川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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メモ帳

小澤征爾音楽塾 ラヴェル : 歌劇「子どもと魔法」/ プッチーニ : 歌劇「ジャンニ・スキッキ」(指揮 : デリック・イノウエ & ジョセフ・コラネリ) 2018年 3月18日 ロームシアター京都

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過去 2回の公演、すなわち 2016年の「こうもり」と 2017年の「カルメン」をこのブログでもご紹介してきた小澤征爾音楽塾のオペラ・プロジェクトは、日本だけでなく中国や韓国からも選ばれて参加する若者たちのオーケストラが、プロの奏者の指導を仰ぎながら、国内外から集まるプロの歌手たちの伴奏として、オペラを演奏するというもの。2000年に始まり、今回がその第 16弾。今回は 1時間前後の短いオペラが 2本、すなわち、ラヴェルの「子どもと魔法」とプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」が上演される。今回私は、東京公演の日程には既に予定が入っているので、日曜日に京都までこの上演を見に行くこととした。このプロジェクトのスポンサーであるロームは京都の企業であり、そのロームが近年、もともとあった京都会館という収容人員 2,000人ほどのホールを改修し、ロームシアター京都と改名、2016年からはこの小澤征爾音楽塾のオペラ公演は必ずこのホールで 2回、東京と名古屋で各 1回ずつ、計 4公演ということになっている。もともとの建物の設計者は、ル・コルビュジェの弟子で、東京文化会館などの設計で知られる前川國男である。私としては今回が初めての訪問だ。
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だが、内容に触れる前に書いておかなくてはならないことには、肝心の主役であるマエストロ小澤は、3月 2日に医師から大動脈弁狭窄症と診断され、1ヶ月の入院治療を行うこととなったため、予定していた「子どもと魔法」の指揮から降板することが、既に発表されている。これはもちろん、どの聴衆にとっても残念なことであり、チケットの払い戻しがないことに対する不満の声も聞いたことがあるが、だが、病気とあれば致し方ないし、プロジェクト全体は既に小澤の意向によって動いてきたはずだから、誰の指揮であっても、その成果に期待しながら、マエストロの復帰を待つというのが、ファンたるものの務めだと思う。ただ、主催者側も今回は気を遣って、通常 2,000円もする公演プログラムを無料配布するほか、このような小澤の手書きのメモのコピーまでが会場で手渡された。さすがにここまでされれば、怒る人もいないだろう。なによりも、降板をいちばん悔しがっているのはマエストロ自身であることが、分かろうというものではないか。
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本来小澤が指揮するはずであったラヴェルの「子どもと魔法」は、小澤にとっては、キャリアのごく初期に指揮したオペラのひとつ。1979年にパリ・オペラ座でのことであった (因みに同時上演はストラヴィンスキーの「エディプス王」)。また近年では、この音楽塾でも 2015年に、今回と同じデヴィッド・ニースの演出で採り上げているほか、サイトウ・キネン・フェスティバル松本 (現・セイジ・オザワ松本フェスティバル) でも 2013年に指揮して、そのライヴ盤がグラミー賞を受賞したのも記憶に新しい。それから今年の 1月には、久しぶりにベルリン・フィルの定期に登場してこの曲を振る予定であったが、そのときも体調不良で果たせず、フィンランド人指揮者ミッコ・フランクが代役として指揮した。そのように、小澤にとっては思い入れの深い曲であるには違いないが、もうひとつ現実的な要因としては、非常に精緻にできている作品なので、大きな身振りが必要なく、体力的にも無理がないということもあるのだろう。さて、今回の 2演目、「子どもと魔法」「ジャンニ・スキッキ」の順に上演されたが、前半の「子どもと魔法」で小澤の代役として指揮を採ったのは、デリック・イノウエ。1956年生まれの日系カナダ人である。
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私は随分以前に新日本フィルを指揮するのを聴いた記憶があり、その手腕は信頼できるという印象である。今回も、小澤の急な降板によって急遽カナダから呼び出されたわけではなく、プログラムを見ると、もともとこの演目と「ジャンニ・スキッキ」の双方で副指揮者としてクレジットされているので、プロジェクトの準備段階から深く関わってきたのであろう。その意味では、代役としては最適の人物であったと思う。実際彼の指揮には安定感があり、硬質な木管の音から軽快な曲調や諧謔味、そして最後に少年が「ママ」という魔法の言葉 (コレットのよくできた台本のテーマはこれだろう) を呟くに至る精緻な抒情感まで、このオペラの雰囲気をうまく引き出していたと思う。若者たちのオケの紡ぎ出す音には、よい面もあれば課題もあったと思うが、それでこそ音楽塾の公演である。いつも思うことだが、このようなかたちでオペラの上演に関わることのできる若者たちは、素晴らしい体験をしていることは間違いないだろうし、それが日本を含む東アジア地域での今後の音楽面でのさらなる発展を促すことになれば、それこそ小澤が心血を注いできたこのプロジェクトには大いに意味があるということだろう。それから、この「子どもと魔法」の歌手陣であるが、まぁ、曲の性格上、朗々たるアリアがあるわけではなく、目が覚めるような名唱が聴かれるということではなかったにせよ、少年役のエミリー・フォンズ、母親役 (兼、中国茶碗とトンボ) のマリアンヌ・コルネッティをはじめ、そつなくこなしていた。

後半は、前半の子供が主人公のファンタジーとは全く対照的な、大人たちがエゴ剥き出しでいがみ合うコメディ、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」。これは今からちょうど 100年前、1918年にメトロポリタン歌劇場で初演された彼の三部作の中のひとつ (ほかには「外套」と「修道女アンジェリカ」) であるが、ソプラノの有名なアリア「私のお父さん」(あるいは「お父様にお願い」ともいう) によって、そしてまた、古都フィレンツェを舞台に展開するその才気煥発なストーリーによって、広く知られている。富豪が死去して、集まった家族たちは、遺産がそのままでは修道院に寄付されてしまうのをよしとせず、知恵者であるジャンニ・スキッキという人物に相談。彼はそれを見事に解決し、そして自分がちゃっかり最も価値ある遺産を手にする、というブラックな内容。これは本当によくできたコメディで、笑いの中に人間心理の彩をよく描き、音の流れに乗せている。このオペラには疾走する部分もあれば、結構な音量でオケが鳴る場面もあるので、残念ながら今の小澤では指揮するのが難しいのかもしれないが、実は私は幸運なことに、彼の指揮によるこのオペラの実演を聴いている。それは 2004年 3月、パリ・オペラ座 (通常オペラ公演が行われるバスティーユ・オペラではなく、あの美麗な建物、ガルニエ宮であった) にて。小澤が「子どもと魔法」を最初に指揮した場所だが、私の聴いた「ジャンニ・スキッキ」は、ラヴェルのもうひとつのオペラ「スペインの時」との組み合わせで上演された。両曲とも、譜面台はあってもスコアすら置いていない、完全暗譜による公演であったことを鮮やかに覚えている。
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やはりこの小澤征爾音楽塾は、今や自身で振ることが叶わぬにせよ、小澤自身が実際に指揮した経験のある作品が対象に選ばれているようである。今回その「ジャンニ・スキッキ」を指揮したのは、ジョセフ・コラネリ。生年は調べても判明しなかったが、ニュージャージー出身で、かつてはニューヨーク・シティ・オペラ (今はもうなくなってしまったが) の指揮者を務め、1998年からは MET にも頻繁に出ているらしい。
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初めて聴くこの指揮者であったが、その指揮ぶりはかなり練達のもので、多くの登場人物が入り乱れる慌ただしさの中、巧まぬユーモアが随所に聴かれるこの難しいオペラを鮮やかに捌き、オケも自発性溢れる音でそれに応えていた。歌手陣 (主役はロベルト・ディ・カンディア、娘ラウレッタはサラ・タッカー) は、経歴を見ると、やはり MET をはじめ各地で活躍する人たちばかりで、安定したレヴェルであったが、その一方で、飛び抜けた存在もいないように思われた。だがそれは、オペラの世界全般に言えることかもしれず、それをもってこの公演に満足しなかったとまでは言うつもりはありません。このデイヴィッド・ニースの演出は、(「子どもと魔法」とは異なり) 今回は新演出のようだが、作品の持ち味をうまく使って、さほど過激にならずにまとめあげた、彼らしいものであった。ただ、亡くなったブオーゾ・ドナーティの死体にダンスをさせるところは、彼にしては結構ブラックだったかも (笑)。

会場には、これまでの小澤征爾音楽塾の歩みを示すパネル展示があって、感慨深く見入ってしまった。
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今回の小澤の入院は 1ヶ月ということで、5月に予定されるマルタ・アルゲリッチとの水戸及び別府での共演 (ベートーヴェンのピアノ協奏曲 2番) までには復帰してくれることを切に願いたい。それから、例によって最新情報に疎い私は、今年のセイジ・オザワ松本フェスティバルの演目が発表になっているのも、今になって知った。小澤はベートーヴェンの 5番を 3回指揮するが、それぞれの演奏会でのそれ以外の曲は、指揮者なしが 1回、秋山和慶指揮が 1回、ディエゴ・マテウス指揮が 1回となっている。また、オペラ公演は、今回「子どもと魔法」を指揮したデリック・イノウエが、今度は「ジャンニ・スキッキ」を振る予定である。小澤征爾という求心力が、日本の音楽文化をますます発展させていることは、前日の新日本フィルの演奏会で、タン・ドゥンからも彼の名が出たことでも分かる。まずは焦らずに治療に専念して頂き、またその姿を聴衆の前に見せて頂くことを心待ちにしております。

by yokohama7474 | 2018-03-19 00:40 | 音楽 (Live) | Comments(4)
Commented at 2018-03-20 00:18 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by yokohama7474 at 2018-03-20 00:55
> カギコメさん
興味深い情報、ありがとうございます!! 確かに、2003年 4月に、同じプロダクションが確かに日本でも上演されていましたね。パリの印象が強くてすっかり忘れていました!!「小澤征爾オペラ・プロジェクト 2003特別公演」ということで、音楽塾と違ってプログラムも薄く、すぐに見つかりませんでしたが、今見つけました。そういえば、フレデリカ・フォン・シュターデとジョゼ・ファン・ダムの共演でしたね。思い出しました!! 松本の今後の動向も気になりますね・・・。
Commented at 2018-03-21 11:51 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by yokohama7474 at 2018-03-21 15:31
> カギコメさん
ご教示ありがとうございます。私はただの勤め人で、音楽に限らず、映画や美術や書物などについて、ただ趣味として書き連ねているだけなので、専門家でもありませんし、評論をしているつもりもありません。なので、事実誤認があった場合にご指摘頂くことは大変ありがたく、感謝しております。書いている内容についても、当然様々な人たちが様々なご意見をお持ちでしょうから、コメント大歓迎です。そのような前提でこれからも時折覗いて頂ければ幸いです。よろしくお願い致します。
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