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エンドレス・ポエトリー (アレハンドロ・ホドロフスキー監督 / 原題 : Endless Poetry)

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アレハンドロ・ホドロフスキーの新作である。この監督の名前は、今の若い人たちにとっては未知であるかもしれないが、私の世代でちょっとアート系の映画に興味のある人なら、まずは「エル・トポ」(1969年、但し日本公開は 1987年)、次いで「ホーリー・マウンテン」(1973年、但し日本公開は 1988年) や「サンタ・サングレ 聖なる血」(1989年) によって、その名を知っていることだろうし、一度聞いたら忘れないその名前の響きと、一度見たら忘れないその強烈な映像を、懐かしく思い出すだろう。彼は、一言で言ってしまえば、アンダーグランドの香り濃いカルト映画作家なのである。日本で言えば寺山修司などが近いともいえようが、土俗的かつ呪術的なまでに宗教的要素に溢れ、あえて醜いものをスクリーンに乗せて、人間の本性に仮借なく迫る作風が持ち味だ。私は上記のようなホドロフスキーの映画群を学生時代に見たのだが、しかし、それらに強くのめり込んだというほどではない (例えば、やはり当時邂逅して衝撃を受けたタルコフスキーやパラジャーノフやボリス・バルネットの映画のようには)。だが、ほかの誰とも異なるその作風には強い表現力をまさまざと実感させるものがあるゆえ、彼の代表作群を見てから 30年近く経った今でも、その個性には一目置いているのである。これが、当時ジョン・レノンをはじめ、ミック・ジャガー、アンディ・ウォーホル、オノ・ヨーコらに熱狂的に支持されたらしい「エル・トポ」の DVD のジャケット。
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さて、そのホドロフスキーは 1929年チリ生まれで、今年実に 88歳。フィルモグラフィーを見ると、1957年、つまりは今から 60年前のデビュー作である短編「すげかえられた首」(1957年) から、今回の「エンドレス・ポエトリー」まで、監督作品はたったの 9作。寡作家である。実はそのうち 3本は日本未公開。すると 6本の日本公開作のうち、本作を含めた 4本を私は見ていることになる。また、ホドロフスキーが「DUNE / 砂の惑星」を撮ろうとして断念した経緯を辿ったドキュメンタリー映画、「ホドロフスキーの DUNE」も見ている。強くのめりこんだわけではない割には、この監督とその関連作品を、まずまず見ている方と言えるだろう。だが、上記の「ホドロフスキーの DUNE」と相前後して上映された、彼としては当時 23年ぶりの作品「リアリティのダンス」(2013年) は、残念ながら見逃してしまった。この「エンドレス・ポエトリー」はそれに続く最新作である。

まず、この題名 (「無限の詩」という意味)、それから冒頭に掲げたチラシの宣伝文句、「その存在は、完全なる光 ---」は、何やらホドロフスキーらしからぬ、なんというかこう、ハートウォーミングな雰囲気を醸し出してはいないだろうか。そこに私は危惧を抱いた。伝説のカルト作家が、まさかまさか、時代に迎合して、ハートウォーミングな万人受けする作品を作ってはいないだろうな・・・という思いである。その確認のために、なんとか時間を見つけて、渋谷のアップリンクにこの映画を見に行ったのである。ちなみに今確認すると、今年一杯はそのアップリンクと新宿のシネマ・カリテでは未だ本作を上映継続中のようである。もしこの記事でこの映画に興味を持たれた方は、見に行かれるのも一興かもしれない。あ、お気に召すか否かは、私は保証しませんがね (笑)。これが本作に登場するホドロフスキー自身。
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さてこの映画の評価であるが、ある意味では、あのカルト作家ホドロフスキーの強烈な持ち味は全く変わっておらず、その点では安心 (?) したと言えるだろう。だがその一方で、このような映画表現がどの程度本当に人の心を動かすだろうという疑問を抱くシーンも沢山あり、やはり私としては、諸手を挙げて大絶賛ということにはならないと、率直に申し上げておこう。

この映画は、ホドロフスキー自身の若き日の物語であり、前作「リアリティのダンス」の続編であるらしい。しかも主役を演じているのは、前作に続きホドロフスキーの末の息子アダン・ホドロフスキーである。この写真は、ラスト近くで劇中のホドロフスキーが、自らの父と桟橋で向かう合うシーンを演出する、実際のホドロフスキー自身。ややこしいことに、ホドロフスキーの父を演じているのは、実際にはホドロフスキーの長男である、ブロンティス・ホドロフスキー。つまりこの写真は、実生活における父とその 2人の息子であり、その息子たちは、実の父本人と、そのまた父を演じていることになる。ややこしい (笑)。
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主人公である若き日のホドロフスキーは、商店を営み息子を医学の道に進ませたいと考えている厳格な父と、優しいが浮世離れした母 (なにせ、言葉を喋るときにはすべてのセリフが必ずオーケストラ伴奏つきのアリアのような歌唱になるのだ!!) のもとで従順に暮らしているが、自由な詩人の生活に憧れて、ロルカの詩集などを読んでいる。そのうち彼は自由奔放に生きる芸術家たち (?) とともに暮らすようになり、恋にも落ち、挫折もし、親戚の死を体験し、友人の恋の手助けをする。まあこのようにストーリーを追って行くと、まるで普通の青春映画のようだが、そこはホドロフスキー。強烈な色彩感覚と大胆な役者起用で、甘酸っぱい青春を異形のものとして描いて行くのである。もちろん、事実からの脚色は様々にあるに違いないが、ホドロフスキーが生きたチリでの青春の「味」は、本当にこんな感じだったのかもしれないな、と思ったものだ。見ていて楽しいシーンばかりでは決してないし、人によっては、生理的に受け付けられないということもあるだろう。だからこれは、とても万人にお薦めできる映画ではなく、映画という表現方法に強いこだわりのある人のみを観客として想定すべき映画なのだと、思うのである。
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ところで、このような強烈なイメージを実現するには、資金も必要なら優秀なスタッフも必要だ。まずその資金の方だが、興味深いことに、前作「リアリティのダンス」の続編を望む世界の映画ファン 1万人から、クラウド・ファンディングで制作費を集めたのだという。プログラムには、「クラウド・ファンディングにご協力いただいた皆さま」ということで、まるまる 3ページに亘ってびっしりアルファベットが並んでいる。よく目を凝らすと、日本人の名前も散見される。
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もうひとつ、スタッフの方だが、驚きの名カメラマンがここで撮影監督を務めている。その名はクリストファー・ドイル。1952年生まれのオーストラリア人だ。
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「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」といった香港のウォン・カーウァイ (最近はあまり名前を聞かないが、どうしているのだろうか) の作品の撮影で世界に知られる人であるが、ジム・ジャームッシュやガス・ヴァン・サントと組んだこともある。その特徴は手持ちカメラの多用なのであるが、この「エンドレス・ポエトリー」では、凝った作りのセットでの撮影もかなり多く、それらのシーンでの絵は、かなりきっちり丁寧に作っている印象で、手持ちカメラの必要はない。一方で、そのようなセット以外にも、建物でのロケや、屋外、夜間、サーカスや群衆のシーンまで、様々なシーンのあるこの映画では、画面の鮮度ともいうべき点で、この名カメラマンの鋭い感性がやはり随所に生きているように思われた。ホドロフスキーも、このドイルがいるからこそ、自らのファンタジーを存分に追い求めることができたのであろう。

私の勝手な解釈だが、題名の「エンドレス・ポエトリー」とは、このユニークな芸術家であるホドロフスキー自身の歌う終わりのない詩、つまりは映画のことを指しているのではないだろうか。このような複雑な作品を作り上げるには、映像作家としての基本的な能力以外に、多大な忍耐と体力と情熱を必要とする。既に 88歳という高齢とはいえ、この映画で度々姿を見せる彼は、未だ大変元気に見える。この人の人生は本当にエンドレスなのではないかと思われるほどだ。クラウド・ファンディングによる資金集めもできるこの時代である。まだまだユニークな活動を続けて欲しいと思う。メキシコ風の死者どもとも戯れる、エンドレスな活動を。
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by yokohama7474 | 2017-12-28 00:47 | 映画