人気ブログランキング | 話題のタグを見る

セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)

セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_22582546.jpg
かつて我々が想像していた未来は、明るい希望に満ちたものであった。鉄腕アトムやドラえもんが人間と共存し、困った問題にはすぐに解決策が示される。大きな問題だけでなく、よしんばそれが小さな問題であっても、困難を克服することで、人類はまた次の希望を持つことができる。それこそが我々の夢見る未来であったのだ。だが、いつの間に世界は変わってしまったのであろうか。近い未来、遠い未来、なんであれ、我々がこれから迎えようとしている世界は、果たしてどの程度希望を持てるものなのであろう。この映画を見てそんなことを考えてしまった。だが待て。なぜに未来のことなのか。題名のセブン・シスターズとは、英国のドーヴァー海峡に面したこのような場所のことではないのか。
セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_23043423.jpg
もちろん私はこの場所を訪れたことがあって、その雄大な景色に痛く感動したのであるが、このセブン・シスターズという場所とこの映画の間には、全く何の関連もない。それもそのはず、この映画の原題は、"What Happened to Monday?" である。つまり、「月曜に何が起こったか」ということ。この映画を見た人は誰でも分かるのであるが、これは実に秀逸な題名である。残念ながら、「セブン・シスターズ」では、この題名に込められたサスペンスを到底理解することはできない。ただその一方で、この題名にはそれなりの理由があって、それはつまり、この映画の主人公は 7人の姉妹なのである。これは予告編で既に明らかになっていたことなので、ネタバレには当たらないと整理して、この映画の前提を書いてみよう。
・近未来、世界は人口増加によって深刻な食糧難に陥っている。
・その問題を解決するため、遺伝子操作によって食物の大量生産が成し遂げられた。
・それによって食糧難が克服できたと思われたが、遺伝子操作による思わぬ副作用が現れた。
・それは、人間の多産性。つまり、一回のお産で多くの子供が生まれるようになってしまった。
・そのままではまた食糧危機が起こってしまうので、政府が立てた方策は、どの家庭も一人っ子しか認めないというもの。
・だが、既に多産が起こってしまっている状況下、生まれてくる多くの子供をなんとかしないといけない。
・そこで政府は、各家庭で選ばれた一人以外の子供を冷凍保存し、将来いつか食糧問題・人口問題が解決する日に、また蘇生するという方策に出た。
・ここにひとつの家族があって、ある女性が、父親の分からぬ子供を身ごもり、その七つ子を産んですぐに死んでしまう。
・その女性の父は、自分の孫にあたるその 7人の女の子たちを秘密裏に引き取り、古いアパートの最上階にかくまう。
・その 7人の女の子たちは、月曜から日曜まで、それぞれの曜日を名前として与えられる。つまり、Monday、Tuesday .... Saturday、Sunday。
・小学校に入る年齢になると、それぞれの子は自分の名前と同じ曜日に外出し、7人で一人の人格を演じることとなる。
・その生活を続けた 7人の女性は、既に 30代に至り、社会的にも重要なポジションを得ることになる。
・だが、彼女らの行っていることは、一人っ子しか認めないという政府の方針に逆らっており、極めて危険なこと。
・そしてある日、月曜日に Monday さんが外出し、そのまま戻らない。さぁ、どうする姉妹たち???

改めて、なかなかよくできた設定だと思う。そしてこの映画は、この秀逸な設定の中で、ハラハラドキドキ、先を読ませない展開を見せるのだ。こんなに面白い映画はそうそうないと思う。これが 7姉妹。
セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_23305120.jpg
それぞれに全く違ったいで立ちであり、全く違ったキャラクターなのであるが、実は演じているのは一人の女優。1979年スウェーデン生まれのノオミ・ラパスである。経歴を調べるといろいろな映画に出ているが、私もそれと知ってなるほどそうかと思ったことには、リドリー・スコットの「プロメテウス」の主役を務めていた人である。名作「エイリアン」の前日譚にあたるこの映画、最高の作品と絶賛するつもりはないが、それなりにインパクトのある映画ではあった。特に、この女優が演じたこのシーンは実にエグいもので、一度見たら忘れまい。うー、ブルブル。
セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_23380053.jpg
この作品の中のシーンでは、随所にこの 7人の姉妹が交錯し会話していて、誰もが、一体どうやって撮ったのか不思議に思うことだろう。それぞれのキャラクターを演じるノオミ・ラパスの演技が極めて自然なので、本当に、同じ顔をして違うテイストを持った 7人が存在しているのではないかと思うほどだ。それゆえ、Monday が行方不明になった翌日に Tuesday が何食わぬ顔で外出するところから、本当にハラハラするのである。これ、ひとりの女優が演じていると信じられますか?
セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_23434418.jpg
設定がうまく出来ている上に、話の流れを作るのが大変に巧いので、見ている人はどんどん引き込まれていく。スリルとサスペンス、そしてそこはかとないユーモア。そのストーリーの展開において、次々と襲い掛かる試練に立ち向かう姉妹たちに、観客はそのうち深く感情移入することになる。そして大詰めでは、最初に行方不明になった Monday に一体何が起こったのかが明らかになり、おぉなるほど、この映画の本質はまさに「Monday に何が起こったか」であることに気づくのである。これは秀逸な映画である。しかも、姉妹たちの祖父にウィレム・デフォー、一人っ子政策を強く推進する政治家にグレン・クローズが配されていて、その演技のレヴェルは極めて高い。
セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_23513593.png
セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_23524731.jpg
この映画を監督したのは、ノルウェイ出身のトミー・ウィルコラ。主演女優と同じ 1979年生まれで、これまでマニアックな映画を 4本撮っているが、日本で劇場公開されるのは本作が初めてとなるらしい。今後は注目する必要があるだろう。
セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_23563955.jpg
つまりこの映画は、ともに北欧生まれの監督と主演女優によってこれだけ面白いものになったわけだが、実はほかの役者にもノルウェイ出身がいて、さながら北欧の才能が結集した感さえある。このような映画を見ることができる我々は本当に恵まれている。ただ、現在上映しているのは新宿のシネマカリテのみで、12/1 (金) が最終上映日である。それまでに一人でも多くの人に見て頂きたいと、お薦めしておこう。

それにしても、これから数十年後の世界がどうなっているか、想像することも難しい。まさかこの映画で描かれているような事態が現実に起こっていることはないとは思うが・・・。いずれにせよ、映画は嘘の塊であり、その嘘をいかにリアリティを持って描くかに醍醐味がある。この映画のように立派な嘘をつければ、見る価値があろうというものだ。そんな映画の題名として、"What Happened to Monday?" から「セブン・シスターズ」に変えられてしまう点にはしかし、大いに疑問を感じる私である。これはいささか困った問題ではないかと、Monday (モンダイ) さん自身が言っておられます (笑)。だからこの映画の邦題は、「Monday の問題」とでもすればよかったのではないですかね。
セブン・シスターズ (トミー・ウォルコラ監督 / 原題 : What Happened to Monday?)_e0345320_00073882.jpg

by yokohama7474 | 2017-11-29 00:08 | 映画