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The Beguiled / ビガイルド 欲望のめざめ (ソフィア・コッポラ監督 / 原題 : The Beguiled)

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この白い色合いに女優が 3人。なんともエレガントのように見えるが、また少し嘘っぽいようにも見える。しかも、副題に「欲望のめざめ」などとあって、何やら怪しげで、あまり爽やかな感じはないのである。だが、映画に興味を持つ人はやはり、これを見るべきであろう。それは、この人が監督であるからだ。本作においては、製作と脚本も兼ねている。
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1971年生まれ、ということは既に 46歳ということになるが、現代における才能ある映画監督のひとり、ソフィア・コッポラである。言うまでもないが、あのフランシス・フォード・コッポラの娘である。監督作としてはやはり「ロスト・イン・トランスレーション」が印象深いし、役者としては何と言っても「ゴッドファーザー Part III」におけるアル・パチーノの娘役であろう。ところが彼女は実は、この「ゴッドファーザー」シリーズ 3作すべてに出演しているのである。いやいや、嘘でしょう。だった「ゴッドファーザー」の 1作目はいつの作品だったろうか。調べてみるとそれは 1972年。ということは、このソフィア・コッポラは当時、たった 1歳ではないか!! そう、劇中でタリア・シャイア (もちろん、フランシス・コッポラの実の妹だ) の息子であり、その兄、アル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネが名付け親となった赤ん坊、マイケル・フランシス・リッツィは、このソフィア・コッポラが「演じた」役だったのである。女の子が演じた男の子役。ということはソフィアは、生まれた頃からジェンダーには敏感であったのかもしれない。
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そんなソフィア・コッポラの最新作であるこの映画の題名 "Beguiled" とは、私もなじみのない言葉であるが、beguile (だます) という動詞の過去分詞なのである。ええっと、高校のときに習った英語では、過去分詞に the をつけると、そのような特色を持つ人を指す。つまりこの言葉の意味は、「だまされた人々」という意味になる。この映画の設定は 1864年。米国を二分した南北戦争のさなかである。南軍の支配地で女子だけが暮らす寄宿舎に、傷ついた北軍の兵士が匿われる。そこで、女教師とその助手、そして教え子の合計 7人が、何やら欲望をめざませる (?) ことになる、というお話。
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この写真で左右に立っている 2人と、真ん中に座っている 1人の合計 3人が、上のポスターにその姿を見せている 3人。年齢順に、ニコール・キッドマン、キルステン・ダンスト、そして、あの天才女優エル・ファニングである。この中で、キルステン・ダンストは私は以前から (「スパイダーマン」のヒロインを演じていた頃から) どうも苦手なのであるが、ほかの 2人は大ファンなのである。そういえばつい最近も、このニコール・キッドマンとエル・ファニングが共演した映画の記事を書いた記憶がある。残念ながらその記事のアクセスは非常に少ないので、ここでリンクを張っておこう。

https://culturemk.exblog.jp/26366560/


もう一度、この 3人の女優の写真を掲げておこう。本編にはこのようなシーンは登場せず、飽くまでイメージショットなのであるが。おっとここには、3人の女優以外に、右端に髭面の男が見える。

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そう、コイツが、女の園をかき乱す北軍兵士である。なにせあのエル・ファニングが、こんなことになってしまうのだ。こらこら、近い近い!!

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この北軍兵士を演じるのは、これも名優であるコリン・ファレル。こらこら、髭を剃っても、近い近い!!

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この映画、見る人の人生が変わるほどの出来とは思わないが、ここでソフィア・コッポラが描きたかったことは、なんとなく分かる気がする。ひとつは、南北戦争。国が分断されたこの頃から、米国は栄光の歴史を刻んできたはずだが、昨今の情勢を見ると、果たしてそうなのか、ちょっと疑問に思うところもある。そのことに対する危機感があるだろう。そして、そのような国レヴェルではなく個人レヴェルで見たときに、女同士で起こる確執というテーマもあるに違いない。キリスト教の教えに基づいて敬虔で貞節な生活を送るべき寄宿舎の女性たちが、たった一人の男の存在によって、徐々にいがみ合うようになり、狂気すれすれの思い切った行動に出る。思い出してみれば、この作品の冒頭は非常に印象的なのであるが、それは、ひとりの少女の視点から森の中を見たもの。彼女は歌を口ずさみながら食糧になるキノコを採りに来て、そして傷ついた北軍兵士を見つけるのであるが、冒頭からのその流れは、何気ないものでありながら、純粋なものが汚されて行く序奏にふさわしく、イノセントでありながら黒い予感に満ちたもの。そしてこのキノコは、映画のクライマックスでまた重要な意味を持つのである。ソフィア・コッポラはこの映画の設定について、以下のように語っている。


QUOTE

私は集団内での人間関係というものにずっと興味があるの。特に女性同士のね。女性同士が接する時の機微ってすごく微妙じゃない? 男性はもっとはっきりしてるけど。(中略) 今回は、人生のステージが異なる女性同士の関わり合いを描いてみたかった。

UNQUOTE


なるほど、やはり彼女はジェンダーにもともと興味があって、ここではいわば、密室での実験をしているような感覚で映画を作っているのだろう。正直、女性同士の確執の行き着く末については、私としてはもっともっと呵責ないものを描いて欲しいと思ったのだが、とはいえ、そこに至る過程では、監督の目指すところはかなり明確に表現されていると言ってよいだろう。ところでこの作品には原作があって、それは、トーマス・カナリン (1919 - 1995) という作家 / 脚本家の手になるもの。実はその作品は、原作者が未だ生きていた頃、1971年 (ちょうどソフィアが生まれた年である) に映画化されている。この作品、原題は今回と同じ "The Beguiled" なのだが、邦題がすごい。「白い肌の異常な夜」というのである!! なんじゃそりゃ (笑)。その作品、北軍兵士を演じたのはクリント・イーストウッド。監督は彼の出世作「ダーティハリー」の監督であるドン・シーゲルだ。いやー、このポスターはほとんどポルノまがいではないですか。勘違いしてドキドキしながら劇場に向かった男性も多かったのでは?

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以前も書いたが、今年未だ 20歳というエル・ファニングは、やはり特別な才能を持った女優であると思う。実は、ソフィア・コッポラの父親であるフランシス・フォード・コッポラも、彼女を主役に映画を撮っているということをご存じだろうか。押しも押されぬハリウッドの大御所でありながら、最近その活動ぶりをとんと耳にしない彼の、現時点での最新作「Virginia / ヴァージニア」(原題 : Twixt) である。2011年の作品で、日本での公開は本当に細々としたものであったが、もちろん私は封切時に劇場に足を運んでその映画を見た。いかにも低予算ながら、ファンタジー溢れる佳作であったので、コッポラファンには絶対にお薦めである。これがその作品でヴァル・キルマーと共演するエル・ファニング。当時 13歳。

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そう、遠からぬうちに現代最高の女優になる可能性を秘めているエル・ファニングは、コッポラ父子の作品に出演することで、その階段を登りつつあるのである。これからも大注目であります。


by yokohama7474 | 2018-03-25 00:01 | 映画