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フィリップ・ジョルダン指揮 ウィーン交響楽団 2017年12月 3日 サントリーホール

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ウィーン国立歌劇場の次期音楽監督に内定しているスイスの指揮者、43歳のフィリップ・ジョルダンが率いるウィーン交響楽団の来日公演も、これが最終日。11/26 (日) の横浜公演を皮切りにちょうど一週間、12/3 (日) のこの公演までの 8日間の間に 7公演をこなすというハードスケジュール。順番に言うと、横浜 - 福岡 - 名古屋 - 福井 - (1日休んで) 東京 - 西宮 - 東京という具合で、先の記事でご紹介した 12/1 (金) のサントリーホールの公演の翌日、12/2 (土) の 14時には西宮で公演、そして何食わぬ顔でその翌日、ここでご紹介する 12/3 (日) の 14時からのサントリーホールでの最終公演に臨んだわけである。そしてこの日の曲目は、まさに名曲プログラム。
 ベートーヴェン : 交響曲第 5番ハ短調作品67
 ブラームス : 交響曲第 1番ハ短調作品68

以前の記事に書いた通り、今や世界で最も期待される若手指揮者のひとりであるジョルダンを聴くには、まるでハンバーグやカレーライスのようなポピュラーな曲だけではなく、少しは骨のある曲を聴きたいという思いもありながら、だがしかし、そのハンバーグやカレーライスにおいて、演奏家のテンペラメントははっきり分かるはずではないか。そう自分に言い聞かせて、会場であるサントリーホールに向かったところ、大入り満員の大盛況。ともあれハンバーグやカレーライスは多くの人の好物なのであろう。かく言う私もそうであり、実際にその日の昼食はハンバーグだったのである (笑)。
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席についてステージを見渡すと、この日のプログラム 2曲のいずれにも使われないはずの、小太鼓と大太鼓、しかも後者にはシンバルの片方がつけられているのが分かった。ということは、アンコールはまた、あれなのであろうか (その時にはトライアングルは見えなかった)。それから、ふと気づいたことには、今回ジョルダンとウィーン響が東京公演で採り上げた 4曲には共通点がある。それは、いずれも最後の 2つの楽章が続けて演奏されるということだ。メンデルスゾーンのヴァイオリン・コンチェルトは全 3楽章がそもそも続けて演奏されるし、ベートーヴェンの 5番は第 3楽章から第 4楽章にかけては切れ目がない。そして、マーラーとブラームスのそれぞれの第 1交響曲では、多くの演奏で第 3楽章と第 4楽章は切れ目なしに演奏されるのだ。

だがこの日のベートーヴェン 5番は、演奏自体には奇をてらった要素は皆無であるくせに、どの楽章間でもほとんど休止を取らなかったことに驚いた。よく第 1楽章を駆け抜けたあと、指揮者が楽員の熱演を労いながら第 2楽章の準備をするものだが、この日の演奏ではそうはならず、すべての音は一続きになっていた。ヴァイオリンは左右対抗配置で (これは今回の 2回の演奏会で終始一貫していた)、コントラバス 6本の、この曲にしては標準編成での演奏。以前の記事でご紹介した通り、このコンビによるこの交響曲の CD は、今回日本ツアー用に先行発売されており、それを聴いて予習して行った私には、なるほどジョルダンのイメージするベートーヴェンの 5番の純音楽的な性質はこういうものかと、その持ち味を充分に堪能することができたのである。前回の記事での感想と重複するが、情緒に溺れることのない、疾走感のある演奏で、曲想の変転の中でも、タメを作って大見得を切ることはほとんどない。陳腐な表現だが、現代風のベートーヴェンと言ってよいだろう。その響きの現代性は、ウィーン・フィルとは異なる個性を持つウィーン響にはふさわしく、なるほどハンバーグの調理方法にも時代による変遷があるのだなと思い知った次第。ちなみに今回の演奏では、第 3楽章ではかなり演奏が進んでから、冒頭から繰り返しを敢行していた。因みにこのジョルダン、もうひとつの手兵であるパリ・オペラ座管弦楽団を指揮して、既にベートーヴェンの交響曲全集の映像を世に問うている。いずれ見てみたいものだと思っている。
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そして後半のブラームス 1番。ここではコントラバス 8本と、この曲のドラマ性を反映した充分な弦楽器のサイズであった。ここでも演奏スタイルは同じで、タメを作らずにスムーズに流れる音楽であり、大変美しい。このブログで何度も唱えている通り、まずはオケの音が上質でないと成功しないブラームスの交響曲の演奏としては、まずはそれだけでも聴く価値は充分にありだ。そして、前回のマーラー「巨人」の演奏でいささか物足りなく思った音の軽さも、ここではさほど感じられず、迫力と美感に満ちたブラームスであった。伝統的なドイツの重々しい音楽というイメージとも異なり、まさに今、我々が聴くべき価値のある素晴らしい演奏であったと思う。

そしてアンコールは、まずお決まりのブラームスのハンガリー舞曲 5番。ここではトライアングルが登場し、テンポをほぼ保ちながらも、後半にはほんの少し追い込みをかける方法が成功していた。そしてアンコールの 2曲目は、前回と同じ、ヨハン・シュトラウスの「トリッチ・トラッチ・ポルカ」。なるほどこれで小太鼓は登場した。だが未だ、大太鼓とシンバルが登場していない。もちろんそこでの期待はまた「雷鳴と電光」であり、楽員たちも譜面を閉じたり開いたりして、3曲目のアンコールがあるのか否か判然としないようであったが、結局 3曲目はなく、今回のジョルダンとウィーン響の日本ツアーは、これにて幕を閉じたのである。これは今回の来日に際して、オケの楽団長と並んでいるジョルダンの写真。初来日のコンビにしては多くの聴衆を集め、まずは大成功であったろう。
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私にとってのジョルダンは、ある演奏で圧倒的な思いをするという出会いがあったわけではなく、オペラを何本か見るうちにその能力を実感したという、いわば自然に視野に入ってきた人。父アルミンへの思い入れもあって、私としては注目の指揮者であったが、初めて聴いてから早 15年、彼はこれから大輪の花を咲かせようとしている。次に聴く際にはハンバーグやカレーライスでない曲を期待したいが、その前に、もうすぐ公開される映画で、ジョルダンの仕事ぶりを見てみたい。それは、パリ・オペラ座の活動に関するドキュメンタリー映画、「新世紀、パリ・オペラ座」である。予告編でもジョルダンが出て来るシーンがあり、その真剣さが彼らしいと思う。12/9 (土) から Bunkamura ル・シネマで上映である。楽しみにしたい。
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by yokohama7474 | 2017-12-04 01:04 | 音楽 (Live)