川沿いのラプソディ


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メモ帳

下野竜也指揮 東京都交響楽団 2018年 5月22日 サントリーホール

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東京都交響楽団 (通称「都響」) のサントリーホールにおける定期演奏会である。上のチラシは実は今月と来月の 2ヶ月分をカバーしていて、今回のものは左側。なになに、「ボブ・ディランの詩がオーケストラ歌曲に!」とある。なるほど、2016年にノーベル文学賞を受賞した歌手、ボブ・ディランの名前を掲げることで、ちょっと気になるものにはなっている。この演奏会を指揮するのは下野竜也。1969年鹿児島生まれの、確かな手腕を持つ指揮者である。
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このブログで彼の演奏を採り上げた回数は決して多くないが、上でも書いた通り、私はいつも彼の音楽を安心して聴いている。それは、曖昧なところやもったいぶったところがなく、ストレートな音楽性を持っていて、しかも、スタンダードレパートリーに安住せず、時に大きな冒険をするからだ。親しみやすさだけではなく、音楽の厳しさや、音楽作品を生み出す時代背景ということまでも感じさせる点で、彼は非凡な存在なのである。そんな彼が指揮する都響の演奏会は、以下のようなプログラムである。
 メンデルスゾーン : 交響曲第 3番イ短調作品56「スコットランド」
 コリリアーノ : ミスター・タンブリンマン --- ボブ・ディランの 7つの詩 (ソプラノ : ヒラ・プリットマン、日本初演)

なるほど、チラシにはボブ・ディランの名前しかないが、前半にあのメンデルスゾーンの傑作交響曲が演奏される。重くなり過ぎない抒情性が下野の音楽性にはぴったりの曲なので、それも楽しみにして会場に向かったのであるが、この「スコットランド」は実際、期待に違わず、隅から隅まで活力いっぱいの音に満たされた、実に驚くべき名演であったことをここに述べておこう。もう何度も書いてきたことであるが、この都響の音にはいつも重い実在感があって、こればかりはいくら文字で繰り返しても伝わらないかもしれないが、実際のステージで一聴すれば明らかである。どうやってこの音が出てきているのか、特に弦楽器の奏者たちを私はいつも見回すのであるが、何か無理を重ねて弾いているという感覚は皆無であり、ごく自然に、そして適度な集中力をもって演奏している結果が、これだけ充実感のある音に結実していると感じるのである。下野と都響が、これまでどの程度共演実績があるのかはよく分からないが、オケが指揮者の意向を汲んで、これだけクオリティの高い音が鳴るのであるから、相性はかなりよいと思う。私の場合、この「スコットランド」交響曲には、実際に作曲者が霊感を得たスコットランドのエディンバラで経験した抒情をひしひしと感じさせる部分が多々あって、大変に思い入れの深い曲であることは、以前もこのブログで書いたことがある。そんな私にとって、これだけクリアに、かつ美しい音でこの曲を聴けることは、本当に大きな喜びなのである。素晴らしい演奏であった。

そして、休憩のあとのメインの曲目が、ボブ・ディランの詩に基く歌曲集「ミスター・タンブリンマン」の日本初演である。作曲者は、米国を代表する作曲家、ジョン・コリリアーノ。彼は 1938年生まれだから、今年 80歳になる。
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彼の名前が一般にどの程度知られているのか分からないが、同名の父がニューヨーク・フィルのコンサートマスターであり、彼自身も、METで初演されたオペラ「ヴェルサイユの幽霊」とか、アカデミー作曲賞を受賞した映画「レッド・バイオリン」で、多少は知られているのではないだろうか。コープランドやバーンスタイン、ルーカス・フォスといった、いわゆる米国らしい音楽の系譜に連なる人で、その作風には決して難解なところがない。今回日本初演された「ミスター・タンブリンマン」は、その副題の通り、ボブ・ディランが作詞作曲した 7曲の歌から、その歌詞だけを再利用し、全く異なる音楽をコリリアーノが作曲したもの。演奏時間は 35分ほどである。ソプラノ独唱はヒラ・プリットマンという歌手で、私も予備知識がなかったが、現代音楽の分野をメインに活動しているようであり、グラミー賞受賞歌手とある。このグラミー賞について詳細を調べきれなかったが、実は今回演奏された「ミスター・タンブリンマン」は 2008年にグラミー賞を受賞していて、その部門は、ひとつはクラシック現代音楽部門 (変な部門名だ。笑)。もうひとつはベスト・クラシカル・ヴォーカル・パフォーマンス部門。もしかするとこのプリットマンのグラミー賞受賞は、このことを指しているのだろうか。ジョアン・ファレッタ指揮バッファロー・フィルと共演した NAXOS 盤がその対象であったと思われる。
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この曲は、以下の 7曲から歌詞を転用している。
1. ミスター・タンブリンマン (プロローグ)
2. 物干し
3. 風に吹かれて
4. 戦争の親玉
5. 見張塔からずっと
6. 自由の鐘
7. いつまでも若く (エピローグ)

私は残念ながらボブ・ディランの曲には大変疎く、「風に吹かれて (Blowin' in the Wind)」くらいは題名を知っているが、曲に対するイメージはない。作曲者コリリアーノは、ボブ・ディランの人気が高まった 60年代・70年代には若い世代であったので、きっとその頃から彼の大ファンだったのだろうと思いきや、プログラムに掲載された作曲者自身の解説によると、「ボブ・ディランというフォーク・シンガー / ソングライターの評判が非常に高いことはいつも聞いていた。だが私は自分のオーケストラの書法を磨くことに懸命で、世界中がディランの歌を聞いていたころ、私は彼の曲をまったく聞いたことがなかった」と語っている。そしてコリリアーノはディランの詩集を購入、そこに自分の音楽との相性を感じ、原曲を聴くことなく、これらの歌曲を作曲したという (ゲーテの同一の詩にシューマンやブラームスやヴォルフがそれぞれ作曲したことと同様との弁)。因みに、この歌曲集を委嘱したのは、名ソプラノ歌手、シルヴィア・マクネアーであり、2000年にピアノ版が作曲され、マクネアーによって初演された。そして2003年に、今回演奏されるオーケストラ版に編曲されたが、オケ版の初演者は、今回と同じプリットマンであった。
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コリリアーノによると、この曲 (のオケ版という意味だろう) はソプラノにオペラティックに歌って欲しくないために、PA の使用を指示しているという。確かに今回の演奏では、プリットマンは譜面も手にせずにステージに現れ、指揮者の右に左に、ステージの前面で右に左に、終始位置を変えながらの歌唱であり、大編成のオケの前でも繊細な表現からダイナミックな表現までを披露していた。これは PA あってのことだろう。曲はなかなかに手の込んだもので、曲の流れや響きが様々に推移する。だが作曲者はそんな中にも、連続する曲の間には共通する音型を潜ませるなど、7曲を緊密に結びつける工夫をしているようだ。プリットマンの歌唱がみごとであったのは言うまでもないが、ここでも下野と都響が充実の音楽を展開していたことが嬉しい。第 6曲では、大音響が沸き起こり、ステージ横の RA、LA ブロックのそれぞれに置かれた鐘と、ステージ上の鐘が共鳴しあって、音の渦がホール内を席巻した。かと思うと再度の第 7曲では、静かな余韻がゆったりと続き、そのまま感動的に曲を閉じたのである。客席は結構埋まっていたが、このような素晴らしい演奏による日本初演を聴衆は皆歓迎したことが、その拍手に表れていた。

というわけで、聴きごたえ充分のコンサートであった。そして、同じチラシで紹介されている次の都響のサントリーホールでの定期演奏会は、ほんの 2週間ほど先。こちらも今から楽しみなのである。

by yokohama7474 | 2018-05-23 00:32 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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