川沿いのラプソディ


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メモ帳

マルク・ミンコフスキ指揮 東京都交響楽団 2018年 8月 5日 ミューザ川崎シンフォニーホール

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相も変らぬ酷暑の連続で、心も体もバテ気味の状態であるが、そんな中、チャイコフスキーの名作バレエ「くるみ割り人形」の全曲を演奏会で採り上げるという企画があった。言うまでもなくこのバレエはクリスマスを舞台にしているので、クリスマスシーズンに上演されることが多い。その意味では、この酷暑の中で涼やかな音楽が聴ける機会という期待があった。むむ? つい 4日前にも、なにやら涼やかな曲目を聴かせてくれた指揮者がいたが、そちらはドビュッシーの大作オペラ「ペレアスとメリザンド」であった。その曲とこの曲は、持ち味はかなり異なる。だが、この真夏にそのような大胆な試みをする指揮者がそう何人もいるものだろうか・・・。いや、実はその 8/1 (水) の「ペレアスとメリザンド」を指揮した人と、この「くるみ割り人形」を指揮した人は、同一人物。そう、フランス生まれの 55歳、天才指揮者マルク・ミンコフスキである。
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このミンコフスキと、今回のオーケストラ、東京都交響楽団 (通称「都響」) のコンビは、これが 4回目の共演。実は私はこれまでの 3回はすべて聴いていて、最初の共演は未だこのブログを開始していない 2014年 8月 (ちょうど 4年前である) であったが、それ以外の 2回はこのブログでも採り上げ、絶賛した。毎回毎回、驚きの連続のこのミンコフスキと都響の今回の共演は、まさにあっと驚く「くるみ割り人形」全曲。都響のスケジュールを調べてみても、今回たった一回きりの演奏である。これは極めて貴重なこと。しかもそれがサントリーホールではなく、ミューザ川崎で開かれるというのも大変興味深い。このホールでは毎年夏にフェスタサマーミューザという音楽祭が開かれていて、なかなかほかにはない企画が含まれているので、本当に聴き逃せない。因みに昨年も都響はこの音楽祭で、ヤクブ・フルシャの指揮でスメタナの「わが祖国」を演奏している。私は所用でそのコンサートは聴けなかったが、今年のこのコンサートを聴けることは、大きな喜びなのである。

冒頭に掲げたチラシに記載あることには、この「くるみ割り人形」には有名な組曲があり、それは演奏時間 20分ほどであるが、今回は「魅力的な他の曲も加え、全曲に近い形でお楽しみいただきます」とのこと。そして、指揮者の意向により、休憩なしの 90分の演奏会になると書いてあった。ところが実際に会場に行ってみると、配布されたプログラムはそのままであるが、訂正の貼り紙が貼られ、同じ内容の紙がロビーに置いてある。それによると、演奏曲が増え、第 1幕と第 2幕の間に休憩が入るとのこと (プログラムの印刷に間に合わない、ギリギリのタイミングでの変更であったということだろう)。帰宅して再確認すると、今回追加された 3曲 (いずれも第 2幕の曲で、冒頭の 2曲の「情景」と、「パ・ド・ドゥ」のヴァリアシオン I」) をもって、このバレエの全曲となる。そうすると、そもそも「全曲に近い形」とは、たったの 3曲だけを除いたものであったということで、逆に、そこまで演奏するならなぜにその 3曲だけ除くつもりであったのか、少し不思議になる。よほど通しで演奏したかったということだろうか。

ともあれ今回の演奏、またまたミンコフスキと都響の共演の新たな 1ページとして、強く記憶に残るようなものであったと思う。ミンコフスキの指揮には常に明快なエネルギーが充満していて、どんな曲を指揮しても、音が縦横無尽に広がって行くようなスケールがある。そもそもこの「くるみ割り人形」という曲は、上記の解説の通り、有名な組曲に入っているもの以外にも楽しい曲が目白押しで、チャイコフスキーの全作品の中でも、そして歴史上のバレエ音楽の中でも、ベストを争うほどの素晴らしい作品であると私は思っている。しかも、組曲にあるような可愛らしい曲だけでなく、よりユーモラスな曲もあれば、叙情的な曲やメランコリックな曲もあり、中には壮大に盛り上がる曲もある。つまりミンコフスキとしては、組曲だけでは表現しきれないこの曲の多様な持ち味を、全曲演奏によって明らかにしようという意図があったものだろう。曲の間を空けることなく、速めのテンポで次から次へと音楽的情景の移り変わりを紡ぎ出す手腕は、見事としか言いようがない。そしてその身振りは実にリズム感よく、また曲の雰囲気を体全体で表現したものであり、見ていて飽きることがない。例えば第 1幕大詰めの情景 (「松林の踊り」) のようにシンフォニックに盛り上がる箇所では、坂道をしっかり登って行くような充実した音で、感傷よりもむしろ、音が目の前に広がるような雰囲気を出していたし、有名な「花のワルツ」は、通常の演奏にあるような、ゆったりとしたテンポで夢見るように響くのではなく、力強い推進力に満ちたワルツであった。そしてその「花のワルツ」の次に演奏される「パ・ド・ドゥ」の最初の曲「イントラーダ」なども、なんともチャイコフスキーらしい情緒と迫力のある曲だが、例えばこの曲をしばしばアンコールで採り上げるマリス・ヤンソンスのようなドラマティックでウェットな表現とは、ミンコフスキの表現は明らかに異なっている。つまり、この 1曲で感情が極まってしまうのではなく、迫力には不足しなくても、飽くまでも全体のバレエの流れの中に入っている、そんな印象である。表現が冷たいというのではなく、前後の流れの中で、常にどの曲も主役になれるような、そんなことに意を砕いた表現と言えるのではないか。そうすると私が彼の「ペレアス」についての記事で書いた「15のタブロー」という表現と、今回の「くるみ割り人形」での表現には、共通点があるということだと思う。いかなる曲を採り上げても彼の個性を刻印し、そして聴衆に感銘を与える稀有な指揮者、それがミンコフスキなのである。くるみ割り人形も脱帽だ。
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そして、私としてどうしても触れておきたいのは、今回も十全に発揮された都響の高い演奏能力である。上で触れた「花のワルツ」の複雑な表情といい、「イントラーダ」のチェロの深い表現力といい、そしてもちろん、全編の随所に聴かれた弦と管の絶妙の絡み、そしてティンパニをはじめとする打楽器の思い切り、いずれも素晴らしく、ミンコフスキの求める音を充分に出していたものと思う。実はこのミンコフスキ、2016年に手兵であるレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルを率いてこの曲によるヨーロッパツアーを行った実績もあるという。先の「ペレアス」は彼のボルドーでの活躍ぶりを垣間見せるものであったが、このように世界一流の指揮者がヨーロッパで行っている活動の再創造が、日本のオケによって成し遂げられているということが本当に素晴らしい。終演後のミンコフスキの表情からも、都響の演奏に充分満足していることがはっきりと感じられた。それから、この作品の第 1幕には、歌詞のない少年合唱が加わるが、今回歌ったのは TOKYO FM 少年合唱団。暗譜で素晴らしく歌いこなしていたが、やはり子供たちのことであるから、出番までじっと待っているのが苦痛に見受けられる子もいた。もしかするとミンコフスキが今回の演奏を全曲として途中に休憩を入れたのは、幕間に少年合唱を退場させられることが理由だったのかもしれない。もしそうだとすると、彼はある意味での職人的なリアリストと言えるかもしれない。若い頃はこんな感じだったミンコフスキも、今や海千山千の大指揮者である。
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今シーズン (2018年 4月から 2019年 3月) の都響の残りのプログラムには彼の名は見当たらないが、また来シーズン、是非帰ってきて欲しいし、そのプログラムも大いに気になるのである。

by yokohama7474 | 2018-08-05 22:57 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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