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ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 (ホルン : ジャーマン・ホルンサウンド) 2017年12月 2日 サントリーホール

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しばらくぶりに、英国の名指揮者ジョナサン・ノットが、音楽監督を務める東京交響楽団 (通称「東響」) を指揮するのを聴いた。東京のオケのシェフの中でも、ノットはその登場頻度、プログラムの凝り方、演奏会本番でのその献身ぶり、オケの発展に向けて込められたその熱意、いずれもトップクラスであると思う。その彼が今回用意したのも、それはそれは興味深い曲目である。
 リゲティ : ハンブルク協奏曲 --- ホルンと室内アンサンブルのための (ホルン : クリストフ・エス)
 シューマン : 4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック (ホルン : ジャーマン・ホルンサウンド)
 ベートーヴェン : 交響曲第 3番変ホ長調作品55「英雄」

手元にあったはずのチラシが見当たらず、やむなく上にはノットの写真を掲げているのだが、そのチラシには、「音楽監督ノットのホルン大集合」とあったはず。そう、ここでは、ホルンが活躍する曲が集められているのである。そして今回は、ドイツ人のホルン奏者 4人組、ジャーマン・ホルンサウンドがシューマンにおけるソロ (と言ってよいのかな、4人でも 笑) を吹く。
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この 4人組はもともと、シュトゥットガルトでクリスチャン・ランバートという教授に教わった同窓生であるらしい。リーダーとおぼしきクリストフ・エスは現在バンベルク交響楽団の首席ホルン奏者。バンベルクと言えば、昨年までノットが首席指揮者を務めていたオケであるから、そのつながりもあるのだろうか。

さて、よくドイツ人にとってホルンは、森の狩りに使われた楽器ということで、自分たちのルーツのように考えていると言われる。実際、ウェーバーの「魔弾の射手」が典型で、ワーグナーやブルックナーにおいてもホルンは極めて重要だ。だからドイツ人が集まったホルンのグループの存在には納得が行く。問題はレパートリーで、当然新規開拓も行っているようだが、このシューマンのコンツェルトシュテュックなどはさしずめ、名刺代わりの手慣れたレパートリーということなのだろうか。この曲、随分以前にクラウス・テンシュテットがベルリン・フィルを振った録音があったので、それで何度か聴いたことはあるが、決して頻繁に演奏される曲ではないので、この機会は貴重である。先にこの曲の感想を書いてしまうと、このグループの技術が完璧で水際立っていたかと言えば、残念ながら若干の技術的な課題は残ったような気がするが、いかにもシューマンらしい情熱と抒情を併せ持つこの曲を久しぶりに聴くには、なかなか豪勢な感じであった。また、アンコールとして、ブルックナーの「4本のホルンのための3つのコラール」よりアンダンテが演奏された。これは抒情的なよい演奏だった。ちなみにこれが、コンツェルトシュテュックの入ったテンシュテット盤のジャケット。懐かしいですな。
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順番が逆になったが、最初のジェルジ・リゲティ (1923 - 2006) の曲は、ハンブルク協奏曲という名前がついたホルン協奏曲。このコンサートにでかける数日前、我が家にこの曲の CD があったかなぁと思って、グラモフォンのリゲティ作品集 4枚組を調べたが、入っていない。だが、テルデックの「リゲティ・プロジェクト」というシリーズの 4作目に、入っていましたよ!! こんなジャケットである。
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実はこの CD ではジョナサン・ノットも演奏者として参加しているが、このハンブルク協奏曲を指揮しているのはラインベルト・デ・レーウ (私のお気に入りの指揮者でありピアニストであり作曲家) であって、ノットは別の曲 (レクイエム) を指揮している。ともあれ、この CD のおかげで、15分ほどのこの作品の予習をすることができたのだが、これは短い 7つの楽章からなる曲で、リゲティ特有の浮遊感と懐かしさをたたえている。耳障りは悪くなく、時にヴァイオリン協奏曲のオカリナなどを思い出したりする。民俗的と言い切ってしまうのも少し違和感があるが、少なくとも西ヨーロッパの正統的な音楽とは趣きが異なっていて、まさにリゲティの音楽としか言いようがない。ここでは独奏ホルンは 1本だけ (但し、通常のものと、バルブのない古いものとの持ち替え) であるので、ソロはひとりだけで、それがクリストフ・エスだ。多彩な音を見事に繰り出していたが、なかなか大変なことである (笑)。ノットは小規模なオケを、指揮棒を使わずに素手で指揮して、丁寧なバックをつけていた。
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さて、メインの「エロイカ」であるが、この曲におけるホルンの聴きどころというと、もちろん第 3楽章スケルツォのトリオである。まさかこの部分だけ、ジャーマン・ホルンサウンドがソロ (?) で吹くのだろうか、しかも、楽譜の指定は 3名なのに 4名で演奏するのだろうか、などとあらぬことを考えていたが (笑)、もちろんそんなことにはならず、東響のメンバーによる演奏であった。さてこの「エロイカ」、大変に興味深い演奏であった。ヴァイオリンの左右対抗配置はいつもの通りだが、コントラバス 5本、チェロ 6本の小さめな弦の編成である。だが、その規模のオケを率いてノットが唸りながら最初に引き出した 2つの和音は、充分に重量感のあるもの。そしてそこから流れ出した音楽は、流れがよいことはよいのだが、かなり強いアクセントが時折入り、非常に表現力の強いもので、弦のヴィブラートも、過剰にならない範囲でかかっていた。実際、音楽が熱してくると若干テンポが速まる場面もあり、そこには感情の昂りによる即興性まで感じられ、小股の切れ上がった小綺麗な演奏というイメージとは遠い。そして、随所でティンパニが轟音を響かせ、聴き手の耳にストレートに力強さを印象づけたのである。第 3楽章と第 4楽章を続けて演奏したのはまず一般的として、第 1楽章と第 2楽章もほとんど続けて演奏していた点、ノットの意図は、個々の部分の強調ではなく、全体の大きな流れを作り出すことではなかったか。東響はその意図をよく汲んで、素晴らしく説得力のある感動的な演奏を展開した。終演後のノットは大変嬉しそうで、普段彼がほとんどやらない、個々の奏者を起立させて聴衆の拍手に応えることをやっていた。きっと彼自身としても会心の演奏になったのだろう。ただ私の思うところ、ここにあと、音の芯のようなものが加われば、もう言うことなしなのだが・・・。今回の「エロイカ」の演奏は東京で 1回だけで、あとは新潟でしか演奏されないが、オクタヴィオレーベルがライヴ録音していたらしいので、いずれ録音でその成果を広く世に問うことになるだろう。

ノットと東響は、現代曲でも古典でも何でもござれであり、縦横無尽に説得力のある音楽を奏でる素地が出来つつあるように思う。実はこのコンビ、一週間を置いて、また大きなチャレンジをすることになる。それに対する期待感が、徐々に募って来ている私である。ご存じない方も、一体どんな試みなのか、楽しみにお待ち頂きたいと思う。

by yokohama7474 | 2017-12-03 02:05 | 音楽 (Live)