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ローガン・ラッキー (スティーヴン・ソダーバーグ監督 / 原題 : Logan Lucky)

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本作の監督、スティーヴン・ソダーバーグは、一般的には「オーシャンズ 11」シリーズで知られた人である。だが彼のフィルモグラフィーはそのシリーズだけではなく、処女作にしてカンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した「セックスと嘘とビデオテープ」(1989年) 以来、共作やテレビ映画を含めると、これが 28本目の監督作で、ほぼ毎年映画を撮っていることになるが、その中には「エリン・ブロコビッチ」(ジュリア・ロバーツがアカデミー主演女優賞受賞)、「トラフィック」(アカデミー監督賞受賞)、「ソラリス」、「サイド・イフェクト」などの名作も含まれている。それだけの実績なのでかなり老齢かと思いきや、現在 54歳。まだまだこれからの活躍が期待される人である。
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実はこの人、4年前に一度映画からの引退宣言をしている。その後テレビを主な活動の場にしたのであるが、今回はある新人脚本家が書いた脚本に惚れ込み、映画復帰を果たしたらしい。うーん、いかなる理由があろうと、4年で復帰というのは、ちょっと早いようにも思われるが (笑)、ともあれ、その才能が既に証明されている監督が再び映画を撮るということには、大いなる意味がある。監督自身の言によると、彼の復帰は「技術的な理由とクリエイティブ上の理由が合わさった結果」とのことで、前者はつまり、今の環境では、メジャースタジオの手を借りなくても映画を作って公開することができることを指す。実際本作には、メジャー制作会社の関与は一切ない。後者はこの脚本の内容のことであろう。脚本家のレベッカ・ブラントはソダーバーグとその夫人の友人であり、ウェストヴァージニア州ローガンという街で、炭坑労働者の家庭で育った人だという。なるほど、この映画の題名の「ローガン」は、主人公兄弟の苗字だが、ローガンという名前の土地が実在するわけだ。また、本作の舞台はウェストヴァージニア州の炭坑であり、主人公は炭坑労働者であるので、つまりは脚本家自身の思い入れが作品に反映していることとなる。そういえば最近公開されたジム・ジャームッシュの「パターソン」も、実在の土地の名前が主人公の名前になっていたが、本作も同様であるわけだ。加えて、いかなる偶然か、前回の記事で採り上げた映画「動くな、死ね、甦れ!」もまた炭坑の街が舞台であった。

さてこの映画、ソダーバーグらしく非常にスタイリッシュにできているのだが、何より私が気に入ったのは、犯罪映画であるにもかかわらず、登場人物のひとりとして命を落とさないことだ。これは昨今の映画では、かなり珍しいことと言ってもよいのではないか。もちろん、見ていてスカッとする痛快無比な映画と呼ぶには躊躇を感じるが、癖の強い主要登場人物たちの人生の悲哀と少しの希望がいやみなく描かれているので、見たあとの余韻はなかなかよいものである。役者陣が豪華で、主役のチャニング・テイタム (このブログでは、「ヘイル、シーザー」と、もうひとつ、とある映画でその名を伏して紹介したことがある) と、その弟役を演じるアダム・ドライヴァー (「パターソン」の主役であり、現在公開中の「スターウォーズ」シリーズでカイロ・レンを演じている) は、その対照的な個性がまず素晴らしい。
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彼らが頼るのは、現在服役中の伝説の爆破犯であり、それを演じるのはダニエル・クレイグだ。もちろんあの 007役で知られる名優で、いつもは最高にカッコいいのであるが、ここでは粗野でいて、実は結構人間的な犯罪者の役を喜々として演じている。
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ヒラリー・スワンクは最後の方にしか出てこないが、実はなかなかに重要な役で、映画の後味のよさに大いに貢献している。
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キャサリン・ウォーターストーンも出番は少ないものの、なかなかに爽やかな印象を与える。この人、どこかで見たと思ったら、「エイリアン : コヴェナント」の主役であり、「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」にも出ていた。
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このならず者コンビもいい味出しているのだが、左側はジャック・クエイド。名前からしてデニス・クエイドの息子だろうと思ったらそれは合っていたが、母はなんとメグ・ライアンだ。右側はブライアン・グリーソン。このブログでは、彼の兄ドーナル・グリーソンについては、「エクス・マキナ」「バリー・シール / アメリカをはめた男」の記事で紹介したが、その弟であるとは興味深い。
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このような芸達者たちが繰り広げるドタバタ犯罪劇は、もちろんそこは「オーシャンズ11」シリーズのソダーバーグのことであるから、見事なテンポで展開し、大変面白い (一部、すぐには理解できないシーンもあって、二度見ろというメッセージかと勝手に理解している 笑)。あとで思い返してみて、さすがソダーバーグが惚れ込んだだけあって、脚本が実によくできていることに気づくのである。笑わせる部分も多いのだが、主人公として描かれているのは、携帯電話代も払えず (実はこれが重要)、職を失ってしまう貧困白人であり、高校生の頃フットボールのヒーローであったのに怪我によってアメリカンドリームを絶たれてしまった男であり、離婚した妻が養育しているかわいい娘に会える機会を生きがいにする父親である。またその弟は、国のために片腕を亡くしてしまう男である。米国にリアルに存在している不幸な人々の姿がこの兄弟によって表されていて、考えさせられる要素が多々あるのだ。つまりは、とことん Unlucky なローガン兄弟であるが、大きな勝負に出ることで、Lucky な人生に転身しようとするわけで、それが本当に成功するのか否かは、映画の終了後の想像上の展開によるのだが、それでも、大きな勝負に出ることの意義について肯定的であるからこそ、見終わったときに温かい気持ちになるのだと思う。よくできた脚本である。

そんなわけで、こんなよくできた脚本を書いた新人のレベッカ・ブラント (Rebecca Blunt) という脚本家についてちょっと調べてみたところ、日本語ではほとんど情報ないものの、面白い英語の記事を見つけた。実はこの脚本家が公の場所に出てきたことはなく、それは非常に異例であって、架空の人物であると断じる関係者もいるらしい。なるほど、確かに、いくらソダーバーグ夫妻の友人といったって、書き上げた脚本を、たまたまほかのプロデューサーや監督に見られることなく、ソダーバーグがさっさと映画化する権利を確保したとは、ちょっと不自然な感じがする。私が見つけた英語の記事では、架空の脚本家の正体は、ソダーバーグ夫人のジュールズ・アスナー (Jules Asner) ではないか、あるいはソダーバーグ自身か、との推測が述べられていた。このアスナーについては、やはり日本語での情報はほとんどないが、英語では Wiki もあって、それによると、1968年生まれのもとモデルで、テレビタレントで作家でもあるとのこと。なるほど、そうするとこの脚本は、もしかすると夫婦の共作なのかもしれませんね。もしそうなら、観客は、映画のストーリー展開で欺かれ、脚本家の正体で翻弄されていることになりますな (笑)。策士ソダーバーグ、もう映画を離れるなどと言わず、夫唱婦随で観客をだまし続けて欲しいものだ。これが夫妻の肖像。
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by yokohama7474 | 2017-12-16 00:30 | 映画