川沿いのラプソディ


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佐渡裕指揮 ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団 (ピアノ : ヴァレリー・アファナシエフ) 2018年 5月17日 サントリーホール

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佐渡裕は言うまでもなく世界で活躍中の指揮者であるが、現在の手兵であるウィーン・トーンキュンストラー管絃楽団と、2年ぶり 2回目の日本ツアーを行っている。5/12 (土) の京都に始まり、5/27 (日) の札幌まで、16日間に日本全国で 13公演を行うという、かなりの強行軍。名門オケでも昔ほど日本ツアーで目まぐるしく各地を駆け回るのは珍しくなっている昨今、この、日本でそれほど有名とは思われないオケにこんなことができるのは、ひとえに佐渡の抜群の知名度によるものであろう。それはそれで、大変意義のあることだと思う。今回の日本ツアーでは 2種類のプログラムが組まれていて、東京でもその 2種類が、今回のサントリーホール、そして 5/19 (土) の NHK ホールでそれぞれ演奏される。ひとつの特色は、今年 2018年が、佐渡の恩師レナード・バーンスタインの生誕 100周年ということで、いずれにもバーンスタインの作品が含まれていること。そんなわけで、今回のプログラムは以下の通り。
 バーンスタイン : 「キャンディード」序曲
 ベートーヴェン : 交響曲第 6番ヘ長調作品68「田園」
 ブラームス : ピアノ協奏曲第 2番変ロ長調作品83 (ピアノ : ヴァレリー・アファナシエフ)

これはどうだろう。実に多彩かつ、演奏時間の長いコンサートではないか。まずは、上記の通りバーンスタインの作品。そして、その「キャンディード」の弾ける陽気さ (作品の内容を知っていれば、この陽気さには皮肉な要素が多々入っていることが分かるのだが) とはちょっと趣きの違うベートーヴェンの古典「田園」に、鬼才ピアニスト、アファナシエフを迎えての、ブラームスの巨大ピアノコンチェルトだ。佐渡の長所はその大らかさと爆発的エネルギーにあると思うが、アファナシエフのような特異な個性のピアニストと、どのように対峙するのだろうか。実は私の最大の関心はそこにあった。
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実は驚いたことに、開演前、未だ楽員の登場しないステージに佐渡がひとりで現れ、マイクを持って少し喋った。これは聴衆へのサービスとは言えようが、話の内容が幾分細切れで、ちょっと分かりにくかったのではないか。例えば彼が 1988年にバーンスタインに呼ばれてウィーンに渡ったことなど、彼の経歴を知らない人はよく流れが分からないだろうし、今回の公演チラシをよく見ると、オケの名は「トーンキュンストラー管弦楽団」となっていて、「ウィーン」がついていない。だから、中にはこれがウィーンのオケであると知らない人もいたかもしれない (笑)。もっとも佐渡は話の中で、オーボエやホルンはウィーン独特であることや、今回使用するティンパニも、「キャンディード」で使用する米国製のものと、ベートーヴェン、ブラームスで使用するウィーン製のものは違うのだという説明も行ってはいたのだが。いずれにせよ、長い演奏会の前に、わざわざ出てきて話すだけの内容があったとは、正直あまり思えなかった。だが、そんな思いも冒頭の「キャンディード」序曲を聴くと、吹っ飛んでしまった。私のこのミュージカル (と、ヴォルテールによるその原作小説) への偏愛は以前も述べたことがあるが、ここでの佐渡は、実に活き活きとした音をオケから引き出していて、彼らしい音楽の活力が、そこここに聴かれた。そうそう、冒頭の彼のスピーチの中で、このオケのメンバーたちは非常に仲がよいし、お互いの音を聴きあうという話があったが、この演奏からはそれが感じられたものだ。それも、指揮者が大いなるモチヴェーションをオケに与えていて初めて可能なことであろう。

そして 2曲目の「田園」。これもクリアな音質による美しい演奏であったことは間違いないと思うのだが、この曲は私にとって、ベートーヴェンのシンフォニーの中でも、実演で満足することが非常に少ない曲。今回の佐渡は、この曲 (と、ブラームスの第 3楽章) では指揮棒を持たない素手での指揮であったが、よりきめ細かい指示が可能であろう素手の指揮であれば、例えばもっとここでタメを作ったらよいのにとか、ここはもっと深く呼吸して欲しいとか、そのような箇所がいくつかあり、課題を感じてしまった。そして今回の演奏では、スコアの反復指定を、恐らくすべてだろうか、省略していた。もちろん、この曲には同一音型の繰り返しがもともと多いので、反復がなくてもあまり目立たないとは思うものの、やはり第 1楽章の反復は、昨今では省略するケースは少ないのではないかと思う。試しに帰宅してから、彼の恩師バーンスタインの 2種類の録音、つまりニューヨーク・フィルとのものとウィーン・フィルとのものの冒頭を聴いてみたが、いずれも反復を行っていた (ちなみに、ウィーン・フィルの音の艶は、この曲にも絶大なる威力を発揮していることを再認識)。これは些細なことのようでいて、最近のベートーヴェン演奏においては、指揮者の考えが試されるようなところがあるので、少し気になってしまったのである。因みにオケのサイズは、今回の演奏会を通して、アンコールも含めてどの曲も、コントラバス 7本 (チェロ 8本)。

そして、今回のトリは、交響曲ではなく協奏曲である。演奏時間 50分を超える、ブラームスのピアノ協奏曲第 2番。ソリストは、1947年生まれのロシア人、ヴァレリー・アファナシエフである。彼のリサイタルの記事は昨年 10月に書いたが、そこでも今回の佐渡との共演に触れた記憶がある。彼が日本でコンチェルトを弾くのは 17年ぶりとのことであり、私としてはこれが今回の最大の聴き物であった。
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そして今回の演奏は、この現代の鬼才でなくてはできないような、ちょっと特殊ではあるかもしれないが、凄まじい表現力を持ったものになったのである。まず冒頭のホルンに続いて流れるように弾き出すピアノのタッチの、繊細でいながらも力強いこと!! テンポは遅めで、わざと途中で音の流れを切ってはまた進めるという風情で、自由なことこの上ない。私の席からは手元がよく見えたのだが、高いところから手を鍵盤めがけて落とすと思うと、すっとまた跳ね上がる。多分ピアノを学ぶお子さんたちが絶対に真似をしてはいけないような奏法だろう (笑)。うーん、しかし、さすがはアファナシエフだ。ブラームスの孤独と、その裏にある情熱を、このように抉り出されると、これはほとんど文学に近いと言いたくなってしまう。あるいは、もっと突飛な比喩を使うならば、天使と悪魔が同居している、特別なピアノであるとでも言おうか。そこに佐渡が、いつものように激しい情熱でオケを燃えさせると、ピアノもその炎を反映したような音で轟くのである。言ってみれば大変複雑なアファナシエフのピアノであるが、ストレートで、語弊を恐れずに言えば単純な佐渡の指揮との相性は、意外にもよかったと思う。素晴らしい演奏であった。

コンサートの終わりがコンチェルトなので、アンコールはどうなるのかと思いきや、まずはピアノ。そしてオケであった。アファナシエフが弾いたのは、なんとも怖いほど味わいの濃い、ショパンのマズルカ第 45番作品 67-4。続いて佐渡が指揮したのは、これも遅いテンポで濃厚に鳴る、ブラームスのハンガリー舞曲 5番。後者では聴衆から自然に拍手が出て、盛り上がった。ただ音楽の曲折の中で、それは自然消滅してしまったのだが (笑)、私はそこに、佐渡が多くの人たちから支持される理由を見たような気がする。私は彼の音楽に時折保留をつけることがあるが、しかしながら、全力で曲と取り組み、大きな音楽を作り出す才能は、素晴らしいものと思っている。またいつか彼の「田園」を聴く日が来たときに、何か新しい発見があればよいなと思う次第。

さて、終演後にアファナシエフが CD ジャケットにサインをくれるというので、ベートーヴェンの「テンペスト」を含むアルバムを購入、サインを頂いた。
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実はこれ、当然、サインを見やすいように、グジャグジャとした文字のある右ページではなく、写真になっている左のページにサインを欲しかったのだが、本人が「どっちにサインするんだ」との意思表示を実に曖昧に示し、それに係の人が反応せず、私が気づいて、「こっちにお願いします」と言ったときには時遅し。既に、スラスラと文章の上にサインをしてくれていた・・・という次第 (笑)。その後英語でブツブツと、「だって、どっち側って言ってくれないと、分からんだろう」と呟いておられたが、別に私や係の人を非難するようでもない。これは私にとっては期せずして面白いエピソードとなった。つまり、この極めて個性的な芸術家は、きっと心の中にいつも葛藤があって、常に何かを考えているのだ。一見とっつきにくいが、その内面には優しさが溢れているに違いない。これぞ彼の芸術の神秘に迫る鍵ではないか・・・と例によって勝手に解釈し、気分よく会場をあとにした。でもこの写真、見て下さいよ。この高く上げられた右手が、次の瞬間に魔法の音楽を鳴らすのである。これも、彼の芸術の神髄に迫る大変興味深い写真ではないか。そう考えると、写真がサインで塗りつぶされなくて、よかった (笑)。まぁいろんな解釈があるということで・・・。ところでこのアファナシエフ、今回のトーンキュンストラーとのツアー中にはリサイタルはなさそうであるが、会場配布のチラシには、10月のリサイタルの宣伝が入っていた。やはりまた、リサイタルを聴いてみたいものだ。今度サイン会があれば、「文章ではなく写真の上に書いて下さい」と、訊かれる前から言ってしまおう。

by yokohama7474 | 2018-05-18 00:42 | 音楽 (Live) | Comments(5)
Commented by 吉村 at 2018-05-18 11:05 x
遅い時間までかかったコンサートの後のブログ更新お疲れ様です!
キャンディード良かったですね。オーケストラも良く歌ってましたね。
田園は思ったより弦が鳴ってて良かったです。ただ、 普通でしたね。
アファナシェフはブラームスもさることながら、ショパンには震撼しました。ピアノの叩き方はロシア的なのに、音色は独特ですね。感動しました。
Commented by usomototsuta at 2018-05-18 22:35 x
今回もコメントさせていただきます。「田園」の反復の件を興味深く読みました。質問ですが、それは提示部の反復ということですか? あの反復をするか否かは指揮者のどのような考えに依るんですかね? ビギナー的には「なぜ繰り返す?」と思うし、楽譜、或いは形式に忠実ということで言えば「繰り返さなきゃ」と、私の考えははっきりしませんが(笑)。
 また、どの辺りの作曲家までが「提示部の反復」を楽譜で要求してるんでしょうか? お教えいただければ幸いです。
 蛇足ですが昨年2月、恒例の日本フィル九州公演で、大分でも「田園」を聴くことができました。広上さんでした。躍動感溢れる指揮でした。
Commented by yokohama7474 at 2018-05-18 22:41
> 吉村さん
アファナシエフは不思議なピアニストだと思います。タッチは強靭なのに、きれいな澄んだ音が鳴りますよね。確かにショパンのマズルカは、鬼気迫る雰囲気がありましたが、最後は意外とあっさり終わるあたりも、なんともただならぬものがありましたね。これからもなるべく生演奏で聴きたいピアニストです。
Commented by yokohama7474 at 2018-05-18 23:02
> usomototsutaさん
あー、これは専門家の方がお答えすべき質問だと思いますが (笑)、いち音楽ファンとしての私の勝手な見解を述べますと、反復は確かに、ソナタ形式の提示部の場合が多いですが、スケルツォなどの場合には主部やトリオにも反復記号があるはずです。基本的には、ソナタ形式が大きな意味を持っていた古典派から初期ロマン派の音楽に、反復の指示があることが多いですが、でも、後期ロマン派でも、例えばマーラーの 6番には、提示部の反復指示がありますよね。曲にもよりますが、古きよき時代の大指揮者は概して反復を冗長なものとしたところ、原典主義が盛んになって、楽譜の指示を忠実に守り、反復を行う演奏が増えて来たものと思います。例えば、リッカルド・ムーティ (厳格な原典主義者) が確かウィーン・フィルでモーツァルトの「ジュピター」を振るときに、「これまであなたたちが慣れている演奏よりも 15分、演奏時間が延びますよ」と言って、実際そうなったという逸話がありました。私の世代だと、クリストファー・ホグウッドのモーツァルト全集ですべての繰り返しがなされていて、衝撃を受けました。例えば「リンツ」交響曲など、終楽章がいつまで経っても終わらない!! と思った記憶があります (笑)。あ、「田園」でも、マゼールがウィーン・フィルとすべての反復を繰り返して、演奏時間が 45分を優に超えていました。すみません、専門家でもないのに、長々述べてしまい、失礼しました。
Commented by usomototsuta at 2018-05-19 23:28 x
反復についての説明有難うございました。とても丁寧で、具体例も交えていただきよく分かりました。
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