川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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メモ帳

プラド美術館展 ヴェラスケスと絵画の栄光 国立西洋美術館

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もう随分と昔のことになるが、1997年と 1999年のそれぞれ、1ヶ月以上に亘って出張でマドリッドに滞在したことがあった。スペイン人との交渉はなかなかに困難なのであるが、私の場合は、交渉の難航による感情的な対立のあとに、長いランチにおいてスペイン絵画やスペイン映画の話をすることで、彼らから一種の信頼を勝ち得るということができたので、ビジネスも最終的には成果を挙げることができたのだった (笑)。芸は身を助くとはよく言ったものである。そんなわけで、マドリッドにある世界有数の美術館であるプラド美術館は、私にとっては大変身近に感じる存在なのであり、今回はそのプラドから、ヴェラスケスが 7点もやってくると聞いて、大変嬉しく思った。3ヶ月を超える期間も既に最終盤に入っているが、私が出掛けたのは未だ展覧会の初期の頃で、会場の国立西洋美術館はガラガラであった。今では少しは盛況になっていて欲しいものだと思うが、さて、どうだろう。

この展覧会が、少なくとも最初の頃には大入りになっていなかった理由は何だろう。多分それは、ヴェラスケスという画家へのなじみのなさなのではないだろうか。あ、ここでひとつ注釈しておくと、展覧会の副題は「ベラスケスと絵画の栄光」であるが、私にとってはこの画家の表記は「ヴェラスケス」でしかありえないので、この記事でもそれを貫くこととしたい。そのヴェラスケス、もちろんこのプラドの「ラス・メニーナス」や、ウィーンにあるマルガリータ王女の肖像など、誰でも知っている有名な作品もある。だが、なぜだろう、イタリア・ルネサンスの巨匠たちとか、あるいはレンブラント、ルーベンスという近い時代の画家たちと比べても、その名が日本で広く知られているというイメージは少ない。ディエゴ・ヴェラスケス (1599 - 1660) は、スペインがその勢力の絶頂期を終えた 17世紀に、時の国王フェリペ 4世の宮廷画家として活躍した人。その絵画表現は時代を超えていて、王家の人たちを様々に描いたほか、貴族社会の中でそれまで描かれることのなかったような人たちを描き、神話の世界を現実に取材して描くような大胆なことを行ったのである。では、この展覧会に展示されているヴェラスケスの作品 7点をお目にかけよう。まず最初は、「フアン・マルティネス・モンタニェースの肖像」(1635年頃作)。モデルとなっている人物は彫刻家である。おぉ、なるほど。この人の右下に見えるマンガのような人の顔は、制作途中の彫刻であるわけだ。それにしても、「よぅよぅ、ちゃんと彫ってくれよな」と言いたげな彫刻の表情が面白い。
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2点目は「メニッポス」(1638年頃作)。古代ギリシャの哲学者だそうである。だが彼の表情は大変人懐っこく、きっと実在のモデルがいたのではないかと思わせる。確かな人間存在を描くのがヴェラスケスの手腕である。
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さて、3点目は結構有名な作品で、「マルス」(1638年頃作)。戦いの神にしてはその露わな肌には皺がより、一体こんなところで何を休んでいるのか!! と思わせる (笑)。これは画家の資質もあるが、このような作品をギリシャ神話の神の肖像として描くことを許したスペイン王家の懐の深さが面白い。上述の通り、ヴェラスケスが活躍していたのは、既にスペインの絶頂期 (つまりフェリペ 2世の時代) を過ぎている。それゆえにこそ、このような自由な芸術が生まれたのかもしれないし、あるいはまた、ヴェラスケスこそは時代を超えたリアリズムを追求した、特別な画家であったとも言えるかもしれない。
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そのヴェラスケスが仕えたフェリペ 4世はこんな人。この作品はヴェラスケスの 4点目の作品、「狩猟服姿のフェリペ 4世」(1632- 34年作)。この長い顎はスペイン・ハプスブルク家の伝統らしいが、リアリストのヴェラスケスは、そのような王の容貌をリアルに捉えながらも、王の肖像としえふさわしい威厳には気を遣っているように思われる。左足の位置の修正が肉眼でも見えるのは、王の肖像の完成作としては少し意外に映る。この痕跡を消すことくらい、きっとできたはずだ。それをせずに痕跡を残したヴェラスケスの真意は、一体どこにあったのだろうか。
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そして 5点目。これも有名な作品で、「バリェーカスの少年」(1635 - 38年作)。一目見て分かる通り、当時宮廷にいた障害者の少年を描いている。ここにもリアリスト、ヴェラスケスの透徹した目を感じることができるが、それは貴族趣味的な感性からは極めて遠く、描かれる対象の実在感を過たず描き出している。やはりここに画家の近代性とともに、ヒューマニズムを感じることができるだろう。
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6点目は、本展覧会の目玉であり、ポスターにも使われている「王太子バルタザール・カルロス騎馬像」(1635年頃) である。これは高さ 2mを超える大作であり、フェリペ 4世の息子の凛々しい騎馬像である。背景の雲にも表情を与えつつ、空と山のブルーがなんとも目に心地よい。また、王子の表情もリアルであり、なんとも可愛らしいではないか。ただ、この王子は 1646年、17歳で病死している。王位を継承することのなかった王子は、ヴェラスケスの手によって、永遠に 10歳ほどの幼児として、歴史にその姿を残したのである。
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最後、7点目のヴェラスケスの作品は、「東宝三博士の礼拝」(1619年)。ヴェラスケスわずか 20歳の頃の作品である。この絵の聖母マリアは彼の妻フアナ・パチェーコ、キリストはこの年に生まれた娘のフランシスカ、そして跪く人物は、画家自身をモデルにしていると言われているらしい。20歳にしてこの技量は、やはり素晴らしいし、身の回りの人たちを宗教画のモデルにするあたりは、その後リアルな視点で数々の名作を描くことになる偉大なる画家の足跡として、実に説得力がある。
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さて、展覧会には、これらヴェラスケスの作品以外にも、スペインの巨匠画家の作品や、オランダやイタリアの画家たちの作品が並んでいて圧巻だ。もちろんすべてプラド美術館の所蔵品である。その中で、私が気になった 4点のみを以下にご紹介しよう。まず、エル・グレコ (1541 - 1614) とその工房による「聖顔」(1586 - 95年作)。エル・グレコはギリシャ出身ながら、スペインで活躍した画家であり、私にとっては、西洋美術史におけるベスト 10の画家に入るほどの偉大な画家だ。ヴェールに残ったキリストの顔であるが、その若干硬い線に、この画家の個性を見る。工房の手が加わっていると見られているようで、確かにエル・グレコ自身の最も偉大な作品群に比べると大人しいが、しかし、その現実を超えたドラマ性は、実に素晴らしいと思う。
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次は、スペイン・バロックを代表する画家のひとりでヴェラスケスの同時代人、フランシスコ・デ・スルバラン (1598 - 1664) の「磔刑のキリストと画家」(1650年頃作)。なんと、磔になったキリストに対し、パレットを持った画家が何やら語りかけている場面であり、これは珍しい。当然この画家はスルバラン自身かと思いきや、これまで彼の肖像画として確実なものはないらしく、その点は明確ではないらしい。だが、灰色のトーンで描かれるこの構図には、静かなドラマを感じることができる。
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それからこれは、いわずと知れたヴェネツィア・ルネサンスの巨匠、ティツィアーノ (1488/90頃 - 1576) の「音楽にくつろぐヴィーナス」(1550年頃作)。似たような構図の作品が幾つかあるが、なんとも艶のある作品だ。私はいつも不思議に思うのだが、この作品でオルガンを弾いている音楽家は、ちょっと後ろに身をよじりすぎではないだろうか (笑)。これではオルガンなど弾けるわけもないだろう。よく見るとヴィーナスの左足はこの音楽家の背中に届いており、もしかすると、ヴィーナスがツンツンと突っついたために、音楽家が思わず振り向いたということかもしれない。いや、それにしても振り向きすぎだろ、これ (笑)。
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最後に異色作品を。ビセンテ・カルドゥーチという画家の作とされている「巨大な男性頭部」(1634年頃)。縦 246cm、横 205cmの巨大な作品である。これは宮殿の中に飾られていたことは確実視されているが、その題材は謎のようである。なんらかの意味があって巨人を描いたものであるらしい。西洋美術の歴史には、このような突然変異のような作品が時々現れる。そう思ってみると、これは近代のメキシコあたりの作品と言われても納得してしまいそうだ。この作品の持つ一種異様な迫力を、私は会場で存分に味わったのである。
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その他、有名無名の作品が多く展覧されていて、プラド美術館の所蔵品のレヴェルの高さが実感できるのである。そして、実際に現地に足を運んでみると、展示作品があまりに多いため、ひとつひとつをゆっくり感傷することは、時間的にも気分的にもなかなかできないので、このような展覧会で、えりすぐりの作品を楽しむ価値は、大いにあるだろう。西洋美術館での会期は 5/27 (日) までなので、首都圏の方には急いで頂く必要がある。関西の方々には、6/13 (水) から 4ヶ月間、兵庫県立美術館でこの展覧会を見ることができる。私も、もう一度見てもよいかなぁと、思い返しているところであります。

by yokohama7474 | 2018-05-22 01:23 | 美術・旅行 | Comments(0)
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