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ケン・リュウ著 : 紙の動物園 (古沢嘉通編・訳)

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以前、「KUBO / クボ 二本の弦の秘密」という、米国製だが日本を舞台にしたストップモーションアニメ映画についての記事の中で、この本に少しだけ言及した。それは、タイトルになっている「紙の動物園」という短編に、米国に住む中国系親子が登場し、母親が紙で折る動物たちに命が吹き込まれるという幻想的なシーンがキーとなるのだが、それがちょうど上記の映画の設定と類似しているためだ。これは、1976年生まれの作家、中国に生まれて幼少の頃に米国に移ったケン・リュウの 7つの短編を収めた文庫本である。これが作者のケン・リュウ。
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彼は、ハーバードのロースクールを出て弁護士として働く一方、コンピュータープログラマーとしての経歴もあるらしいが、2011年に発表した短編の「紙の動物園」で、SF やファンタジー小説を対象とするヒューゴ賞、ネビュラ賞に加え、世界幻想文学大賞まで受賞するという史上初の三冠を達成し、一躍世に出た。日本では短編 15編を集めた同名の作品集が 2015年に発売され、今回私が読んだものはその一部を文庫化したもの。残り 8編は第 2集の「もののあはれ」に収録されるという。

表題作の「紙の動物園」を含めたすべての作品に、中国を含むアジア的なテイストがふんだんに使われている。例えば、主人公が中国人や日本人であったり、東南アジアを思わせる風景が出てきたり、あるいは現実世界の中国と台湾の対立関係を背景に使用したりしているということだ。もちろん米国には様々な国を起源とする多くの人たちが暮らしているので、それぞれのルーツに敏感であることが、逆にコスモポリタンな精神にも結び付くのであろう。だが、これを日本語の翻訳で読む私たちは、純粋に小説として面白いか否かで評価するしかないだろう。そして、私の個人的な印象は、面白い作品もあるものの、驚天動地の傑作とまではいかなかった。読んでいて気づくのは、その卓越したヴィジュアル性であるが、そのこと自体は特に珍しいことではなくて、過去にこのブログで採り上げた最近の幻想小説においてはごく普通のこと。これだけ映像が日常に溢れ返った現代世界に住んでいる我々は、もはや文字だけで人間の感性が強く刺激されるという世界には戻れないわけで、それを嘆いても詮無いことであるから、そのヴィジュアル性を大いに楽しみたい。だがやはり私にはあるこだわりがあって、小説の最大のアドヴァンテージである、登場人物の内面と客観的な物事の成り行き、そして思想に類することの描写までをも自在に行き来する小説、そして、まさに文章だけで読者独自の映像が目の前に立ち現れるような、そんな小説が読みたい。その意味では、世評の高いこの作品集も、完璧とは思えないのだ。期待が大きかっただけに、少し残念なのである。

その一方で、表題作の「紙の動物園」に見られるノスタルジックな抒情性は、なかなか心を動かすものであるということも、間違いなく言える。それ以外の作品も、設定にかなり工夫が見られて、単なるアジアテイストという範疇にとどめるにはもったいない。しかし、いや、そうであるからこそ、さらに研ぎ澄まされた感性による、残酷なまでの人間のリアリティを見せて欲しいものだと思ったのである。今後のケン・リュウの作品に期待したいと思う。

ところで私は折り紙には全く何の知識も技術もない人間だが、四角い紙から様々な形態のものが生まれることに、西洋人はことさらに魔術的感銘を受けるようであって、それはこの不器用極まりない私のような人間でも、よく分かる。「KUBO / クボ 二本の弦の秘密」では、折り紙はまるで日本の神秘のような描き方であるが、この「紙の動物園」では中国系家族のよりどころになっている。はて、折り紙の起源は一体どこにあるのだろう。そう思ってちょっと調べてみると、よく分かっていないらしい。古代中国に存在していたとか、もともと韓国が起源だとか、いくつか説はあるようであるが・・・。いずれにせよ事実は、現在判明している最古の折り紙についての本は、1797年の「秘傳千羽鶴折形」という日本の書物だということらしい。だから、江戸時代の文化の爛熟期に折り紙が大きく発展・普及したことは間違いないだろう。だが、東アジアはもともと共通の文化を持ち、その一部は遠く西洋からもたらされたもの。どこが発祥の地ということを議論してもあまり意味はなく、その豊かな文化を楽しみたい。そして、米国という人種のるつぼで、その折り紙を東洋人のアイデンティティとして小説の素材にして認められた作家がいるということを、我々日本人も知っておきたいものである。これは、ほかのサイトからお借りしてきたトラの折り紙。さすが、見事なものですなぁ。
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一方、これはたまたま YouTube で見つけたビーグル犬の "Origami" の 1シーンだが、この表記でお分かりの通り、西洋人の方の作。うーん、ちょっと微妙。折り紙はやはり、東洋のものなのだとよく分かりますね (笑)。
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書いてから気づいたことには、今日は奇しくも、今は亡き我が家の愛犬、ビーグルのルルの、20回目の誕生日。そんな日に、たまたま折り紙のビーグルについて書くのは、やはり何かの因縁なのでしょうね。

by yokohama7474 | 2018-02-01 23:41 | 書物