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第九 マルク・アンドレーエ指揮 新日本フィル 2017年12月15日 サントリーホール

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12月も早半ば。今年も日本のコンサートホールのあちこちで、第九、すなわち、ベートーヴェン作曲 : 交響曲第 9番ニ短調「合唱付き」作品 125が演奏される季節となった。第九シーズンが到来すると、何やら師走の慌ただしさを感じることにはなってしまうのだが、東京の音楽シーンをフォローするには避けて通れない。こうなったらとことん第九を楽しんでやろうと思うのが毎年のことなのである。私が予定している年末の第九は 5公演。これはそのうちの最初のものである。今試しに、サントリーホールの予定表を確認すると、このホールとしてもこの演奏会が今年の年末の第九の第 1弾。この 12/15 (金) から 12/29 (金) までの 2週間で、クリスマスシーズンの「メサイヤ」などを挟んで、第九の演奏は実に 10公演。もし将来引退して時間ができたら、ある年のサントリーホールでの第九をすべて踏破するようなことをするのも面白いかな、などと愚にもつかないことを考えている (笑)。

さて、新日本フィルハーモニー交響楽団 (通称「新日フィル」) によるこの第九を私が聴きたいと思ったのは、まずはその指揮者による。マルク・アンドレーエ。1938年スイス生まれの 79歳である。
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既に N 響や読響を指揮した実績があるようだが、日本での知名度はお世辞にも高いとは思われない。だが私の場合、妙なご縁で彼の名前を過去何十年にも亘って覚えているのだ。あれは確か高校生のときだったろうか。当時 FM 東京のクラシック音楽番組で、作曲家の柴田南雄がパーソナリティを務めるものがあって、時折聴いていたのであるが、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の何かのディスク録音の新譜 (記憶が定かではないが、ショルティとシカゴ響だったか) を紹介したあと、最も有名なラヴェルの編曲以外にも様々な版があることが紹介され、その中で「これは、アンドレーエっという指揮者の演奏なんですがね」(柴田はこのような穏やかな語り口の人であった) ということで、珍しい版の一部が放送された。その「アンドレ」ではなく「アンドレーエ」という発音が妙に記憶に残ったというわけだ。因みに今調べてみると、その編曲はトゥシュマロフという作曲家の手になるもので、Randam Classics というサイトで、このアンドレーエが若き日にミュンヘン・フィルを振った演奏 (1974年の録音) をダウンロードできる。なんと便利な時代になったものか!
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それから、比較的最近になって、やはりアンドレーエという名前が気になり、何セットかの CD を購入した。ひとつはこれだ。
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フォルクマール・アンドレーエ指揮ウィーン交響楽団によるブルックナーの交響曲全集。実はこれ、史上初のブルックナー全集なのである。1953年の 1月から 2月にかけて集中的に録音されたもので、全曲は揃っていないと思われていたのを、Music & Arts というマニアックなレーベルがすべて発見して、2009年に一挙発売したもの。このフォルクマール・アンドレーエ (1879 - 1962) が、今回の指揮者マルク・アンドレーエの祖父にあたる人なのだ。私も全曲聴いてみたが、正直なところ、演奏の質自体にはさほど感心しないものの、その歴史的価値を実感することができる。そしてこのフォルクマールは作曲家でもあって、私は彼のピアノ・トリオの CD を持っているが、孫のマルクは、交響曲の録音も行っているのである (会場でその CD を販売していたが、私は所持していない)。そんなわけで、マルク・アンドレーエの経歴の冒頭は、「スイスの著名な音楽一家に生まれる」という記述になっているのである。

さて、前置きが長くなってしまっているが、この指揮者についてのイメージを持って頂くためと大目に見て頂き、今回の演奏について触れて行こう。まず、「川沿いのラプソディ」特製、オリジナルの第九チェックシートで演奏を振り返ってみる。

・第九以外の演奏曲
  バッハ : コラール「目覚めよと呼ぶ声あり」BWV.645
      幻想曲とフーガ ト短調BWV.645
      (オルガン独奏 : 椎名雄一郎)
・コントラバス本数
  6本
・ヴァイオリン左右対抗配置
  あり
・譜面使用の有無
  指揮者 : あり
  独唱者 : なし
  合唱団 : なし
・指揮棒の有無
  なし
・第 2楽章提示部の反復
  あり
・独唱者たちの入場
  第 2楽章と第 3楽章の間、チューニング時 (ティンパニ以外の打楽器奏者 3名も同時入場)
・独唱者たちの位置
  合唱団の最前列の真ん中 (ステージ上、後方)
・第 3楽章と第 4楽章の間のアタッカ
  なし

メインの第九の前に、クリスマスの雰囲気の演出だろうか、バッハのオルガン曲が 2曲演奏された。独奏したオルガニスト、椎名雄一郎は、東京藝大卒業後にウィーンで学んだ人で、コンクール入賞歴も素晴らしい。2005年から 10年かけて、バッハの全オルガン曲を演奏した実績もあるという。今回は特に、幻想曲とフーガが、厳粛で迫力ある演奏であった。
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そして、初めて聴くアンドレーエの指揮であるが、全体として年齢的なものを感じさせない流れのよい演奏であった。早めのテンポを採用し、音はあまり粘らない。職人的という印象とも少し違っているが、実はかなりきっちり仕上げられた洗練度を持つ指揮者である。印象として近いのは、(銀髪のせいもあるが) クリストフ・フォン・ドホナーニではないだろうか。だが、今回初顔合わせとなった新日フィルとの呼吸は今ひとつだったような気がする。多分このタイプの指揮者は、どこでもなんでも器用にこなすというよりも、しっかりなじんだオケとこそ、よい成果を出すのではないだろうか。今回の演奏では、ヴァイオリンを中心とする弦楽器の美感は光っていたものの、通常なら高レヴェルのこのオケの木管も、場面によっては音の抜けが今ひとつであった。金管には大きな不満はないが、ただ、第 3楽章のホルンはちょっと残念であった。結果として、ベートーヴェンの熱い魂が隅々まで燃え滾る演奏ということにはならず、時に、音楽自体は激しいのに、鳴っている音楽の雰囲気は、どこか静かになってしまっていた。これは、ベートーヴェンとしては少し苦しい現象である。合唱団 (栗山文昭が指導する栗友会合唱団) は、立派な歌唱ではあったが、冒頭の入りが少し乱れてしまったし、男声も女声も、もっと力強さがあれば、さらに音楽が燃えたのではないだろうか。4人の独唱者はいずれも二期会の歌手で、ソプラノ : 森谷真理 (7月の「ばらの騎士」で元帥夫人を歌っていた)、アルト : 山下牧子 (2月のバッティストーニ指揮のヴェルディのレクイエムで歌っていた)、テノール : 大槻孝志、バリトン : 久保和範はいずれも安定した出来。総じて私は今回の演奏を凡庸と評価するつもりはないが、ところどころでは大変美麗な音が聴かれただけに、指揮者とオケの関係がもう少し練れてくれば、もっと完成度が上がっていくだろうに、と惜しい思いをしたことは事実。終演後のカーテンコール時にオケのメンバーを立たせる際にも、指揮者とオケの呼吸が合っていないことが見えてしまって、ちょっと残念であった。だが今回 3回行われる第九の演奏を通じて、少しでもその呼吸が合ってくることを願っています。

終演後にはサイン会があったので参加したが、やはり指揮者の一般的な知名度の低さを反映してか、わずか 10名前後しか参加者がおらず、この点も残念。だがアンドレーエは大変丁寧にファンに接していて、このように、プログラムの見開き一面にサインを頂いた。
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私としては、高校時代以来にその名を知ってから 35年ほどを経て、初めて実演に触れることとなったマルク・アンドレーエ。また日本で祖父の作品や古典派、あるいはマーラーなど指揮してくれれば、喜んで聴きに行きたいと思いますよ。

by yokohama7474 | 2017-12-16 02:04 | 音楽 (Live)