川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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ラッキー (ジョン・キャロル・リンチ監督 / 原題 : Lucky)

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この映画は、ハリー・ディーン・スタントン (1926 - 2017) の遺作である。一般にはこの俳優の名前を知らない人も多いだろうし、かく言う私も、彼の大ファンということでもないのだが、一本の映画が私の脳裏に鮮烈に焼き付いて離れないので、これは見ないといけないと思ったのである。その映画とは、ヴィム・ヴェンダースの「パリ、テキサス」(1994年) だ。
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まあこの写真を見ても、「なんだ、汚い格好をして荒野を彷徨い歩く人か」くらいにしか思わないかもしれない (笑)。そういえば今回の「ラッキー」のポスターも、同様の趣向と言えば言える。実際のところ、彼はその生涯に 100本以上の映画に出演したものの、その多くは脇役であり、オスカーを受賞することもなく、きらびやかな銀幕のスターでは全くなかった。だが、一度見ると忘れられない味のある役者であり、この「パリ、テキサス」という一作品だけでも、人々の記憶に永遠に残るであろう。痩身にギラリと光る眼が、その寡黙さとあいまって、ちょっとただならぬ印象を与えるが、それは決してコミュニケーションを断絶した眼ではない。禁欲的であり、決して優しさや寛容さを湛えているわけでもないが、しかし、人の痛みを知っている眼である。言葉を発せずとも、人と人の間でその存在を自然に主張する、そんな不思議な雰囲気を持った人であったと思う。こういうモノクロの写真では、彼の生きていた時間がその顔に現れているのが分かる。
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さてこの作品は、そのハリー・ディーン・スタントン自身を想定して書かれた脚本であり、一人暮らしの 90歳の老人の物語。ラッキーという題名は主人公の名前であるが、これを見ていると、演技なのか、役者自身が独白しているのかが分からなくなってくるような、そんなリアリティを感じることとなる。ここで描かれているのはラッキーの日常であり、何か異常な事態が発生して世界が危機に陥ることもない。朝起きて、ヨガ (なのかな?) のポーズを取り、ミルクを飲み、近くのダイナーでコーヒーを飲む。クロスワード・パズルを好み、夜はバーでブラッディ・マリア (マリーではない) なる特別のカクテルを飲む。彼は 90歳にして喫煙を続けているが、肺には特に異状はない。決して人当りのよい方ではなく、回りに毒舌を吐くこともしばしば。だが、例えばいつもミルクを買うデリのヒスパニックの女性には優しいし、そして、長年飼ってきた100歳 (!) の陸カメ (因みに英語では Turtle ではなく Tortoise である)、ルーズヴェルトがいなくなってしまったことを大いに嘆くという人間性を持つのである。その彼の日常に、過去の思い出と目先の問題が交錯し、そして観客は、この頑固爺が、死という不可避の運命に対し、ごく自然に対峙していることを知る。これは死の厳粛さとは無縁の作品である。だが観客はそこに、人が生きることの孤独や、限られた時間の中で生まれる人と人との縁のようなものに、何か心を動かされるのだ。これは歴史的傑作というような映画ではない。だが、ハリー・ディーン・スタントンというユニークな俳優が、居丈高になることも感傷的になることもなく、ただ彼自身の生きる姿を見せることで、忘れがたい映画になっている。ほかの出演者のほとんどにはなじみがないが、唯一この人だけは注目であろう。
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そう、デイヴィッド・リンチである。彼のドキュメンタリー映画についての記事を少し前に書いたことがあるが、自身が役者としてこんな映画に出演するとは珍しい。彼の作品のいくつかにスタントンが出演していることが一因だろう。「ツイン・ピークス」の映画版にも出ていて、昨年制作された新テレビシリーズでも同じ役で出演したらしい。この写真はちょっと異色なツーショットのようでもあり、何か特別な絆で結ばれているようにも見える。リンチは決して器用な役者ではないと思うが、この、いなくなった陸ガメを見つけて遺産相続させようというアドバイスを真剣に送る奇妙な人物 (笑) は、この人のイメージにぴったりだ。プログラムに記載されている脚本家のインタビューでは、この役をリンチにやってもらうように提案したのは、スタントン自身であるようで、リンチは脚本を読んですぐに気に入り、この陸ガメのシーンは自分でも書きそうなセリフだし、ハリーのためなら是非出たいと言ったらしい。

この映画の監督、ジョン・キャロル・リンチは、その名前から、もしかしてデイヴィッド・リンチの親戚かと思いきや、そういうことではなく、もともと俳優である。1963年生まれで、数々の作品に出演しているようだが、彼もハリー・ディーン・スタントンと同じく脇役中心であり、あまりイメージが沸かないと思ったら、お、「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」で、マクドナルドを起業した兄弟のうち、気のいい兄を演じていた人であった。このような映画の監督を任されると、きっと俳優人生にも大きな刺激になるであろう。
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映画の最後に姿を見せる100歳の陸ガメ、ルーズヴェルトは、一体どこに行くのであろう。この映画の完成後間もなく亡くなったハリー・ディーン・スタントンの魂 (きっとその状態でも煙草を吸って毒を吐いているだろう) を乗せて、悠々と地球のどこかを歩き続けているのかもしれない。
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by yokohama7474 | 2018-05-12 12:05 | 映画 | Comments(0)
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