川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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メモ帳

ゲティ家の身代金 (リドリー・スコット監督 / 原題 : All the Money in the World)

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米国の大富豪、ジャン・ポール・ゲティの名を私が初めて知ったのは、確か「ゴルゴ 13」のいずれかの挿話であったと記憶する。彼の名を冠した美術館が紹介されていたように思う。かつて大量の冊数を所有していたこの劇画は、以前引っ越しの際にすべて処分してしまっており、手元で確認することはできないが、私はその後、ジャン・ポール・ゲティ美術館についての書物を購入することとなった。今手元に引っ張り出してきたその本は、これだ。
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1998年 2月号の「芸術新潮」誌である。もう 20年も前のことになるが、なぜにこのときこの美術館の特集が組まれていたかというと、そのほんの数ヶ月前、正確には 1997年12月16日に、この美術館がロサンゼルスのサンセット大通りにオープンしたからであった。山全体に展開する数々の建物は、現代を代表する建築家リチャード・マイヤーの設計によるもので、美術館のみならず、美術の研究所などもある文化複合施設である。
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そして私がこの場所を実際に訪れることができたのは、2006年 4月。その広大さとコレクションの質の高さに驚愕したが、私の記憶が正しければ、入場料は無料であったと思う。また、ここがオープンする前、1974年から使われていた美術館は今では「ゲティ・ヴィラ」と呼ばれていて、そちらは古代美術を展示しているようだが、私は行ったことがない。だが、芸術新潮誌にも掲載されているこのような、いかにも古代ローマのヴィラのような中庭が素晴らしい。私が最初にこの美術館を知った「ゴルゴ 13」でもこの庭園が描かれていたと記憶する。
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なぜにこんなことを長々書いているかというと、この作品はその題名のごとく、このような大美術館を可能にした莫大な資産を持っていた石油王 J・ポール・ゲティが晩年に遭遇した実際の事件を題材にしているからである。それは、1973年に起こった、ゲティの孫、ジャン・ポール・ゲティ 3世の誘拐事件である。これは予告編でも映像が流れていたのでネタバレにはなるまいが、17歳の孫の身代金の要求が犯人からあったとき、当の大富豪は、「身代金などビタ一文出さん!!」とマスコミのカメラの前で言い切ったのである。誘拐された青年ポールの母、つまり大富豪の息子の嫁は、その状況を打破し、愛する息子をなんとか取り返そうとする。この映画はその母の奮闘を中心に描いたものである。まあ世の中、金持ちは大抵ケチであると言ってしまうとさすがに語弊があるかもしれないが、だが、本人が無駄と思うことには一切浪費をしないから資産家になれる、という面が全くないとは言えないだろう。どうやら J・ポール・ゲティはそのような人であったようだ。この映画でも描かれているが、欲しいと思った美術品を手に入れるには大金を払い、常に原油価格を気にしながら、本当は可愛いはずの孫の誘拐にも、ほとんど興味がないようにすら見える。これがその大富豪の晩年の肖像。
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この映画は、実話に基づいてはいるものの、その細部には想像によるフィクションを交えて描いている。誘拐犯の様子もかなり克明に描かれており、大富豪とその義理の娘の対立、交渉代理人の海千山千の駆け引きや、財団の人々の慇懃無礼ぶりなど、なかなか多彩な人間性が描かれていて興味深い。ただ、全体を通して見れば、少し流れが悪いかなと思わる箇所もあり、本当の意味で心に残る衝撃のシーンもそれほどないので、誰もが見るべき大傑作とまでは思わない。だがやはり、映画好きであれば見ておいた方がよいと断言できるのは、これがあの名匠リドリー・スコットの作品であるからにほかならない。今年実に 88歳という高齢にもかかわらず、近年も大作を数々仕上げていることはまさに驚異的。実際、この映画の映像にはかなり迫真的なものがあり、ローマをはじめとするロケ地での撮影も、かなりハードであったと思うので、今回もまた、同い年 (1930年生まれ) のクリント・イーストウッドと並ぶ現代の長老映画監督は、すこぶる健在であるということは言えるだろう。現場でのこんな熱血指導の様子は、とてもそれほど高齢の監督とは思われない。
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そして、高齢と言えば、役者陣で私が拍手を捧げたいのは、主役の憎たらしい大富豪のジジイを演じた、クリストファー・プラマーなる俳優である。1929年生まれで、撮影時やはり 88歳!!
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彼はこの演技でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、同賞の演技部門でのノミネートにおける最高年齢記録を塗り替えたらしい。ところが、そこには信じられない背景がある。実はこの映画、ケヴィン・スペイシー主演で撮影され、ほぼ完成に至った時点で、スペイシーのセクハラ疑惑が持ち上がり、映画の公開が危機にさらされたため、急遽このプラマーを代役として、ゲティの出演シーンをすべて撮り直したというのである!! しかも、それらはすべて 9日間で完了したというから驚きだ。プログラムに載っている本人のインタビューによると、「撮影日数は限られていたが、ありがたいことに私は記憶力が良く、次から次へと撮影を進行してくれるので、連続して演技ができ、役も撮影に合わせて自分で育て上げていくことができた」と語っている。実にプロフェッショナル。吝嗇さを嫌らしく見せながら、時にどこか憎めない純粋さも覗かせるゲティの人間像を、素晴らしく演じ上げていたと思う。こんな素晴らしい役者がこれまでに何をやっていたかというと、「人生はビギナーズ」という映画で既にアカデミー助演男優賞受賞という経歴はあるものの、もともとブロードウェイで活躍したらしく、映画の世界ではあまりなじみのある出演作はない。・・・と思ったら、ひとつだけあった。これだ。
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おぉ、これは、ジュリー・アンドリュース主演の「サウンド・オブ・ミュージック」のトラップ大佐ではないか!! これは 1965年の映画であるから、既に映画の世界でも半世紀以上のキャリアなのである。おみそれ致しました!! ほかにも、マーク・ウォルバーグがいつもながらにいい味出しており、一方、誘拐された息子を取り返すために奔走する母は、「グレイテスト・ショーマン」でヒュー・ジャックマンの妻を演じたミシェル・ウィリアムズ (実生活ではあのヒース・レッジャーの子供を設けている) であったが、残念ながら私は、今回もこの女優にはもうひとつ感情移入できないものがあった。

さて、実際この事件では、誘拐された青年ポールは、5ヶ月を経て何とか解放されるのであるが、いくらでも金があるはずなのに、身代金を出そうとしないゲティの態度に腹を立てた犯人たちが、ポールの耳を切り取って新聞社に送り付けたことがきっかけとなって、ようやく事態が進展したもの。上記の「芸術新潮」誌には、耳を切られたポールの痛々しい写真が載っている。
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そしてこの青年ポールは、事件によるショックなのか、その後ドラッグ中毒によって重度の障害を抱えるようになり、54歳で死去したという。それ以外にもゲティ家には数々の不幸が見舞っており、人間の幸せとは一体なんだろうと考えさせられる。原題の "All the Money in the World" とは、ゲティが手にしたいと思っていた、そして、それを趣味のために使おうとしていたもの、ということだろうか。劇中で、確か "All the Space (?) in the World" だか何かの表現が出て来たが、果たして本当に Space であったか否か記憶が曖昧だ。いつかまたこの作品を見る日が来たら、確認したいと思っている。

そして最後にもうひとつ。この映画は既にどの劇場でも上映終了してしまっているが、私がどうやら見に行けそうだと思った頃には、ほとんどのシネコンでは既に終了しており、唯一、都心の劇場としては TOHO シネマズ日比谷だけが、やはりその映画的良心によるものか、結構頑張って上映してくれていた。だが、同劇場でも 6/21 (木) には上映終了。そこで私は、残された可能性を調べ尽くし、最後に発見した唯一のスロットは、6/22 (金) のレイトショー。場所は、舞浜のシネマイクスピアリという劇場であった。駅前に映画館があるのも知らなかったが、スクリーン数も多く、なかなかよい映画館であった。終映後、23時過ぎにも関わらず、舞浜駅は、ちょうど東京ディズニーリゾート帰りの人々で混雑していて少し驚いたが、なんとかラストチャンスでこの映画を見ることができた幸運を感じることで、混雑もあまり気にならなかった。東京で様々な文化に触れるには、時間のやりくりと根気が必要であることは、言うまでもない。

by yokohama7474 | 2018-06-27 00:41 | 映画 | Comments(0)
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