ここで後ろ向きのシルエットでその姿を見せるヒュー・ジャックマンが歌う "Ladies and Gentlemen, this is the moment you've waited for" (紳士淑女の皆さま、さぁお待ちかねです) という歌詞の語感がなんとも心に残ったのであるが、それはこの映画のクライマックスかと思いきや、なんとなんと、いきなり冒頭部分なのである。ヒュー・ジャックマン演じる興行主 P.T. (フィニアス・テイラー) バーナムの物語はこうして幕を開ける。舞台は 19世紀半ば。ここには、夢と野望を抱きつつ、公序良俗に反することも厭わず目的に向かってひた走り、そして偉大なる成功を収める男の姿、そしてまた、有頂天になって、一転奈落の底に突き落とされる男の姿が描かれている。設定は少し極端ではあるものの、多かれ少なかれ、誰の人生にもこのような浮沈があるだろう。小気味よいテンポで辿る P.T.バーナムの半生は、常にどこか人間的であるがゆえに、普遍性を持つものとして、見る者の心を揺さぶってくる。若き日のギラギラした感じから成功の美酒に酔いしれ、そして過信のしっぺ返しを受け、最悪の状況から、仲間たちに励まされて新たな一歩を踏み出すまでの数十年に亘る主人公の姿は、今年 50歳になるヒュー・ジャックマンの肉体によって、スクリーンに永遠に刻まれたと言ってよいだろう。
それから、ミュージカルであるからには、音楽も大事な要素であるが、ここでの音楽スタッフはあの「ラ・ラ・ランド」と同じ。なるほど、メインテーマや "This is Me"、"Rewrite the Stars" などはなかなかよい曲である。演技も歌も高次元で達成された、素晴らしい映画であった。最も偉大なショーマンに、拍手!!
さて、最後に 2つの点に触れて終わりにしたい。まず第一は、この映画におけるバーナムのサーカス団の人たちが放つメッセージである。ここでは普通の人間と異なるユニークな人たちが、自らを鼓舞し、自信を高めるさまが描かれるが、米国の現状を思い起こすにつれ、これは、マイノリティが白眼視されかねない現政権の状況に対するアンチテーゼのように思われてくる。いやもちろん、この映画の企画は現政権発足前に遡る可能性大であるが、それでも、公開時に米国ではそのようなイメージが付与されたことは、想像に難くない。それゆえであろうか、米国ではこの作品に対する評論家の評価は二分されたという。映画とは常に時代と切り結ぶものであり、今後この映画を人々が見るときに、きれいごとではないマイノリティの主張に耳を傾ける必要について、思い当たることになるかもしれない。それからもうひとつのポイントは、ここで主人公バーナムが追い求めている The Greatest Show である。この映画を見る人には明らかだと思うが、それぞれの人にとっての「最も偉大なショー」は、その人の人生そのものにほかならない。だから我々は、どんな状況でも前を向き、たとえ挫折しても元気を出して、自らが監督を務めるステージを全うする必要があるのである。The Show must go on!!