ダークタワー (ニコライ・アーセル監督 / 原題 : The Dark Tower)

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スティーヴン・キングは日本でも人気の、一般的にはホラー作家と呼ばれている人。過去 40年くらいの間、映画化作品が異様と言ってもよいほど多い作家であるが、1947年生まれであるから、実は未だ 70歳。まだまだバリバリの現役なのである。この作品はそのスティーヴン・キングの原作による映画であるが、正直なところ、私はその原作に関しては全く知識がない。もちろん私とても、キング作品自体を全然知らないわけではなく、リヴァー・フェニックスの演技が忘れがたい映画をヴィデオで見る前に夢中になって読んだ傑作、「スタンド・バイ・ミー」や、先般も映画化されて結構評価が高かった、単行本ハードカバー 2冊構成の「IT」、その他、短編集を含む数冊は読んでいる。だが、この作品の原作である「ダークタワー」シリーズが、1982年から 22年に亘って書き継がれた彼のライフワークであるとは、寡聞にして知らなかったのである。上記の通り、私はキングを「一般的にはホラー作家と呼ばれている人」と表現したが、その理由はやはり、本当に感動的な「スタンド・バイ・ミー」に見られる通り、何か人間の本質的な部分を抉り出す彼の手腕を知っているからで、この作家を「ホラー作家」と決めつけてしまうことで、随分と偏狭な見方に堕ちてしまうような気がしてならない。それはつまり、私が原作に何の知識もなくこの映画を見て、そこで扱われているテーマが、例えば「スタンド・バイ・ミー」と共通していることを感じたという事実だけによっても、証明できるような気がする。そのスティーヴン・キングはこんな人。ホラー作家という顔はしていないでしょ? (笑)
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この映画のストーリーは至って単純。少年が夢の中で、世界の中心に聳え立つタワーと、それを守る拳銃の名手 (ガンスリンガーと呼ばれ、本名はローランド) と、魔術をもってタワーを崩壊させようとする悪い奴 (ウォルター) が争っているのを何度も見る。少年は現実世界において敵に追われることになり、別の世界に入って行くと、そこには実在のローランドとウォルターがいて・・・というもの。要するに純然たるファンタジーであって、ホラー的な要素は全くない。この映画の原作は上記の通り、キングが 22年の長きに亘って書き続けた物語。日本語で手軽に手に入るのは新潮文庫だが、それはなんと全 16巻という、超がいくつもつく大作なのである。そうなるときっと、私が生きているうちに読み通すことはないであろうと確信するのだが (笑)、ではこの映画は 3時間も 4時間もかかる作品かというとそうではなく、実はたったの 95分なのである。ということは、原作がその長さにかかわらずエッセンスは単純であるか、またはこの映画が原作のほんの一部しかカバーしていないかのどちらかであろう。これが世界の中心に聳えるというダークタワー。
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さてここからは原作は忘れて、純粋に映画だけについて考察したい。一言、この映画は面白いか? 恐らくその答えは、昨今の、映像もストーリーも凝りに凝った映画に慣れていると、「否」になるのではないか。善と悪の対決は極めて単純だし、最後の決着も、「あれれ。これだけ?」という感想を抱くほどシンプル。なので、本当にこの映画だけ見ると、大して記憶にも残らない作品ということになってしまうかもしれない。だが、私にはなぜか、この映画のシンプルさが心地よく思えたのである。多分それは、夢見る少年が主人公で、彼の妄想が実際に存在していて、巨大悪と、それと闘う善がともに必死にしのぎを削っているという設定に、人間の想像力の原点を見るからではないか。その点において、上記の通りこの作品の精神は「スタンド・バイ・ミー」と共通するものであると思うし、そこに溢れるファンタジーこそ、何か人間の奥深いところに訴えかける切実さのあるものなのだと思う。うまく言葉にできないが、スティーヴン・キングがこれだけ世界中で多くの人々に愛されるのは、何かそこに、人間の本性の点で根源的なものがあるからであろうと思うのである。

そしてこの映画では、善玉悪玉、それぞれの役者がよい。実際、プログラムに掲載されている原作者キングのインタビューにおいて、二人とも絶賛されている。まず善玉ローランドを演じるのは、イドリス・エルバ。なかなか精悍な俳優で、ポスト・デンゼル・ワシントンの呼び声も高いという。
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調べてみて分かったことには、「マイティー・ソー」シリーズでヘイムダルという役を演じているらしい。役名だけではピンと来ないが、この役であれば、はいはい、よく分かりますよ。
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一方、悪役ウォルターを演じるのは、マシュー・マコノヒー。彼は多くの映画に出ている割には、もうひとつ代表作がないように思う。だが、「ダラス・バイヤーズクラブ」という映画でアカデミー賞を取っているし、最近で記憶にあるのは「インターステラー」の主役であろうか。ちょっと若い頃のクリストファー・ウォーケンを思わせるクールさで、このような悪役がよくあっているので、同様の役でまた見たい。
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ひとつ気づくのは、我々は最近の様々な映画で、強大な力を持つ悪役によって世界が崩壊に瀕するという設定にお目にかかるが、その多くは荒唐無稽なもの。その意味では、この映画におけるタワー崩壊の危機という設定も、やはりある種荒唐無稽ではあるものの、なぜそのタワーがそんなに大事であるのかは説明されず、それゆえにかえってファンタジーの世界で完結するゆえ、リアリティのなさによって観客がしらけるということにはならない。現実世界ではない、いわばパラレル・ワールドの危機であり、そこには自由なファンタジーがある。そのような遊び心が分かる人には、この映画は決してつまらないものではないだろう。

ここで脚本・監督を務め、スティーヴン・キングの長大な原作を凝縮して映画にしたのは、ニコライ・アーセルという 1972年生まれのデンマーク人。最近このブログでご紹介する映画には、北欧出身でハリウッド映画の監督を務めるケースがいくつもあるが、彼もそのひとり。これまでの監督作でメジャーなものはないが、スウェーデン映画「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」の脚本を務めているらしい (因みにその作品の監督は、先日記事を書いた「フラットライナーズ」の監督、やはりデンマーク人のニールス・アルデン・オプレヴだ)。今後の予定としては、マット・デイモンを主役として、ロバート・ケネディの伝記映画を撮るらしいので、注目だ。
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この記事を書いていたら、無性にスティーヴン・キングの小説が読みたくなってきた。我々に様々なファンタジーを提供してくれるその作家を、決してホラーだけの人と思わないことで、見えてくることが沢山あると思う。まあ、このように長い「ダーク・タワー」は、やっぱり読まないと思うが (笑)。でも人生何が起こるか分からない。もし読んだら、もちろん記事を書くこととします。
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by yokohama7474 | 2018-02-18 00:32 | 映画 | Comments(0)  

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