川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
by Crop Stock
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
> 吉村さん 私もヤン..
by yokohama7474 at 22:38
マーラーの3番を聴けるの..
by 吉村 at 22:24
> eastさん コメ..
by yokohama7474 at 22:54
昨日の深夜(H30=2..
by east at 13:38
> カギコメさん はい..
by yokohama7474 at 23:17
> michelange..
by yokohama7474 at 18:19
yokohama7474..
by michelangelo at 15:02
> usomototsu..
by yokohama7474 at 00:16
こんばんは。少し珍しくや..
by usomototsuta at 00:52
> usomototsu..
by yokohama7474 at 00:20
メモ帳

四方田犬彦著 : ルイス・ブニュエル

e0345320_22264752.jpg
ルイス・ブニュエル (1900 - 1983) の名を知る人は、一般にはどのくらいいるだろうか。私の世代は、ちょうど彼がこの世を去った頃には学生で、円熟期 (?) のフランス語による作品の数々 (製作がセルジュ・シルベルマンであったり、脚本がジャン=クロード・カリエールであったりする) を見る機会があり、それから、それに先立つメキシコ時代の作品の上映会などもあって、いわゆるシュールレアリスムの映画における代表例という、紋切り型の分類に留まらないこの映画作家の多様な面を知ることができた。この本はそのブニュエルについての、大変に大部な書物である。実は私は、2年かそれ以上前だろうか、あるとき突然無性にブニュエルの作品を見たくなり、そして、作品を見るだけではなく、彼の評伝を読みたいという衝動に駆られた。そして購入したのがこの本である。ブニュエルの作品一覧という資料的な部分を除き、つまりは本文と後記だけで、実に約 650ページ。結局私はその後、何本かのブニュエル作品の DVD を購入しただけで見ることができず、そしてこの本もしばらく置きっぱなしになっていた。だが、意を決してページをめくり始めてから何ヶ月を要しただろう。この度ようやく読み終えたので、めでたくここで記事にすることができるのである。だが、この本を読み通すのは正直つらかった。それは、これがブニュエルの人生のエピソードを集めたような評伝ではなく (もちろん、一部評伝風の箇所はあるものの)、そのメインは、極めて詳細な作品論であるからだ。その中には、私が昔見たことのある作品もあれば、全く知識のない作品もあり、後者に関しては、もし私が残りの人生でいつか見ることがあるとしたら、ネタバレされるようでいやだな、と思ったものだが、その点は大丈夫。もう読んだ内容の詳細はすっかり忘れてしまったからだ (笑)。だが、これを読み通したことで、この監督の指向するイメージやその暗喩するものについての理解は確実に深まった。

ともあれ、一般の人がこのブニュエルの作品について何かイメージがあるとすると、この映画ではないだろうか。
e0345320_22463050.jpg
そう、この映画は「アンダルシアの犬」。よく知られている通り、この後カミソリは無惨にも、また理不尽にも、この女性の眼球を切り裂くのであるが、それ以外にも奇想天外な悪夢のような映像がこれでもかと現れるこの映画は、1927年制作の無声映画で、ブニュエルのスキャンダラスなデビュー作であった。そしてこの映画の共同監督として、強烈なヴィジュアルを作り出した張本人は、あのサルヴァドール・ダリだ (ちなみに彼のファーストネーム Salvador のうち "va" の部分は、英語読みでは 「ヴァ」になるが、スペイン語読みでは「バ」に近い発音のようだ。だが私はやはり va をヴァと表記したい・・・ヴェラスケスも同様)。これもよく知られた通り、このブニュエルとダリは若い頃の親友であり、彼らのいたマドリッドの寄宿学校では、もうひとりの天才がいた。情熱的な詩人であり、スペイン内戦中に銃殺されたフェデリコ・ガルシア・ロルカである。この 3人の交流については、私も随分以前に、アウグスティン・サンチェス・ビダルという人の「ブニュエル、ロルカ、ダリ - 果てしなき謎」という、滅法面白い本を読んだことがあるので、このいずれかの芸術家に興味のある人には、絶対にお薦めだ。
e0345320_23094847.jpg
ともあれ、もとの本に戻ると、いやはや、これは本当に大変な労作なのである。四方田犬彦は、私が若い頃から活躍している評論家で、映画がメインという印象があるが、本人はどうやら、比較文学が専門と自称しているようである。確かに彼の著書は映画評論だけでなく多岐に亘り、その驚くべき博識ぶりを、私は以前から深く尊敬している。
e0345320_23375118.jpg
1953年生まれの 65歳で、未だ年齢的には充分若いが、最近大病を患ったようなこともあったらしく、また、この本の後記には、この本の執筆を強く促した編集者の志半ばでの死にも触れられている。なるほどそのように思って読んでみると、この大部な書物が世に問われるにあたって必要とされた、激しい執念を感じることができる。ブニュエル作品の細部の描写が延々と続いていても、それを逐一理解する必要はない。ただそこに流れる筆者の情熱から、それを可能ならしめたブニュエルという特異な才能の巨大さを感じればよい。そのように思うのである。作品の詳細に即した分析は本作のほぼ 2/3。それは「前衛の顕現」「聖性と流謫 (るたく)」「悪夢と覚醒」の 3つの部分に分かれている。ページ数にして 458ページまでである。残りの 1/3 は、むしろ気楽に読めるエピソードを多く含むもの。その中には、スペインの田舎町、カランダに残るブニュエルの生家を筆者が訪れる様子なども活写されていて、興味深い。それにしてもこのブニュエルという人は、なんともブラックな感覚の持ち主の皮肉屋で、その感性には、とても万人が賛同できることはできないような、危険であり冒涜的な面がある。それは、この人の代表作のひとつでも見れば明らかなのであるが、不思議なことに、その作品の持つ毒が、偽善に満ちたこの世の毒を中和してくれるようにも思われるのである。これが老年のブニュエル。どう見ても品の良い巨匠監督ではない。私もこんな不良ジジイになりたいものである (笑)。
e0345320_23355480.png
この本を読んで私のブニュエルへの理解は、もともとのイメージのまま、より深くなったし、そして何より、本を読んでいるだけでは満足できずに、手持ちの DVD に少し買い足して、このユニークなシュールレアリストの作品を見たいと思うようになった。以前紀伊国屋書店から出ていたブニュエルの中期作品集の DVD は全部で 6セットあり、既に新品では手に入らないが、中古なら、ものによってはなんとかなる。そんなわけで早速何セットか購入した。だが、もしこの記事によってブニュエルをちょっと見てみようかなと思う人は、やはり後年のフランス語作品がお薦めで、私としては、「ブルジョワジーの密かな愉しみ」とか「自由の幻想」が好きである。もしそれ以前の作品なら、貴族たちが集い、理由もなしに館から出られなくなってしまうという、ストーリーがあるようなないような、いや、明確にないか (笑)、「皆殺しの天使」が滅法面白い。
e0345320_23510612.jpg
私の若い頃に比べて今は、過去の優れた映画を体験することは、比較にならないくらい容易になっている。だが、容易に手に入るものは、かえって有難味がないとも言える。ルイス・ブニュエルという破天荒な大芸術家の神髄に触れるには、まずは作品を見てみて、そしてできれば、このような大部な関連書籍を読んでみることだ。きっと、読む前と読んだ後では、何かが違って見えることだろう。何ヶ月もかけてこの本をようやく読み終えた私は、今度は彼の映像によって、ブニュエルの毒にすぐに感染する状態にあり、それが私の人生を非常に豊かなものにしてくれると、信じているのである。

by yokohama7474 | 2018-07-10 00:07 | 書物 | Comments(0)
<< 旧軽井沢散策 エリック・ハイドシェック (ピ... >>


最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧