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キングスマン ゴールデン・サークル (マシュー・ヴォーン監督 / 原題 : Kingsman : The Golden Circle)

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本作と同じマシュー・ヴォーン監督の手になる前作「キングスマン」の記事を書いたのは随分前だ。今調べてみると、それは 2015年 9月23日。私はその映画を大いに楽しみ、その年のベストを争う出来であると激賞したのであるが、その続編となると、これは必見の映画なのである。だが実は、私はその記事の締めくくりで、以下のように書いた。

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プログラムによると、本作の好評により、次回作の噂も出ているとか。私としては、それは若干の不安材料だ。だって、次回作でしゃあしゃあとコリン・ファースが出てくると、ちょっと興醒めですよね。なので、まずこの作品はこの作品として、一旦完結としたい。いやお見事。
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おっと、これはちょっとまずいことになったぞ。上に掲げたポスターでも、前作で主要な役を演じながらも凶弾に倒れた (が、その決定的な死亡シーンは登場しなかった) コリン・ファースが、片目を黒く塗った眼鏡をかけて写っているし、予告編では実際に動くコリン・ファースを見ることができた。やはり「しゃあしゃあと」出てきましたね (笑)。だが、私ならずとも、1作目を見た人は、きっとこれは続編が作られて、コリン・ファース演じるハリー (コードネームはガラハッド --- もちろんアーサー王伝説によるネーミングだ) がまた登場するのではないか、と予想しただろう。だからここはひとつ、興醒めなどと言わず、見に行こうよと、2年 4ヶ月前の自分に言い聞かせながら、劇場に足を運んだのである。
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感想を先に記してしまうと、この映画はやはり只者ではなく、様々な工夫を持った、凝った作りになっていることは確か。ただ残念ながら、1作目ほどの衝撃はなかったように思う。以下、その感想の背景を徒然に綴って行こう。まず、前作で映画デビューを果たした主演のタロン・エガートンは、その後はこのブログでもご紹介した「レジェンド 狂気の美学」などを経て、ここでも颯爽とエグジー役を演じている。プログラムに載っている本人のインタビューによると、前作ではいつ監督にクビになるかとヒヤヒヤしていたが、今回はギヴ・アンド・テイクの対等な立場になったとのこと。そして、演劇学校 (国立王立演劇学校だ) を卒業して 4年も経たないうちに、初出演した映画の続編に出ることができる自分は、世界で最高にラッキーな男であると思うと語っている。確かにその通りだが、それはやはり、前作のクオリティと、ユーモア表現を含めた彼の清新な演技によるものであり、これからの活躍に期待できる若手であることは間違いない。
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そして物語は、いやそれはもう、大胆なペースで進んで行く。予告編で、悪役を演じるジュリアン・ムーアが、英国の私設諜報組織であるキングスマンを攻撃し、キングスマン側は、これまで未知の米国の組織に助けを求める内容であることは明らかであったが、冒頭からほどなくして、かなりインパクトの大きいシーンが出て来る (主役エグジーのスウェーデン滞在中に起きる大事件のこと)。私は、映画における作劇法について、自分なりの評価基準をそれなりに持っているつもりだが、それにしてもこの映画の急展開の大胆さには、かなり驚いた。だが冷静に考えてみれば、この時点で観客のキングスマン構成員個々人への思い入れはさほどなく (つまり、この時点ではコリン・ファース演じるガラハッドの生死は確かではなく、マーク・アームストロング演じるマーリンは、その後すぐに生存が確認されるからだ)、実は描かれている事態の深刻さに比して、観客の受ける心理的衝撃はさほど大きくないようにできている。そしてストーリーの展開は強引なまでに急速だ。このあたりのテンポのよさは、なかなかに見事。それから、これは CG の発達ぶりを考えるとそれほど驚くことではないかもしれないが、アクションシーンは様々に考えられていて、やはり流れがよい。それから、悪役との対決の内容や、その決着ぶりが意外とあっさりしているという肩透かしも、この映画ならではの考えられたものだと思う。そもそも悪役がこんな普通のオバチャン (?) という点からして、かなり観客の意表を突いている。いやもちろん、演じるのはその辺のオバチャンではなく、れっきとしたオスカー女優、ジュリアン・ムーアなのであるが。
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予告編で想定していたのと異なるのは、チャニング・テイタム演じるテキーラの役柄だ。てっきり、米国諜報組織の中心人物として、快刀乱麻の活躍を見せるのかと思いきや、かなりの時間、冷凍睡眠に費やすのである。だがラストシーンは大いに意味深であり、これは明らかに、第 3弾が作られて、そこでは彼が主要な役柄を演じるということなのだろう (エグジーも本作の最後には違う身分になってしまうので)。
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それ以外にもこの映画には、ジェフ・ブリッジスやハル・ベリーという有名俳優が出ているが、正直あまり見せ場もなく、ちょっともったいないような気がしたものだ。あと、どういうわけかプログラムに名前も載っていないが、エミリー・ワトソンが大統領補佐官を演じていて、これも若干もったいない使い方。ただ、さすがに年を取ったなぁと思わせた (あ、念のため、エマ・ワトソンではありません。笑)。あ、それから、これはどうかなぁと思ったキャスティングは、エルトン・ジョンだ。
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ここで彼は、犯罪者集団に誘拐された有名歌手エルトン・ジョン、つまり彼自身を演じている。彼は既に 70歳、しかも Sir の称号を持つ VIP であり、いかなる経緯でこの映画に出演することになったのか分からないが、ここで Sir Elton は、歌を披露するだけでなく、演技をする。いや、それもただの演技ではない。アクションまでこなしているのである。多分本国英国では、彼の出演シーンではきっと拍手喝采だったのかもしれないが、映画の質という点では、どのくらい貢献があったのかと言えば、ちょっと返事に窮するだろう。

このように、課題もありながら、一方でかなりひねった箇所には評価すべき点が少なからずあり、決して面白くない映画とは言わない。ただ、前作の勢いを思い出すと、ちょっと守りに入ったかなぁ・・・という感想が正直なところ。だがまぁ、次回作が出来れば、当然見に行くことにはなるだろう。

そうそう、評価すべきこの映画らしさのもうひとつの点は、キングスマンの基地のあるサヴィル・ロウ (仕立て屋が軒を並べる通り) をはじめ、ロンドンの情景がいろいろ出て来る点である。例えば、起死回生をかけたエグジーとマーリンが向かう先は、このような古めかしいワイン・ショップなのである。
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この Berry Bros. & Rudd は 1698年設立、英国王室御用達の有名な店で、Green Park 近辺にある。私もワイン好きの後輩に連れられてこの店に行ったことがあるが、それはそれは、大変雰囲気のある場所である。面白いのは、キングスマンたちがこの古色蒼然たるワイン・ショップの地下で出会う酒が、あろうことか、米国のバーボンであるというその皮肉。この記事では米国の諜報機関 Statesman について詳しく述べることはしないが、英米の習慣や物の考え方の明らかな違いが分からないと、この映画の本当の面白みは分からないのかもしれない。かく言う私も偉そうなことは言えない。ロンドンでこの映画を見ると、間違いなく、周りの爆笑の意味が分からずに困惑することになるだろう。

もうひとつ、これもどうでもよいことだが、冒頭近くで、サヴィル・ロウにある何かの建物に、ブルー・プラーク (Blue Plaque) が掲げられているのが目に入った。Blue Plaque とは、過去に歴史的な実績を残した人の旧居がロンドンにある場合に、そのことを記念して掲げるもので、文字通り、青くて丸い札である。日本人では唯一、夏目漱石だけがその栄誉に浴している。この映画の画面にその Blue Plaque がチラリと写ったときに、この人の名前は知らないなと思ったのだが、この記事を書くにあたり、私が書棚から手元に取り出してきたのは、この大部な本だ。
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大型ハードカバーで 600ページを超えるこの本には、ロンドンのすべての Blue Plaque が掲載されている。もちろん、これをつぶさに読むことは考えもしないが (笑)、こんなところで役に立つとは、買った甲斐があるというもの。中を見てみると、サヴィル・ロウには、短い通りであるにも関わらず、4つも Blue Plaque がある。私の記憶では、この映画で映っていたのは、確かこれではなかったか。
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このリチャード・ブライトは、上に「内科医」とあるが、調べてみると、腎臓病研究の先駆者だそうである。だが実は、博士論文では伝染病をテーマとしたらしい。むむ、伝染病? それってこの映画の悪役が企むことと、関係があるではないですか。あるいは、これは偶然の一致で、作り手にはそのような深い意図はないのかもしれないが、映画のトリヴィアとして、ここに書いておくこととする。

あ、もうひとつ。これからこの映画をご覧になる方は是非、コリン・ファースの眼鏡にご注目頂きたい。これは私の見間違いではないと思いたいのだが、いくつかのシーンで、黒く塗ってある方のレンズが違っていはしまいか。つまり、上の写真にある通り、黒レンズは本人の左目を覆っているはずなのに、時として、右目を覆っているシーンがあったように思うのだ。もしこれが私の勘違いでなく、なんらかの意図があるなら、それは一体なんだろう。3作目があるなら、それもひとつのテーマになるかもしれないので、また後日に備えて、このこともここで記録しておきましょう。その意味では、突っ込みどころ満載の映画であることは間違いない。

by yokohama7474 | 2018-02-08 01:17 | 映画