川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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メモ帳

旧軽井沢散策

先だって 3連発でお届けした出雲・松江旅行は今年の GW の前半の旅行であった。今回採り上げたいのは、その後半の日帰り旅行の行き先であった軽井沢である。いや、正確にはこれは旅行などという大それたものではない。5月 3日、既にこのブログでは記事として採り上げた、チョン・ミョンフン指揮東京フィルの演奏会を軽井沢まで聴きに行った際、開演前の時間を利用して、軽井沢駅周辺、いわゆる旧軽井沢地区のなじみの観光地を、貸自転車で巡ったというだけである。その記事にも書いた通り、今や東京と軽井沢とは、新幹線でほんの 1時間程度で着いてしまう手軽な場所。だが、さすが避暑地の王様 (?)、訪れるたびに澄んだ空気に癒される場所なのである。そんな軽井沢で、新幹線を降りてからほんの数時間の間に自転車に乗って回れる、旧軽井沢の歴史散策が今回のテーマ。ちなみに今回は、珍しく (?) 古墳も仏像も登場しないので、そのあたりに興味のない方にも気楽に読んで頂けるかと思う。観光地においては遠いところから先に見て回るべし、という観光の鉄則に従い、木立を抜けて颯爽と自転車を飛ばして (息を切らしながら 笑)、最初に辿り着いたのは、重要文化財、旧三笠ホテルである。
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この三笠ホテルの開業は実に 1906年。日本の洋風ホテルとしては、それ以前にも帝国ホテルや、築地や横浜にできたものがあったが、それにしても古いし、また、営業されていた土地にその (すべての建物ではなく主要部分だけとはいえ、また、数十メートルの移築はされているとはいえ) 建物が残る例は、なかなかほかにはないのではないだろうか。それだけこの軽井沢が、避暑地として古くから外国人や富裕層、あるいは文化人に人気であったということであろう。このホテルを経営していたのは、実業家の山本直良。この名前で明らかな通り、あの指揮者で作曲家の (最も有名な作品は「男はつらいよ」のテーマであろうか) 山本直純の祖父である。設計は、辰野金吾門下の建築家、岡田時太郎という人で、日本人の手になる史上初の純西洋風建築である (なお、調べてみて知ったことには、岡田の現存作品のもうひとつが重要文化財に指定されていて、それは牛久シャトーという茨城のワイン醸造所)。1970年まで営業しており、多くの文人墨客を迎えたという。これがメインロビーの様子。ソファーや絨毯は、往時のものを復元している。フロントは昔懐かしい、鍵を部屋ごとに置くようになっているスタイルだ。お、よく見ると、フロントには、私がこの日に聴いた、チョン・ミョンフン指揮東京フィルのコンサートの宣伝が見える。
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これはカーテンボックス。おめでたい松と鶴に、三つの笠で三笠を表すとともに、M (Mikasa) と H (Hotel) の隠し文字が。設計は、有島武郎の弟の画家、有島生馬である。
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これは創業時からのシャンデリアであるそうだ。110年以上の間に、多くのセレブたちがくつろぐ様子を見つめ、ホテル廃業後は、観光客の好奇の視線にさらされてきた。そこに展示されている大正初期の晩餐会 (近衛文麿、里見敦、有島武郎、山本直良ら出席) の写真を見ると、お、本当に同じシャンデリアが下がっている。
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このホテルは 2階も公開されていて、大変に興味深いが、19号室では、あたかも往年のその部屋に滞在したかのように、ソファに座ってくつろぐことができる。ノスタルジックな気分に浸ることができる場所である。
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さて、旧三笠ホテルを出て、もとの道 (その名も三笠通り) を戻ると、右側に何やら看板がある。普段軽井沢では、レンタカーをすることが多く、その場合にはこのような場所は素通りしてしまうであろうが、今回はレンタサイクルであり、簡単に寄り道できるのが大いなるメリットである。というわけで立ち寄ったこれは、旧スイス公使館。深山壮 (みやまそう) と名付けられており、1942年に建てられて、戦時中は外国人の疎開別荘として利用されたとのこと。内部は公開されていないが、ここ軽井沢における戦時中の雰囲気を想像してみると、悲惨な戦争から離れた厳粛な平和を感じることができる。
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旧軽井沢の中心部に向かう途中に立ち寄った先は、聖パウロカトリック教会。1935年に建てられており、設計は、フランク・ロイド・ライトの弟子である、アントニン・レイモンド。日本にも沢山の建築を残している。梁の断面に年号が入っているのが興味深いし、内部のトラス構造を見ても、木の交差にモダニズムを感じることができる。
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この軽井沢の地に、松尾芭蕉の句碑があるのは意外と知られていないかもしれない。旧軽銀座の突き当り、つるや旅館のもう少し先、矢ヶ崎川にかかる二手橋 (にてばし、昔軽井沢が中山道も宿場町であった時代に、旅人たちが二手に分かれて旅路を続ける、別れの場所であったことによる命名) の近くにある。これは、天保 14 (1843) 年、芭蕉の 150回忌に当地の俳人によって建てられたもの。芭蕉が中山道を通ったことがあるのか否か、私には確たる知識はないが、この句は「野ざらし紀行」(江戸から故郷である伊賀上野への旅紀行) にある「馬をさへ ながむる 雪の あしたかな」。雪の朝、道行く旅人たちを眺めていると、馬でさえ面白い恰好で通って行く、という意味。街道の旅の途上、雪に降られて、慌てたり慎重になったりする旅人たちの様子を描いているのだろう。
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そしてこの芭蕉句碑の正面にあるのが、このような看板の場所。
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これは、カナダ生まれの英国国教会宣教師、アレキサンダー・クロフト・ショーという人が、1886年に家族とともに暮らし始めた場所。軽井沢は、明治に入ると以前の宿場町としての活気を失っていたが、このショーの布教活動が、その後の避暑地としての軽井沢の出発点となった。現在の建物は 1895年のものであるが、それでも軽井沢最古の教会である。質素な佇まいが好ましい。
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この教会に向かって右手の奥に、ショー一家が住んだ別荘が復元され、ショーハウス記念館として公開されている。私は常々、東西の文化の出会いには大変興味があるのだが、この日本でキリスト教の布教活動を行うことを決意した西洋人の思いを想像することのできるこのような場所からは、多くの刺激を受けることができるのである。
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軽井沢にはこのような昔ながらの小道がそこここに残っている。「お気持ちの道」から「犀星の径」へ。
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この先に、あの文学者室生犀星 (1889 - 1962) の旧居がある。犀星の作品はもう久しく読んでいないが、その抒情は侮りがたいものがあって、時々読みたくなる。ここに残るのは 1931年以降彼が毎年夏を過ごした別荘である。犀星に関しては、生地である金沢や、私の現在暮らしている東京都大田区にある馬込文士村でもゆかりの土地を訪れたことがあるが、この軽井沢の別荘は、実際に彼が暮らしていた場所が現存しているわけで、一層感慨深い。但し、現在はちょうど改修中であり、内部に入ることは今回はできなかった。
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その代わりと言ってはなんだが、この犀星旧居の向かい側に、このようなバンガローを発見。一般のガイドブックに載るほどメジャーな場所ではないが、1927年に建てられたもので、登録有形文化財に登録されている。松方正義の孫が所有していた別荘であるらしい。この青いプレートは、軽井沢町の認定する歴史的建造物、Karuizawa Heritage であることを証するもの。今はカフェになっている。
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そして次は、旧軽銀座のど真ん中にある教会へ。日本基督教団軽井沢教会である。ここも 1929年に建てられた古い教会で、設計があのウィリアム・メレル・ヴォーリズ (メンソレータムで有名な近江兄弟社の創立者の米国人であり、日本に教会・学校・個人宅などを多く残した) であると聞き、楽しみにしていたが、この日は残念ながら内部に入ることはできなかった。
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あ、そうそう、ヴォーリズの残した建築について網羅的な本を読みたいなぁと思っていたら、8/24 にこのような本が刊行されると聞いて、早速予約しましたよ。面白そうだ。
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さて、旧軽井沢地区には、私のお気に入りの美術館、脇田美術館 (洋画家、脇田和の作品を集めたこじんまりした美術館) があるのであるが、今回私が訪れた 5月には未だ開館していなかった。その代わりというわけではないが、最近オープンした美術館を初めて訪れることとした。その名は軽井沢ニューアートミュージアム。
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ここは未だ新しい美術館なので、これからコレクションを作って行くようだが、いわゆる評価の定まったアーティストの作品を展示するというよりも、展示即売も含めて、若いアーティストの作品を紹介して行く場にもなって行くようだ。私が訪れたときにもいくつかの展覧会が並行して開かれており、丸尾結子という彫刻家の作品が並んでいるコーナーを興味深く拝見した。白くうねる形態は、生々しいとともにどこか都会的。触感がよさそうだが、お値段を見ると、もし触って壊してしまったら大変なことになると実感 (笑)。
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さて、コンサートが始まるまでもうひと踏ん張り。私にはもうひとつ、訪れたい場所があった。それは、軽井沢駅から中軽井沢の方へ、国道 18号線を数 km 行った場所にある、軽井沢現代美術館である。私の経験では、もしレンタカーでこの場所に向かうと、軽井沢駅方面に戻ってくる道路が渋滞して、コンサートに間に合わない可能性がある。そんなこともあって、今回はレンタサイクルにしたのである。あの美術館に向かう坂道はとても登り切らないが、それでも、久しぶりに行ってみたいと思い、自転車で爆走。件の坂道に辿り着いて、エッチラオッチラ登り始めると、左手にも何か施設があるのが見えた。ちょっと面白そうであったので、自転車を停めて、そちらの方に向かってみた。見えてきたのはこんな建物。
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ここには、軽井沢の歴史を知ることができる展示があるが、正直なところ、あまり観光客が熱狂するようなものはないと思う。それよりも、表示に従ってさらに足を進めて発見したこの建物が、実に興味深い。木造だがモダン建築の雰囲気満点である。
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これは 1926年、のちの総理大臣、近衛文麿が購入した別荘。その後、近衛と親交のあった市村今朝蔵という政治学者に転売されたため、現在では市村記念館とも呼ばれている。内部はこんな感じで、さすがに洗練されている。蓄音機があるが、これまどは、もしかすると、文麿の弟で、偉大な指揮者であった近衛秀麿も聴いたのではないかと、勝手に想像が膨らんでしまう。
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実はこの旧近衛文麿別荘のあるあたりは、離山公園という国立公園の一部。私は裏から入ってきてしまったが、国道 18号線沿いにちゃんと門がある。また、明治時代に丸井沢を開発した実業家、雨宮敬二郎の旧宅、その名も雨宮御殿もある。私が訪れたときには、建物は閉ざされていたが、一般公開している時期もあるのだろうか。
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さて、それから最後の目的地である軽井沢現代美術館へ。日本の現代アートが展示の中心で、なかなかに心地よい場所である。まあ、人が少ないということもありますけどね (笑)。そして、草間彌生とルイ・ヴィトンのコラボも!!
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帰りがけにショップを除いたら、一目で気に入った作品があった。作者は、これは誰が見ても奈良美智であるが、この勉強中のワンちゃんは、なんともユーモラスではないか。すぐ購入したのだが、これはドイツで印刷されたポスターで、額に入っていてそのまま飾ることができ、お値段もお手頃だ。奈良ファンにはお薦めである。我が家では既に壁にかけられ、犬の勉強は継続中なのである。
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このように旧軽井沢には、ほんの数時間で回ることのできる文化的な場所がいくつもある。その澄んだ空気感は、いかに旧軽銀座が混み合っていても、濁ることはないのである。

by yokohama7474 | 2018-07-14 11:38 | 美術・旅行 | Comments(0)
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