川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
by Crop Stock
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
> 吉村さん この作品..
by yokohama7474 at 21:14
本日5日の公演に行って来..
by 吉村 at 19:53
> カギコメさん 熱い..
by yokohama7474 at 22:29
> 吉村さん そうでし..
by yokohama7474 at 00:36
22日におられたんですね..
by 吉村 at 21:57
> michelange..
by yokohama7474 at 23:53
Crop Stock_y..
by michelangelo at 17:24
> 吉村さん 私もヤン..
by yokohama7474 at 22:38
マーラーの3番を聴けるの..
by 吉村 at 22:24
> eastさん コメ..
by yokohama7474 at 22:54
メモ帳

ザ・サークル (ジェームズ・ポンソルト監督 / 原題 : The Circle)

e0345320_23215648.jpg
このブログでは、時に 30年前かそれ以上前のことを、つい昨日のことのように書いていることがままある。実際、人の生活の本質的な部分には、何十年どころか何百年、ひょっとしたら何千年も変わらない部分はきっとあるだろうと思う。だが、もし我々が今この瞬間、30年前に世界に戻って、スマホや SNS のない世界で生活しなさいと言われたら、どうしたらよいか分からないという人も結構いるであろう。この映画は、そのようにネットに生活を支配されつつある現代人の身に起こる恐怖を描いている。私は SNS 派ではなく、日常生活のすべてをネットに乗っ取られているわけではないが、現代に生きる人間としては、下手な怪談よりもよほど怖そうなこの作品は、見ておきたいと思ったのである。それには明確な理由があって、主演がエマ・ワトソン、共演がトム・ハンクスというメジャーな俳優を使っていることだ。前者はともかく後者は、出演する作品すべてを見たいと思わせるほどの、現代最高の名優であると私は考えているのである。
e0345320_23420699.jpg
上映が始まって、若干の違和感があったのは、最初に出て来る制作会社のロゴに、なじみのものがない。最近邦画でも結構見かけるワーナーブラザーズとか、ユニヴァーサル、コロンビア、20世紀フォックスというメジャーな会社は全く見当たらないのである。このプロダクションにこの俳優ということは、低予算ながら工夫を凝らした優れた映画か、さもなくば意欲が先走った残念な映画か、どちらかではないか・・・という想像が冒頭から働く。

ストーリーは予告編で理解できた通りで、簡単と言えば簡単。SNS 会社に就職した若い女性、エマ・ワトソン演じるところのメイ・ホランドが、その会社で頭角を現す。その会社の創業者のひとりである、トム・ハンクス演じるところのイーモン・ベイリーが主張する SNS から展開する新しい世界の中で、メイの、そして人々の何かが歪み始める・・・というもの。題名の「ザ・サークル」とは巨大 IT 企業の名であり、「トゥルーユー」という SNS サービスの提供で急速に業績を伸ばしているという設定である。主役のメイは、それまで納得のいかない電話での顧客対応の仕事についていたところ、友人の紹介でこの会社に転職し、このように日々端末に向かって努力することで、顧客対応のスキルを上達させて行く。このあたりのテンポはなかなかよい。
e0345320_00290018.jpg
だが、その後のストーリーの展開には不満がある。ネタバレを避けながらそれを書くのは難しいが、要するにこの会社が進める方向には規制も絡み、政治家との関係も出てきて、自由な社風の中で社員の士気が高いように見える中で、プライヴァシーの観点から段々行きすぎが生じるようになり、メイの心は引き裂かれ、あまつさえ、思わぬ悲劇まで起きてしまう、というストーリーなのだが、これを現代の恐怖というなら、さらにシニカルな要素が欲しかった。例えば、「おいおい、そんなことありえないでしょ」と思わせる間は観客を笑わせておいて、ある瞬間に突如その笑いが凍り付き、観客は奈落の底に突き落とされる・・・そんな流れがあればよかったのに、と思ってしまう。いやもちろん、観客に突然のショックを与える瞬間はあるのだが、そのシーンの出来はあまりよいとは思わない。この映画は残念ながら、最初の方は「現代なら、こういうことにもなるかもね」と思う設定もあるが、話が進むうちに「いやいや、これはないって」という気持ちになってくる。そうなると、何かもっと工夫がないと、やはり映画の流れで観客の心を掴むのは難しくなってしまう。例えばこの黒人俳優、今の「スター・ウォーズ」シリーズにも出ているジョン・ボイエガという人だが、キャラクターの設定は悪くないのに、肝心のところでストーリーの展開にそれほど大きく貢献しない。ちょっと残念だ。
e0345320_00390821.jpg
面白い点があるとすると、劇中で世界中の人たちから常に見られる存在となるメイ役のエマ・ワトソンは、「ハリー・ポッター」シリーズによって実際に世界中の人々から見られる存在であったということだ。劇中で彼女が、多くの社員たちと、ネットを通してその向こうにいる全世界の「トゥルーユー」ファンたちを前に喋る姿を見ると、なるほど 10代の頃から世界に知られる存在であったことが思い起こされる。それは実際大変な緊張感であろうが、既にそんなことには慣れていると言わんばかりに、自然体で演技する点には好感が持てる。
e0345320_00454496.jpg
だが、このエマ・ワトソンの演技の質自体については、私としては今後に期待ということにしておきたい。自然体でいて人の心を動かすというレヴェルには、残念ながら未だ達していないと思う。それにひきかえ、トム・ハンクスはさすがである。時に不気味な光を放つその目の動きひとつ、ジョークを交えた軽妙な喋り方ひとつ取っても、彼の演じている人物の表面と内面の複雑な乖離が滲み出てきている。つまり、明らかに熱血漢ではあるが、その人生の目標が、ビジネスの成功であるのか純粋な好奇心であるのか、また、他人に対して理解があるのか冷酷な人間なのか、そのあたりの答えを観客に単純には与えない。恐らくは、そのどれもがこの人物の真実なのであろう。出演シーンはさほど多いわけではないのだが、その存在感は絶大である。
e0345320_00501367.jpg
このように、トム・ハンクスの演技を除くと素晴らしい出来とは言えないと思うのだが、ひとつ、奇妙で不幸な出来事によって、この映画がただならぬものになっているという事情があるので、ご報告しよう。劇中でエマ・ワトソンの両親役を演じるビル・パクストンとグレン・ヘドリーのふたりともが、なんと、この作品の撮影中または封切直前に、相次いで急死しているのである。
e0345320_00582727.jpg
奇しくもふたりとも 1955年生まれの同じ年。前者は「ターミネーター」「エイリアン 2」「タイタニック」というジェームズ・キャメロン映画に何本も出ているほか、「ツイスター」も記憶にある。後者はそれほど有名な出演作はなさそうだが、なかなか味のある女優さんである。実は、上の写真でもそれと知られるかもしれないが、ビル・パクストン演じる父役は難病を患っているという設定で、なかなかに鬼気迫る演技であったのだが、撮影後の心臓病の手術の後、亡くなったらしい。母役のグレン・ヘドリーは、撮影中に肺血栓で死去。劇中でもこの二人が IT の恩恵を被る一方で、恥ずかしいところを全世界に目撃されたりする、いわば先端技術に翻弄される設定であったが、偶然とは言え相次いで亡くなったことを知ると、IT に憑り殺されたかのようで、何か不気味なものを感じる。

ところでこの映画のスタッフにはビッグネームがいて、それは音楽のダニー・エルフマンだ。ティム・バートンの映画の数々で知られる人だが、通常はオーケストラを使って線の太い音楽を書くイメージだが、ここではミニマル・ミュージック調の音楽を書いていて、IT の暴走という現代の恐怖をユニークに描いているとは思う。だがやはり、脚本も手掛けている監督のジェームズ・ポンソルト (インディーズ出身のようだ) の手腕に、本作に関しては課題あり、というのが私の整理である。原作はデイヴ・エガーズという人のベストセラー小説であるそうだが、そちらの方はまた違ったインパクトがあるのだろうか。
e0345320_01212697.jpg
と、映画としては残念ながらあまり高く評価できないというのが私の意見だが、これからこの種の映画は増えてくるかもしれない。どんどん進化する IT と、果たして私たちはどのようにつきあって行くことになるのだろうか。最近の凶悪犯罪でも SNS が使われたというショッキングな事実もある中で、せめて映画の中では、そのショックを打ち消すようなヒューマニティを信じたいし、その表現にはやはり高度なものを期待したいのである。

by yokohama7474 | 2017-12-02 01:24 | 映画 | Comments(0)
<< フィリップ・ジョルダン指揮 ウ... バリー・シール / アメリカを... >>


最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧