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大阪 証券取引所、中之島界隈 (東洋陶磁美術館「唐代胡人俑展」、水晶橋、大江橋、淀屋橋、大阪市立図書館、日本銀行大阪支店)

前項までの京都訪問を終え、向かった先は大阪。私自身は、小学生の頃を除けば、この場所に本格的に住んだことはないのだが、今でも壮健な老母が住んでいる。そこで、家人とともに実家訪問というわけだ。実は今回、大阪を訪れるに際し、家人からひとつリクエストがあった。それは、初詣。ん? 初詣といったって、もう散々京都で社寺を回っているし、中でも商売の神様である伏見稲荷には、曲りなりにもそれなりの賽銭を奉じてきた。だが、彼女にとってはまた別の初詣があるらしい。それは、大阪証券取引所である。私には全く縁がないのだが、細々と株などやっている彼女にとってそこは、神聖な土地であるらしい (今日の株価暴落は、誠にご愁傷様です)。だが確かに文化的な観点からは、そのレトロなビルには一度行ってみたいと思っていたことは事実。
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私の手元には何冊か、日本のモダン建築に関する書物があり、その中のひとつが、「大阪建築 みる・あるく・かたる」である。
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実はこの本はこの日、重要文化財、大阪市中央公会堂で購入したものである。中央公会堂は以前もこのブログで採り上げたことがあるし、この本の表紙写真にもなっているが、それにしてもこの本、パラパラ見るだけで滅法面白く、またためになる本である。この本によると大阪証券取引所は、もともと 1935年に建てられたもの。2004年には、最近東京でもよくある方法だが、正面は古いまま残して後ろに高層ビルを建てるという方法で、現代のビルとして生まれ変わった。そしてこのビルの正面に立っている銅像は、五代友厚 (1836 - 1885)。ディーン・フジオカではありません (笑)。
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上に記載した竣工年で明らかな通り、このビルは五代の死後のものなので、五代によって作られたものではない。だが彼は、大阪商工会議所と、この大阪証券取引所 (建物というよりも組織自体) を創設した人。薩摩出身ながら、商都大阪にとっては大変な恩人であるので、ここにこうして銅像が立てられているのである。このビルの中に入ると、まさにモダニズムの意匠がそこここに見られ、この時代の文化をこよなく愛する私としては、興奮を禁じ得ないのである。
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この場所を詣でて家人も気が済んだのか、上機嫌で次の場所へ。それは、緒方洪庵の私塾であった適塾と、その隣にある愛珠幼稚園。これらは既に以前の記事で採り上げたので、ここでは割愛する。そしてすぐ近くの中之島界隈に向かう途中、なんともレトロな建物の前を通りかかったので、車の中からパチリ。このゴシック風の建物は、日本基督教団の浪花教会。調べてみると竣工は 1930年。なんとあのメンソレータムで知られる近江兄弟社の設立者のひとりであるウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計であるという。ヴォーリズは日本各地で教会や大学の設計を手掛けている。それにしても、「キリスト」を漢字で書くと、妙に「浪花」という言葉とフィットすること (笑)。
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そして中之島地区では、まずは大阪市中央公会堂へ。上で本の表紙となっているし、やはりこのブログで以前採り上げたので、建物自体の紹介はスキップして、ひとつ、館内の資料室に貼ってあった、この界隈のレトロ建築の地図だけここに掲載しておこう。ここには、中央公会堂自体を除く20のレトロ建築が挙がっているが、その中で最も古い日本銀行大阪支店 (1903年竣工) と、その次に古い大阪府立中之島図書館 (1904年竣工) は、この記事の後半で採り上げる。そして私はここで宣言しよう。いつの日か、今回のように寒くない日に (笑)、この 20のレトロ建築をすべて取材し、このブログで採り上げることを。
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さて、その中央公会堂のすぐ向かいにあるのが、大阪市立東洋陶磁美術館。もともと安宅コレクションと呼ばれたこの美術館の平常展示については、やはり以前採り上げたのでここでは割愛し、この時開かれていた (そして今も、3月25日まで開かれている) 展覧会をご紹介しよう。
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一見してそれと分かる、右下に写真が載っている舟越桂の木彫り彫刻も気になるが、このガッツポーズを決めた彩色も鮮やかな古そうな人形は、一体なんだろう。唐代胡人俑ということはつまり、中国の唐の時代の、西域の人をかたどった人形ということだ。日本初公開とのことだが、これは一体どこから出土したものか。2001年というからかなり最近発見された、730年に造営された甘粛省の将軍の墓から出土したもの。これが出土時の様子。
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この展覧会のユニークなところは、展示品のいずれも写真撮影 OK であること。なので以下はすべて、私自身が撮った写真なのである。これらはまず、胡人の人形。ウィンクしていたり、垂れ乳でどうやら付け髭をしていたり、1300年前の人たちの息吹が、これ以上ない驚くべきリアルさで迫ってくるのである。
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この下ぶくれの唐美人の姿は、日本にもそのまま入ってきたイメージである。
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副葬品であるから、多分故人が淋しくないようにであろうか、群像もある。また、故人との別れを思い、悲しみに打ちひしがれる人の姿も。このあたりの感性は、日本では法隆寺五重塔の初層の塑像群とそのまま共通している。
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それから、動物たちの人形も大変にリアルで、牛や羊の鳴き声が聞こえるようではないか。事実、この牛たちの群れのうち左側の牛は、右側の牛の鳴き声に反応して振り返っているのだと考えられているようだ。「おいこら」「なんだよー」。
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このように興味尽きない展覧会であったが、これに加えて平常展示を堪能し、冷たい小雨の降る屋外へと出て、徒歩で淀屋橋方面に移動である。中之島は、北は堂島川、南は土佐堀川に挟まれた、その名の通り中州区域であるが、堂島川に沿って歩いて行くと、見えてくるのは水晶橋。この橋、実はもともと、河川浄化を目的として 1929年に建設された可動式の堰であるらしい。実際、堂島川の水質改善に貢献し、橋面の工事を経て、1982年に橋として法律的にも認められたという。
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さて、その先がますます面白い。実は私も今回初めて知ったのだが、なんとこの先に、2つの重要文化財の橋がかかっているのである。重要文化財の橋と言えば、例えば長崎の眼鏡橋とか、厳島神社の反橋とか、今や普通には通れない、あるいは歩行者限定の、石または木でできた橋を想像するが、この大都会大阪の文字通りど真ん中に、そんな橋があるのだろうか。いや、実際のところ、ここに架かっている橋は、それはもうなんの躊躇もなく (笑) 自動車がびゅんびゅんと行き交うコンクリート製の橋。そう、堂島川に架かる大江橋と、それからつながって土佐堀川に架かる、その名も淀屋橋 (ともに 1935年竣工)。えぇー、そうだったのか。地下鉄御堂筋線の駅名としてもおなじみの淀屋橋は、重要文化財だったのか!! 改めてその姿をまじまじと見る。都市の重要な構造物も、重要文化財に指定される時代になったのだ。ただその利便性だけでなく、歴史的価値を認識しなくては。ここでは、それらの橋の写真と、中央公会堂の資料室に展示されていた、昔の写真とを併せてお目にかけよう。
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ところが調べてみて判ったことには、実は東京の橋もいくつかは既に重要文化財に指定されている。勝鬨橋、清洲橋、日本橋など。やはり、近代の遺産も歴史的な価値を認められているということだろう。なお、上の淀屋橋の写真の向こうに映っているのは、旧大阪市庁舎。残念ながらこの建物は今はないが、その代わり、この地域で最も古い建物は健在だ。上にも書いたが、それは日本銀行大阪支店 (1903年竣工)。あの明治建築界の巨匠、辰野金吾による設計である。事前予約すれば内部見学も可能とのことなので、いつか内部もじっくり見てみたい。
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そして、この地域で 2番目に古い建物。こちらは大変嬉しいことに、内部に自由に入ることができ、私もかつて何度も利用したことがある。そう、「利用」である。なぜならばそれは、大阪府立中之島図書館 (1904年竣工)。そう、未だ現役の図書館であるゆえ、誰でも出入り自由なのである。この疑古典的な神殿風の堂々たる佇まいは、実に素晴らしいではないか。
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実はこの図書館、住友家の寄付のよってできたもので、設計は住友家の建築技師長であった野口孫一。この内部の装飾も、本当に素晴らしくて感動的だ。明治の日本人は、西洋を目標として、こんな大変なものを作ることができたのである。そして、関西を代表する財閥が、太っ腹で寄付をしたという事実。しかも、しつこいようだが、それが現役という点に、大阪の文化の豊かさを発見するのである。
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階段に沿った奥の壁の両側に一対のブロンズの彫刻が見えるが、向かって右が文神、左が野神。人間の両面、つまりは知性と野生を表しているのであろう。そしてこの彫刻の作者は、あの北村西望である。言うまでもなく、長崎の平和祈念像を作った人である。
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このように、ほんの数時間の散策でも、大阪の歴史と文化に思いを馳せることができる。これはまた是非機会を見つけて、上記の通りの一連のレトロ建築巡りをし、それから、全身を目玉にしての街歩きを楽しんでみるべし、と考えているのである。たこ焼き食いたいなぁ。

by yokohama7474 | 2018-02-06 23:39 | 美術・旅行