川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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メモ帳

デヴィッド・リンチ : アートライフ (ジョン・グエン、リック・バーンズ、オリヴィア・ネールガード=ホルム監督 / 原題 : David Lynch : The Art Life)

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デヴィッド・リンチ。この名前を聞いて気持ちがゾワゾワとする人は、私のお仲間である。知らないなぁという人は、多分最初からこの記事を読まないだろう (笑)。なのでここでは、私のお仲間のリンチ好き、あるいは多少なりともリンチがどんな映画を撮っている人であるかを知っている人を対象に、書き進めたい。この映画は、1946年米国生まれ、現在 72歳の映画監督、デヴィッド・リンチの素顔に迫るドキュメンタリーである。リンチ好きには説明不要だろうが、Wiki の説明文の冒頭部分から引用すると、彼は「低予算映画『イレイザーヘッド』で有名となり、『カルトの帝王』と呼ばれることもある」人であって、この映画ではその強烈なデビュー作「イレイザーヘッド」が生まれるまでの半生を、本人が語り、貴重なリンチ家のホームムーヴィーや、アーティストでもある彼の作品の中で、彼の語るストーリーとイメージにおいて共通点のあるようなものが、映像で登場する。また、リンチがアート作品を制作しているところもバッチリ映っている。つまりは一言、リンチ好きにとっては必見の映画なのである。ただこの中でリンチがのべつまくなしにタバコを吸っているのは、今日びちょっと珍しい光景だ。ま、スクリーンの向こうから煙が物理的に漂ってくることはないと、リンチ好きの人間ならば許してしまうしかないでしょう。
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私にとってデヴィッド・リンチは、数々の謎めいた作品、しかも人間の感性や本能の深いところを刺激する作品の作り手であり、現代人の画一性に対して鋭い警鐘を鳴らす、真摯なアーティストである。最近作品を見ないと思ったら、あの 1990年代に大ヒットしたテレビシリーズ「ツインピークス」の続編「ツインピークス The Return」全 18話が昨年制作されたらしい。日本でも既に WOWOW では放送されているようだが、自宅で映像作品を見なくなって久しい私は、それを見ていない。それでもリンチ好きか!! というお叱りもあろうが、本当のことだから仕方ないと割り切って、この映画に戻るとしましょう。この映画、監督には 3人の名前がクレジットされていて、それは結構異例の事態だと思うが、もともとインタビュー嫌いで知られたリンチに対して、「ドキュメンタリー映画を撮らせてほしい」と依頼したのは、ジョン・グエン。グエンはもちろんヴェトナム系の名前である。
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彼はこの作品に先立ち、やはりリンチのドキュメンタリーである「リンチ 1」「リンチ 2」に関わっているようだ。この映画はその延長上にあるらしい。また、もうひとりの監督としてクレジットされているオリヴィア・ネールガード = ホルムはオランダ人女性で、本作の編集も手掛けている。面白いのはもうひとりの監督、リック・バーンズだ。プログラムにはこのような人を食った写真 (サングラスは明らかにあとから加えたものだし、髭はつけ髭、髪はきっとズラだろう) が載っていて、「名前は偽名で、正体は明かせないという」とある。ネットでこの名前を検索すると、なぜかバスケの監督がヒットする (笑)。
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ともあれこの映画は、謎めいた作品を作り続けてきたデヴィッド・リンチの内面に迫るドキュメンタリーであり、リンチ好きには本当に興味尽きない内容。私の最初の感想は、あの変態的映画で知られるデヴィッド・リンチは、両親の愛に恵まれた幸せな家庭に育っており、本人は極めてまっとうな人だということだ。これは、以前からの私の持論を裏付けるもの。つまり、映画監督であれ作家であれ画家であれ、異常なものを作る人は、必ずしも異常な人でない、いや、大抵の場合は普通の人だということだ。ここには人間の精神作用の単純さが見られる。異常でない人は、異常なものに憧れるものなのである。ただもちろん、その単純さの裏には、極めて複雑な人間心理の深奥があるのだと思うが。この映画では、リンチの幼少時からの軌跡を辿って行くのだが、そこで本人が語る来歴は、アート好きの青年が夢を抱き、また失望感も経験して成長して行くという、ごくごくまっとうなもの。これはホームムーヴィーの中の、少年リンチ。ボーイスカウト?
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ただ、彼がいくつかのエピソードで語る日常における奇妙な実体験が、まさに彼の映画に出て来るような不条理感を伴っていること、興味深い。例えば、子供の頃に住んでいた家のお向かいの家から、全裸の女性が出て来たという話は、そのまま彼の映画に出て来るようなシュールさである。一方、若い頃の進路の悩みや、女性との同棲、そして最初の娘ができたこと、その家に父親が訪ねてきたことなどは、どこにでもある青春ストーリーである。そして、アート作品を動かしてフィルムに収め、そこから結果的にアニメーション動画の世界に入っていくあたりも、特に異常な動機は見出せない。そうすると、映像作家デヴィッド・リンチの誕生には、さまざまな偶然の積み重なりがあったのだということだろう。これは映像作品を作り始めた頃のリンチ。
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リンチのアート作品にも、様々なヒントが見出せる。やはり彼が映像にしているものは、彼の内面で実際に見えているものなのだろう。その映像を造形化することは、彼が生きていることと同義なのだと思う。そこには、内面の欲求に素直に従うアーティストの姿があり、「なんとなくこんなのを作ったら、回りからグロテスクとか気持ち悪いって言われちゃったよ」と首をかしげる自然な姿がある。これは「火をともす少年」という彼の作品で、ここにはグロテスクさはないものの、少年の腕の長さはきっと、リンチ自身に見えているものなのではないだろうか。
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本作で最後にリンチが語るのは、出世先「イレイザーヘッド」の制作がいかに楽しかったかというノスタルジーである。人によっては生理的に受け付けない可能性もある、このカルトな作品は、全く陰鬱でないワイガヤの雰囲気の中で作られたようだ。これは意外だし、リンチというアーティストの内面を理解するヒントになろう。
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この映画の舞台はフィラデルフィア。私はその街は 2回しか訪れたことはないが、米国独立初期の頃の首都であったという歴史は立派であるものの、街の雰囲気自体は、若干荒んだものを感じたのである。リンチは、このフィラデルフィアの荒廃がこの作品の背景にあると語っていたのは覚えていて、てっきりリンチはこの街出身かと思ったのだが、実際には幼少時には米国内の様々な場所に移り住み、フィラデルフィアでは美術学校に通ったということらしい。この「イレイザーヘッド」の制作は 1976年。その頃のフィラデルフィアというと、音楽ファンにとってはもちろん、ユージン・オーマンディ指揮のフィラデルフィア管弦楽団のゴージャスこの上ないサウンドを思い浮かべることになる。私はちょうどその少しあと (1980年頃) からクラシックを聴き始めた人間であるが、フィラデルフィアは米国で最も古く由緒正しい街であり、そこの富裕層の保守性が、そのようなゴージャスなサウンドを育んだという解説を読んで、分かったようになっていた。そうそう、当時はこのようなジャケットの 1,300円の廉価版アナログレコードが売られていて、このジャケットのゴールドが、このコンビのゴージャスサウンドのイメージと一致したものだ。その思いは今も変わらないがゆえに、米国の光と影を一層実感することができる。
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この映画についての最後の感想は、実は最初の感想と同じなのだが (笑)、デヴィッド・リンチは実は愛情にあふれた人なのだということである。本作に出て来るこの小さな可愛らしい女の子は、リンチの孫ではなく、娘なのだ。このような姿に人間リンチを感じるがゆえに、久しぶりにまた、彼のカルトな映画を見て、そこに愛を見出したいと思うようになった。
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そして本作は、出世作である「イレイザーヘッド」の制作で終わっている。ということは、きっとまたその後の創作活動についてのドキュメンタリーが作られるのではないだろうか。そうであれば、期待感が膨らむのを抑えることができない。まぁ、過度な期待は避けるにせよ、ともあれ本作はリンチ好き以外にはお薦めしないが、逆に言うと、何度もしつこく申し上げるが (笑)、リンチ好きには必見の映画であると思います。

by yokohama7474 | 2018-02-22 01:01 | 映画 | Comments(0)
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