仁和寺と御室派のみほとけ 東京国立博物館

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京都北部、いわゆる洛北に存在する大寺院、仁和寺 (にんなじ) は、世界遺産にも認定されている大寺院である。山号を御室山 (おむろさん) といい、遅咲きの桜である御室桜でも有名だ。皇族が住職を務める寺院を門跡 (もんぜき) 寺院というが、この仁和寺は宇多天皇が出家して 888年に創設したことから、最初の門跡寺院と言われている。また、「徒然草」に出て来る「仁和寺にある法師」(石清水八幡宮に詣でたと思って、手前で帰って来た話と、興に乗って釜をかぶって抜けなくなる話とがある) の逸話でも有名である。これが御室桜の咲く仁和寺の光景。
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そもそも京都の大規模寺院は、禅宗、それも臨済宗がほとんどなのであり、そのことはこのブログでも何度も書いているのだが、実はこの寺は臨済宗ではない。宗派は真言宗で、御室派 (おむろは) の総本山なのである。この展覧会は、その仁和寺が所蔵する数々の貴重な文化財に加え、真言宗御室派の多くの寺から、各寺の本尊仏を含む素晴らしい仏像が一堂に会するという展覧会。今回はかなり宣伝にも力を入れていて、電車の中でも本展の広告を見ることができるのだが、その成果であろうか、会場は押すな押すなの大混雑になっている。実際私は、なんとか混雑を避ける方法はないかと思って、ピョンチャン・オリンピックで羽生弓弦が金メダルを取るかどうかという、その前後のタイミングを狙って出かけてみたのであるが、会場の混雑ぶりという観点からは、全く意味のない浅知恵であることを思い知った (笑)。それでも混雑にめげず、入場に 20分ほど待たされ、押し合いへし合いの会場をようやく一巡したら、次の予定との関係で、同じ東京国立博物館の別の建物で開催されている「アラビアの道 サウジアラビア王室の至宝」展を見る時間がなくなってしまった。そこで、その翌週また東博を訪れ、この展覧会の仏像展示をもう一度見て、そしてサウジアラビアの方も無事、見ることができたのである。私としては、とにかく一度だけでは気が済まず、どうしてももう一度見たいと強く思った、それほどの素晴らしい内容の展覧会であったのだ。

もちろん、多くの国宝・重要文化財が展示されていて圧巻なのであるが、前半にはこの寺の歴史において大切にされてきた貴重な文献が沢山展示されている。空海の直筆や、開基宇多天皇やその後の歴代天皇ゆかりの品や文書など、大混雑の中ではなかなかじっくり見るのは難しい。ここでは、ちょっと珍しい文書をいくつかご紹介するにとどめよう。これは平安時代 (12世紀) の「医心方 (いしんぼう)」という国宝。日本最古の医学書であるらしい。
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これも国宝の「新修本草 (しんしゅうほんぞう)」。鎌倉時代、13世紀のもの。本草学、つまりは漢方医学のこと。寺院とは修業の場であるとともに、喫茶の習慣からも分かる通り、漢方医学の発展に貢献した場所であったのだろう。
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これは原始的ながら、日本地図である。1305年に描かれたもので、重要文化財。現在とは逆で、南が上になっていて、これは西日本から中部地方あたり。寺院にはこのような情報も集まっていたのだ。
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さて、仁和寺に伝わる国宝絵画といえば、まずこれである。孔雀明王。中国・北宋時代 (10 - 11世紀) のもの。孔雀という神秘的な鳥を乗り物とする孔雀明王は、災厄を祓うために信仰され、ここ仁和寺での孔雀経法は「無双の大秘法」と言われたという。いかにも密教らしい雰囲気ではないか。
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そしてこれも国宝、十二天図のうちの毘沙門天。仁和寺円堂というところにかかっていた画像をもとに、1127年に描かれたことが分かっている。現在では京都国立博物館の所蔵。名品である。
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展覧会の前半に展示された唯一の仏像は、平安時代 (1103年) の薬師如来坐像。やはり国宝である。高さ僅か 11.8cmで、白檀を刻んだ壇像である。素晴らしく精緻な出来で、多分日本最小の国宝仏ではないだろうか。
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さて、仏像が多く並んでいるコーナーに移る前に、黒山の人だかりになっている場所がある。それは、仁和寺の観音堂という、通常は非公開のお堂から、仏像をそのまま運んできて、回りの壁画などを再現した場所。ここだけはフラッシュなしなら写真撮影可能ということで、大変なことになっていた。以下はそこで私がスマホで撮影した写真。千手観音とその眷属、二十八部衆である。この二十八部衆は、仏像好きなら一目瞭然、三十三間堂のそれを小型化してコビーしたものだ。江戸時代初期、1647年のもので、文化財指定はないが、このように並ぶと壮観である。
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ぐるっと一周できるのが大変興味深く、このような風神のキュートな後ろ姿や、奇妙な手の長い観音様の画像など、なんともユニークで楽しい。
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さて、今回は仁和寺の由緒正しいご本尊がわざわざ東京までおいでになっている。阿弥陀三尊坐像で、888年、創建時に作られたもの。仁和寺では春と秋に宝物館で拝観できるが、ちょっと小ぶりで、いわゆる平安時代後期の定朝様とも違うので、正直なところ、これまであまり興味がなかった。ところが、今回間近で拝観し、その穏やかなお顔にすっかり魅了されてしまった。その由緒を含めて、素晴らしい仏像。もちろん国宝である。
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ほかにもいくつか仁和寺所蔵の仏像が展示されている。それらから、重要文化財を二体ご紹介する。ともに鎌倉時代の文殊菩薩坐像と、悉達太子 (出家前の釈迦)。いずれも鎌倉彫刻らしく、美麗である。
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さあ、この先は仁和寺を総本山とする真言宗御室派の寺院から集められた優品の仏像の数々が並んでいて壮観である。まず、今回の展覧会の目玉ともいうべき仏像。会場のポスターにはこのように書いてある。
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そう、天平時代の乾漆仏、大阪の葛井寺 (ふじいでら) の本尊、千手観音坐像である。千手観音といえば、普通はメインの 2本を含めて 42本の手を持つが、これは本当に 1000本の手を持つ。
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葛井寺現地では、毎月観音の縁日である 18日に公開されていて、もちろん私も現地で拝観したことがあるが、今回の展覧会はちょっと特別なのだ。現地では厨子に入ったままでしか拝観できないところ、今回は鮮明なライトのもと、360度ぐるりと細部まで鑑賞できるのである。こんな機会はもう二度とないかもしれないので、本当に本当に本当に、貴重この上ない機会なのである。興味深いのは、この千本の手をどのようにして設置しているかが分かること。左右それぞれに二群ずつの沢山の手を板に差し込ませ、背中の左右に棒を立てて、そこにつなげてある。これは大変な技術である。もう感嘆の声しか出て来ない。これを見るだけで、何十分も入場待ちする価値がある。
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この横には、やはり国宝の天平仏、道明寺の十一面観音立像がある。これもまた驚異的に美しい仏像で、私はやはり現地でも拝観したことがあるが、やはり四囲を回ってじっくり拝観できる今回の展覧会は、もう本当に、貴重という言葉では済まないくらい貴重なのである。
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福井県の若狭からも貴重な作品がいくつか来ている。明通寺の巨大な降三世明王 (ござんぜみょうおう) と深沙大将 (じんじゃだいしょう) は、やはり現地で見るよりも細部をじっくり拝観でき、鑿あとが残った部分なども発見できて面白い。尋常ではない迫力だ。
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やはり若狭から、中山寺の馬頭観音坐像。秘仏で、私は以前も何かの展覧会で拝見したこともあり、また数年前の公開時には現地に赴いたが、やはり厨子のない状態でこうして間近に拝観できることは、本当に嬉しい。
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それから、これも秘仏で、兵庫県西宮市にある神呪寺 (かんのうじ) の如意輪観音坐像。この仏さまは、実は私は初対面。不思議な偶然だが、この展覧会に出品されているとは知らず、つい最近、この仏像を見たいなぁと考えていた。これも何かのご縁。両肩の 3本ずつの腕の付け根を見ると、腕はそのまま彫り出してあるように見える。独特の人間的な雰囲気をお持ちの観音様である。お会いできて、本当によかった!!
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ほかにも多くの貴重な作品が展示されていて、本当に興味が尽きない。会期は 3/11 (日) までなので、普段あまり仏像を見ないという方も、是非お出かけになることをお薦めしておこう。

by yokohama7474 | 2018-03-04 19:29 | 美術・旅行 | Comments(2)  

Commented by desire_san at 2018-03-17 13:41
私も「仁和寺と御室派のみほとけ」展を見ましたので、画像と詳しく丁寧なブログを読ませていただき、被の美樹展を再体験させていただきました。一般非公開の修行道場 「観音堂」を特別に再現は、中央の千手観音菩薩立像をはじめ、二十八部衆立像や風神・雷神立像など、33体の仏像に囲まれた荘厳な雰囲気が体験できてよかったと思いました。仁和寺の国宝阿弥陀如来坐像、大阪・金剛寺重要文化財 五智如来坐像、広島・大聖院の重要文化財 不動明王坐像、香川・屋島寺の重要文化財 千手観音菩薩坐像など今まで知らなかった傑作仏像見見ることができ、道明寺の国宝・十一面観音菩薩立像は、その流麗な身体の線と衣文の流れは美しく、 “秘仏”と呼ぶのに相応しい美しいお姿に魅せられました。

私は、今回の「仁和寺と御室派のみほとけ」展で最も強く感銘を受けた仁和寺の阿弥陀如来像と葛井寺の千手観音菩薩像について、その比類ない魅力を詳しく監査して、その美しさの秘密を詳しく考察してみました。 ざっとでも読んでいただけると嬉しいです。ご感想・ご意見などありましたら、ブログにコメント頂けると感謝いたします。

Commented by yokohama7474 at 2018-03-18 00:35
> desire_sanさん
久しぶりのコメント、ありがとうございます。これは思い出しても本当に素晴らしい展覧会でしたね。ブログ拝見致します。

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