージ写真を掲載しよう。
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そして、どうやらアンコールがありそうだったので期待して見ていると、打楽器奏者がゾロゾロ入ってきて、始まったのは、あの有名なカバレフスキーの「道化師」から「ギャロップ」だ。誰でも聴いたことのある賑やかな曲で、コンサートの締めくくりを大いに盛り上げた。改めてこの秋山という指揮者の活動の多様性を思う。やはり、東京の文化を実感するには、来日オケを聴いているばかりではなく、このようなおらが街のオケの意欲的な試みを体験する必要があるだろう。会場では、今回の曲目とは全く異なる曲、ベートーヴェンの第九の新譜 CD を売っていたので購入した。昨年の年末のライヴ録音である (私もその演奏を生で聴いた)。このコンビの第九の録音は以前もあったと思うが、また新たに期すところがあるのだろう。今後もこのコンビは極力聴いて行くことにしたい。
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by yokohama7474 | 2017-11-27 00:51 | 音楽 (Live)