人気ブログランキング | 話題のタグを見る

グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)

グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_21022268.jpg
名実ともに現代を代表する俳優のひとりであるヒュー・ジャックマンは、「X-メン」シリーズにおけるウルヴァリンの役ではかなりハードなアクション俳優であるが、その一方で、「レ・ミゼラブル」で聴かせた素晴らしい名唱は忘れがたい。この映画もまた「レ・ミゼラブル」と同じくミュージカル映画なのであり、ヒュー・ジャックマンの歌を聴くことができるのが、なんとも楽しみであった。というのも、予告編で見たこのようなシーンが、極めて印象的であったからである。
グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_21444434.jpg
ここで後ろ向きのシルエットでその姿を見せるヒュー・ジャックマンが歌う "Ladies and Gentlemen, this is the moment you've waited for" (紳士淑女の皆さま、さぁお待ちかねです) という歌詞の語感がなんとも心に残ったのであるが、それはこの映画のクライマックスかと思いきや、なんとなんと、いきなり冒頭部分なのである。ヒュー・ジャックマン演じる興行主 P.T. (フィニアス・テイラー) バーナムの物語はこうして幕を開ける。舞台は 19世紀半ば。ここには、夢と野望を抱きつつ、公序良俗に反することも厭わず目的に向かってひた走り、そして偉大なる成功を収める男の姿、そしてまた、有頂天になって、一転奈落の底に突き落とされる男の姿が描かれている。設定は少し極端ではあるものの、多かれ少なかれ、誰の人生にもこのような浮沈があるだろう。小気味よいテンポで辿る P.T.バーナムの半生は、常にどこか人間的であるがゆえに、普遍性を持つものとして、見る者の心を揺さぶってくる。若き日のギラギラした感じから成功の美酒に酔いしれ、そして過信のしっぺ返しを受け、最悪の状況から、仲間たちに励まされて新たな一歩を踏み出すまでの数十年に亘る主人公の姿は、今年 50歳になるヒュー・ジャックマンの肉体によって、スクリーンに永遠に刻まれたと言ってよいだろう。
グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_22044429.jpg
予告編を見ただけでは分からなかったこの映画の侮れない点は、だが、タブーにまで挑戦しようかというその表現意欲にある。この映画のモデルになっているバーナムという人物は、かなり胡散臭い経歴の持ち主で、サーカスというよりは見世物を興行することで、世間の人気を得たようである。そのあたりをこの映画は、なかなか巧妙に描いている。普通人とは異なる人たち (その中には、それはさすがにメイクじゃないのと思われる人もいるが) を集めて興行を打ったこの人は、その点だけ取ってみれば、とても道徳的な人物ではなかったようである。このような実在のバーナムの肖像を見ると、うーん、やはりヒュー・ジャックマンとはちょっと違いますねぇ (笑)。ただ、その視線はまっすぐだ。
グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_22102458.jpg
この映画にはまた、常にバーナムのやり方に反対する人たちが出てきて、彼らの使う言葉は「フリークス」である。映画史的にはトッド・ブラウニングの古い映画 (1932年) で知られている言葉ではあるが、そのような言葉が現代の映画に出て来ることには、正直驚くのである。これは、バーナムと、その劇団で活躍した親指トム将軍、本名チャールズ・ストラットンの写真。
グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_22193051.jpg
そして、バーナムのことを最初は蔑みながら、ともに米国各地で公演を続けるうちに感情移入して行ってしまうスウェーデン出身の実在のオペラ歌手、ジェニー・リンド (1820 - 1887)。この映画の中では彼女の歌は全くオペラ風ではなく、現代のラヴ・ソングであったが、一部のクラシックファンは、もしかするとそのことに異を唱えるかもしれない。だが私は、これはこれでよいと思う。映画の流れの中で、ここだけオペラのアリアになっても、観客がすんなり入り込めるとは思えないからだ。ここでリンド役を演じるレベッカ・ファーガソンもリンドと同じくスウェーデン出身で、このブログでも何度かその活躍ぶりをご紹介した。大スターでありながらひとりの女性でもあるリンドの姿を、説得力ある演技で美しく見せてくれた。これが実際のジェニー・リンドと、彼女を演じたファーガソンの比較。いずれ劣らぬ美人ではある。
グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_22332983.jpg
この映画でほかに印象に残ったのは、主人公の相棒役を演じたザック・エフロン。彼の過去の出演作を見た記憶はないが、なぜかその顔には親しみがあって、役柄にぴったり合った演技であったと思う。この酒場での歌と踊りのシーンではヒュー・ジャックマンとの息もぴったりで、何とも粋であったし、空中ブランコのシーンもさまになっていた。実際にかなりマッチョな人であるらしい。
グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_22381587.jpg
監督のマイケル・グレイシーも耳になじみのない名前だが、それもそのはず、実はこれが長編デビュー作。ヒュー・ジャックマンと同じオーストラリア出身とのことなので、やはりこの映画を作る上での主導権は、かなりジャックマンにあったのかもしれない。だがここでのグレイシーの演出はなかなかにキレがよく、驚くような映像も何度となく見せてくれる。この映画の成功によるものであろうか、次回作はあの日本のマンガ「Naruto」の映画版であるそうだ。
グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_22454725.jpg
それから、ミュージカルであるからには、音楽も大事な要素であるが、ここでの音楽スタッフはあの「ラ・ラ・ランド」と同じ。なるほど、メインテーマや "This is Me"、"Rewrite the Stars" などはなかなかよい曲である。演技も歌も高次元で達成された、素晴らしい映画であった。最も偉大なショーマンに、拍手!!
グレイテスト・ショーマン (マイケル・グレイジー監督 / 原題 : The Greatest Showman)_e0345320_22501784.jpg
さて、最後に 2つの点に触れて終わりにしたい。まず第一は、この映画におけるバーナムのサーカス団の人たちが放つメッセージである。ここでは普通の人間と異なるユニークな人たちが、自らを鼓舞し、自信を高めるさまが描かれるが、米国の現状を思い起こすにつれ、これは、マイノリティが白眼視されかねない現政権の状況に対するアンチテーゼのように思われてくる。いやもちろん、この映画の企画は現政権発足前に遡る可能性大であるが、それでも、公開時に米国ではそのようなイメージが付与されたことは、想像に難くない。それゆえであろうか、米国ではこの作品に対する評論家の評価は二分されたという。映画とは常に時代と切り結ぶものであり、今後この映画を人々が見るときに、きれいごとではないマイノリティの主張に耳を傾ける必要について、思い当たることになるかもしれない。それからもうひとつのポイントは、ここで主人公バーナムが追い求めている The Greatest Show である。この映画を見る人には明らかだと思うが、それぞれの人にとっての「最も偉大なショー」は、その人の人生そのものにほかならない。だから我々は、どんな状況でも前を向き、たとえ挫折しても元気を出して、自らが監督を務めるステージを全うする必要があるのである。The Show must go on!!

by yokohama7474 | 2018-04-01 23:05 | 映画