川沿いのラプソディ


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井上道義指揮 日本フィル (ピアノ : 渡邊康雄) 2017年12月 8日 サントリーホール

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このところ機会があれば極力出掛けるようにしている井上道義の演奏会、今回は日本フィル (通称「日フィル」) の定期公演である。井上と日フィルの組み合わせはあまり多くないと思うが、昨今の井上の充実ぶりを思うと、これはやはり必聴の演奏会なのである。というのも、プログラムがとても面白い。
 ラヴェル : 組曲「マ・メール・ロワ」
 八村義夫 : 錯乱の論理 作品12 (ピアノ : 渡邊康雄)
 ベルリオーズ : 幻想交響曲 作品14a

上に掲げたチラシには、「『錯乱の論理』&『幻想』井上ならではの異形のプログラム!」と、ビックリマークつきのコピーが記されている。実はこのチラシの裏側には面白いことが書いてあって、「『俺って、精神錯乱にみえるのか? (大笑)』と井上自らが言い放って即決した今回のプログラム」だそうだ。このプログラムには様々な背景があると判明したことは追って言及するが、ともあれ、メインの幻想交響曲が楽しみだ。この曲は、ほんの 2日前にゲルギエフとマリインスキー歌劇場管の熱演を聴いたばかりだが、曲の内容たるや、作曲者自身が恋をして、自暴自棄の中アヘンを吸って見る幻想の中で、その恋人を殺して自分も死刑になり、そして悪魔に囲まれた中で変わり果てた恋人が不気味な姿を現わすとという、まぁなんとも強烈なものであり、まさに精神錯乱の音楽。実際井上の指揮には、精神錯乱とは言わないが、この幻想交響曲が必要とする異常なまでのエネルギーが備わっており、そうであるからこそ、彼の指揮するこの曲は、是非とも聴いてみたい。ただ今回は冒頭に、錯乱とは程遠い童話 (マザーグース) の世界を描いたラヴェルの傑作「マ・メール・ロワ」が入っているのが面白い。
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ラヴェルが書いた数々の精緻な作品の中でも、癒し効果が最も高いのはこの「マ・メール・ロワ」であろう。ここで井上は、先のゲルギエフのコンサートに触発されたわけではあるまいが、指揮台なしで演奏した (ほかの 2曲は指揮台あり)。この Intimacy は誠に心地よいもので、日フィルの優れた木管が、とても今回のテーマが異形とか精神錯乱であるとは思えない (笑) 美しい音色で演奏をしたのが、大変に素晴らしいと思った。井上の指揮も、いつもの通り腕はよく動くものの、この愛らしい音楽を慈しむような雰囲気であったのは好感が持てた。

2曲目は、八村 (はちむら) 義夫 (1938 - 1985) の代表作「錯乱の論理」である。八村は、日本の作曲家として 40代で早世した人としては、矢代秋雄と並ぶ存在 (奇しくもともに 46歳で死去) で、私もこの「錯乱の論理」は、題名は以前からよく知っている。だが、実演を聴くのは初めてだと思う。
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この曲は 1975年に初演され、5年後の 1980年に改訂版が初演されている。10分足らずの短い曲であるが、巨大な編成のオーケストラを必要とする。その音響は実に強烈で深刻。いかにも昭和の前衛というイメージではあるものの、一言でまとめれば表現主義的。後半には結構美しいメロディの断片も出てきて、聴いていて面白い曲である。私は常々、井上の資質の最良の部分は現代音楽において発揮されると思っているのだが、ここでも素晴らしい表現力を発揮していた。この曲にはピアノ・ソロが登場するが、今回のソロは、1980年にこの曲の改訂版を初演した渡邊康雄。
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今年 68歳になる渡邊は、周知の通り、この日フィルの創立者、故・渡邊暁雄の長男である。渡邊暁雄と日フィルの演奏は、実演でも何度か聴いたし、ライヴ録音を集めたアンソロジーも持っている。素晴らしい指揮者であった。彼の功績はなんと言ってもシベリウス (世界初のステレオでの交響曲全集は、この渡邊と日フィルによって作られた)。だが彼は現代音楽も得意にし、若い指揮者たちの後押しも行って、日本のオーケストラ音楽に大きな貢献をした人である。だからこの演奏、このオケとこのピアニストの顔合わせが意義深いし、それから、あとで明らかになった通り、指揮者もそこにご縁があったのである。今回の「錯乱の論理」で、渡邊康雄はクリアなタッチを聴かせた。井上が腕を振り回し体をのけぞらせ、顔を真っ赤にして引き出すオケの狂乱的な音に、ピアノが埋もれがちではあったものの、さすが 37年前に改訂版を初演しただけあって、隅々まで曲を知り尽くした演奏は見事であった。

そしてメインの幻想交響曲であるが、2日前に聴いたゲルギエフの演奏との差異は、指揮者が (譜面台にスコアが置いてあるにもかかわらず) 暗譜で振ったこと、第 1楽章の提示部を反復していたこと、第 2楽章ではコルネットを使用していなかったこと、第 3楽章での舞台裏のオーボエは、先の演奏では、舞台に出ている奏者とは別の奏者が、ステージ下手の上の方 (LA ブロックの後ろ) で吹いたのに対し、今回は舞台にいた奏者が抜け出て舞台裏で演奏し、また戻ってきていたこと。一方で演奏には似た面もあって、冒頭は少しゆっくり目で始まり、主部に入ると雪崩れ込むように力を入れる設計であったことや、激しい部分での突進力も共通するものがあった。それは取りも直さず、この異形の交響曲の本質を、いずれの指揮者も的確にとらえていたということだろう。ただ惜しむらくは、第 1楽章で弦がかなり乱れてしまう箇所があり、ホルンに若干のミスがあったことであろうか。それから、オケ全体でもう少し重みがあるともっとよかったかもしれない。このあたりは、指揮者とオケの呼吸の問題も少しはあったのかもしれず、今後共演が増えれば、もっとよくなって行くであろう。実は今回の客演コンサートマスターは田野倉雅秋という人で、現在名古屋フィルと、それから井上が率いる大阪フィルのコンマスを兼ねているという。井上は、恐らく久しぶりの日フィル客演に際して、気心知れた大フィルのコンマスを連れてきたということであろうか。
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そして、終演後に井上がマイクを持って登場して語ったことには、最近はこの幻想交響曲はあまり振らない、なぜならこれは若い指揮者が振るべき曲だからだと。そして、なんでも彼が海外での修業を経て、初めて日本のプロのオケを指揮したのはこの日フィルで、曲は今回と同じ幻想交響曲であったという。そして彼の日フィル登場に際しては、渡邊暁雄の後押しがあったとのこと (だから今回は、本当に様々な縁に恵まれた演奏会だったのである)。そして井上は、信じがたいことに、今から 40年ほど前のそのデビューの時に演奏していた楽員で、未だに在籍している人たちがいると言って、その数人の楽員を起立させた。そして、聴衆の後押しと、まあ決して若くもないが年寄りではない日フィルのメンバーによって、いい演奏ができたと思う、ありがとうございました!! と言って話を終えた。いかにも彼らしいトークだったと思う。

因みに、帰宅してから、貴重な資料である「日本の交響楽団 定期演奏会記録 1927 - 1981」を紐解いてみると、確かにありました。1976年 5月19日に、井上は日フィルとこの曲を演奏している (ほかの曲目は、広瀬量平の弦楽のためのファンタジーと、中村紘子をソリストに迎えてのシューマンのピアノ協奏曲)。ちょっと興味があって、日フィルでその前 (1973年に新日フィルと分裂する以前) にどんな指揮者がこの幻想交響曲を指揮したか調べてみると、以下の通り。
 1957年 11月 渡邊暁雄
 1962年 12月 シャルル・ミュンシュ
 1965年 4月  イーゴリ・マルケヴィチ
 1966年 6月  森正
 1967年 11月 ルイ・フレモー
 1969年 4月  若杉弘
 1971年 9月  小澤征爾

うーんなるほど。素晴らしい顔ぶれではないか。改めてこの楽団の歴史を思い知る。

さて、最後にもうひとつ、興味深い話を披露しよう。実はこの井上道義と日フィルは、来年 2月 9日から 2月21日にかけて、九州各地をツアーするのである。マーラー 5番やベートーヴェン 7番を含む意欲的なプログラムで、熊本、大牟田、北九州、長崎、佐賀、大分、唐津、福岡、鹿児島、宮崎と、実に 10都市を回る!! 東京のオケの地方公演は珍しくないが、このようにひとつの地方を網羅するというのは珍しく、大変意義深い活動である。ただ、実は私が無知であっただけで、日フィルは実に 1975年から毎年 2月にこれを行っていて、来年が 43回目らしい。素晴らしいことだ。九州在住の方たちには、この機会に井上 / 日フィルの新境地を聴いてみることをお薦めします。

by yokohama7474 | 2017-12-09 01:44 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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