人気ブログランキング | 話題のタグを見る

サカリ・オラモ指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィル 2018年 9月 3日 サントリーホール

サカリ・オラモ指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィル 2018年 9月 3日 サントリーホール_e0345320_22592260.jpg
9月に入り、いよいよ秋の音楽シーズンの幕開きである。今年もこれから、容赦ないほど沢山のコンサートが東京で開かれる。せいぜい体調に留意しながら、よい音楽を体験し、またレポートして行きたいと思う。そこで、まずはこのスウェーデンの名門、ストックホルム・フィルの演奏会である。実はこれは、日本とスウェーデンの国交樹立 150周年を記念するもの。ということは、まさに日本が明治に入ったその年に、両国は国交を樹立したことになる。これは大変に長い関係だ。私はストックホルムには何度か出掛けたことがあり、ノーベル賞授賞式を行う市庁舎も見学したし、17世紀に沈んだ船をそのまま引き上げたという驚くべきヴァーサ博物館については、現地レポートをこのブログの 2016年 7月16日付の記事に書いたものである。その記事に私は、「次は是非オーケストラを聴いてみたい」と書いていた。それはもちろん、現地で聴いてみたいという意味であったのだが、東京とはなんと便利な街だろう。2年も待てば、向こうからやって来てくれるのである (笑)。今回は東京で 3回のコンサートが開かれる。上に掲げたチラシは、「ノーベル賞のオーケストラがやって来る!」とのコピーのもと、2回の演奏会の宣伝が記載されているが、確かにこのオケがノーベル賞授賞式で演奏するのが恒例とはいえ、うーん、それで興味を持つ人がどのくらいいるだろうか。それよりも、この北欧でベストを争う歴史と実力を、高らかに謳うべきではないだろうか。なお、3回のうち 2回分のコンサートしか宣伝がないのは、最初の 9/2 (日) のコンサートだけは既に売り切れであったからだろう。というのも、その日は人気のピアニスト、辻井伸行がベートーヴェンの「皇帝」を弾いたからで、残りの 2回は最後まで宣伝が続いたわけである。現地に行ってみると、確かに満席ではないが、7割ほどは埋まっているような状況であった。

このオケの現在の首席指揮者は、1965年フィンランド生まれのサカリ・オラモ。決して派手な存在ではないが、私は彼の堅実な手腕は素晴らしいと思っており、さらに言うなら、ただ堅実なだけではなく、音楽の醍醐味を聴かせてくれる名匠であると思っているのである。かつてサイモン・ラトルの後を継いでバーミンガム市響の音楽監督を務めたほか、フィンランド放送響の首席も務めた。現在では BBC 響も率いていて、このコンビは先般も来日公演でマーラー 5番などを演奏したが、私はそのコンサートに行くことができなかったので、今回こそはと思い、期日間近になってチケットを購入したものである。
サカリ・オラモ指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィル 2018年 9月 3日 サントリーホール_e0345320_00402537.jpg
久しぶりに指揮台で見ると、かなり恰幅よくなっていたオラモであるが、今回の曲目は、以下のような真っ向勝負である。
 ベートーヴェン : 交響曲第 5番ハ短調作品67
 マーラー : 交響曲第 1番ニ長調「巨人」

このブログでもいろいろなベートーヴェン演奏を採り上げてきており、その編成やテンポや提示部の繰り返し、あるいはヴィブラートのかけ方など、昨今のベートーヴェン演奏においては、ただ昔のように激しく情熱的な音楽という意外の要素も聴きどころになる。その意味で、この日の 5番の演奏には、ある驚きがあった。まず弦楽器の編成が大きい。私はよくコントラバスの本数でそれを表すが、その私とても、別にコントラバスを数えにコンサートに行っているわけではないので (笑)、時にはその楽器が全く見えない席に座ることがある。今回がそうであったが、試みにチェロを数えてみると、なんと 11人!! ヴィオラはと思うと、12人。その先は数えていないが、多分第 2ヴァイオリン 14、第 1ヴァイオリン 16だろう。ということは、いわゆる 16型といって近代オケの編成 (コントラバスは 8本) となり、昨今のベートーヴェンでは珍しい大編成で、しかもそれなら通常チェロ 10本のところ、1本多くしていたというわけである。ユニークなのは管楽器で、ベートーヴェンの時代には木管は各 2本が標準であるところ、弦を 16型にするなら、木管は倍増させるのが通常。だがしかし、今回の演奏は、オリジナル通りの管楽器のサイズであったのである。これは奇異に映ったが、鳴り出した音を聴くと、納得した。このオケの弦は、透明感があって重みは少ない。その一方で管は、鋭さこそないものの、大変に呼吸のよいアンサンブルで、そのコンビネーションなら、このような変則編成でも、アンバランスさを感じることはほとんどなかったのである。オラモは暗譜で、しかも指揮棒も使わずに、もたれることのない流れのよい演奏を披露したが、そこにはドラマ性も充分であり、大変な充実感であった。今回もこの写真と同じく、赤と白の 2色ハンカチを胸に差して指揮をしたオラモ。
サカリ・オラモ指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィル 2018年 9月 3日 サントリーホール_e0345320_01102211.jpg
後半のマーラー「巨人」も、この指揮者らしく、奇をてらうことのない誠実な演奏。ここでは譜面を開いて、第 3楽章以外は指揮棒を持っての指揮であったが、面白いことに、最初の 2楽章は、譜面をめくることもしない。後半 2楽章は譜面をめくるようにはなったが、ほとんど目を落とす気配がない。ここにこの指揮者の柔軟性を見てもよいと思う。つまり、何がなんでも暗譜で振るのだという気負いもなく、じっくり譜面を見ながら振るのでもない。音楽の起伏に合わせて、実に自然な呼吸をオケから引き出していたと思う。やはりこのオケは、バリバリと弾きこなすタイプではなく、練れた音で流れを作って行くタイプであるので、この指揮者との相性は大変よいと思う (オラモの前任のアラン・ギルバートも、実は大変にこのオケと相性がよかったと私は思っている)。もちろん「巨人」であるから、激しい盛り上がりもあれば、シニカルな部分もある。オラモは常に余裕を持ってオケをリードしながらも、時に思い切った表情をつけて (第 3楽章後半におけるクラリネットなど)、音楽的な情景の変化をよく表現していた。このコンビでよいところは、いかに盛り上がっても下品にはならないところだろう。それゆえ、大詰めでホルンが起立し、そのままエンディングまで立ちっぱなしという方法も、嫌味なく決まっていた。客席の拍手は、熱狂的というよりも温かいもので、聴衆の満足感が感じられた。

アンコールには、「スウェーデンの音楽。ヒューゴ・アルヴェーンです」と英語で説明し、何やら無窮動風の音楽が始まった。弦を中心にひとしきり盛り上がったあと、一旦音楽が止んで、客席から沸き起こった拍手を鎮めてから指揮者はさらに指揮を続け、抒情的な部分となった。そしてまた見事な、しかしギズギズしたところのない弦の目まぐるしい動きに戻って、この小曲は閉じられた。これは、スウェーデンを代表する作曲家で、日本では多分、スウェーデン狂詩曲第 1番「真夏の徹夜祭」という楽しい曲くらいでしか知られていない、ヒューゴ・アルヴェーン (1872 - 1960) の、バレエ音楽「山の王」から「羊飼いの娘の踊り」。私は「真夏の徹夜祭」が昔から大好きで、この作曲家のシンフォニーなども聴いたことがある。今手元に、この作曲家の自作自演集 3枚組があって、ちょっと珍しいので写真を掲載しておこう。
サカリ・オラモ指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィル 2018年 9月 3日 サントリーホール_e0345320_01265985.jpg
ついでもう 1枚。私は行かないが、このオケの次の演奏会、9/4 (火) の曲目は、ノーベル賞授賞式や晩餐会で演奏される既存曲をまとめたものを前座とし、メインはベートーヴェンの 9番である。このストックホルム・フィルの第九というと、私にとって忘れられないのは、1989年にこのオケの設立 75周年を祝って BIS レーベルから発売されたアンソロジーに、第九の終楽章を、様々な指揮者によるライヴ録音でつないだものが入っている。ざっと指揮者陣を書くと、ベルグルンド、ドラティ (2種)、S-イッセルシュテット、クレツキ、フリッチャイ、E・クライバー、アーベントロート、そしてフルトヴェングラーである。なんと豪華な。このセット物、今では入手はそれほど容易ではないかもしれないが、オークションで出て来るようなこともあろうから、ご興味おありの方は是非。
サカリ・オラモ指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィル 2018年 9月 3日 サントリーホール_e0345320_01360275.jpg
歴史あるオケと実力ある指揮者の組み合わせを堪能できたコンサートであった。

by yokohama7474 | 2018-09-04 01:36 | 音楽 (Live)