川沿いのラプソディ


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メモ帳

上岡敏之指揮 新日本フィル 2018年 9月15日 すみだトリフォニーホール

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欧米ではオーケストラのシーズンは、夏休み明けの 9月から始めるのが通例であるが、日本の場合には少し事情が複雑だ。もともと春を年の初めと認識する傾向のある日本では、学校も、また多くの会社も、4月が年度のはじめであることが多い。実はオーケストラの場合、欧米風に 9月が新シーズンの始めであるところと、4月が始めであるところが混在している。と言いながら私も、例えば在京メジャー 7オケのシーズンがどうなっているのかについて、あまり頭が整理できているわけではない。そこで今回調べてみたのであるが、9月をシーズン始めとするのは 3楽団で、それは NHK 交響楽団、日本フィル、新日本フィル。それ以外の、つまりは東京都交響楽団、東京交響楽団、東京フィル、読売日本交響楽団は、4月がシーズン始めである。そんなわけで今回、新日本フィルハーモニー交響楽団 (通称「新日本フィル」) のシーズン最初の定期の指揮台に立つのはもちろんこの人、音楽監督の上岡敏之である。
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このオケの音楽監督としてまる 2年が過ぎ、3年目に入った上岡。このブログでは過去にも期待を込めてこのコンビの演奏を多く採り上げて来た。私はもともとこの人は素晴らしい指揮者であると思っていたので、新日本フィルとのコンビにも期待が大きかったのであるが、正直なところ、これまで聴いたすべての演奏が最高であったとは思わない。だが、つい 2ヶ月弱前のチャイコフスキー 5番や、今回の R・シュトラウスなどを聴いて、これはかなり指揮者とオケの間の呼吸がよくなってきたのでは、と感じる。もちろん、曲との相性ということもあるかもしれないが、上岡と新日本フィルが演奏する今回の曲目は、その相性という意味でもともと期待感が大であり、そして、実際に聴いてみて期待通りの大変な充実感を覚えるものであった。以下のようなオール・リヒャルト・シュトラウス・プロである。
 交響詩「ドン・ファン」作品20
 オーボエ協奏曲ニ長調 (オーボエ : 古部賢一)
 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28
 交響詩「死と変容」作品24

リヒャルト・シュトラウスは、数々の華麗な管弦楽曲やオペラで知られる人だが、ごくおおざっぱに言って、その作曲家生活の前半は管弦楽曲、後半はオペラを主として書いた人。今回演奏された 3曲を含め、今日でも演奏頻度が極めて高い交響詩の数々は、作曲者 24歳から 34歳までの 10年間に書かれている。その題材の多様性と音響の豪奢さから、その若さで書いた作品群とは到底思われないほどだ。特にコンサート冒頭を飾るにふさわしい曲である「ドン・ファン」は、古今のあらゆる名指揮者で演奏しなかった人はいないくらいの名作だが、実に、シュトラウス 24歳のときの若書きの作品。なんと恐るべきことか。そして今回の上岡と新日本フィルの演奏、この曲の冒頭で、ほとんどの演奏でそうであるような、力を貯めて一気に駆け抜ける方法ではなく、何か最初から広がりを感じさせるような音響で始まり、「おっ、これは」と耳をそばだてさせたのである。そして全編で聴くことのできた素晴らしい呼吸。
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2曲目のオーボエ協奏曲だけは、今回の曲目では唯一、作曲者晩年 (1946年) の作。25分ほどの、切れ目なく演奏される曲であるが、もはやここには過剰な音響はないものの、いかにもシュトラウスらしい優美さが充溢している。そもそもこの作曲家の協奏曲作品は多くなく、若い頃に書いたヴァイオリン協奏曲や、ピアノ・ソロを含んだ「ブルレスケ」という特殊作品を除くと、このオーボエ協奏曲と、2曲のホルン協奏曲しかない。シュトラウスの華麗な音響を彩る楽器は数々あれど、オーボエもホルンも、様々な彼の作品において独自の重要度を誇っていると思う。ホルンの場合は、もともと彼の父親が、ワーグナーの下でも演奏したというホルン奏者であったというゆかりもあるのだろう。一方オーボエの場合には、細いながらも大編成のオケから浮き出るような響きが、シュトラウスの超絶的な作曲技法に合っていたと思われる。このコンチェルトは、戦後の反ナチ裁判の過程でスイスに足止めを食っていたシュトラウスに対して、米国兵のオーボエ奏者 (フィラデルフィア管のメンバーだったという) が委嘱をすることで書かれた佳曲。今回ソロを吹いたのは、このオケの首席オーボエである古部賢一。
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このように、オケの首席が同僚たちをバックに演奏する協奏曲には、独特の親密さがあってよいものだ。今回、冒頭の弦楽器のひそやかな動きを追ってオーボエが演奏し始めたときから、そのような親密な瞬間が立ち現れた。古部のオーボエは、隅々まで澄み渡るというよりは、人間性を感じさせるもので、曲の持ち味を引き出した好演であったと思う。またアンコールには、シュトラウスの最後のオペラ「カプリッチョ」(1941年作) の冒頭の六重奏が演奏されたが、これもなんとも呼吸の合った見事なもの。因みにこの六重奏とは、オーボエ独奏に加えて、第 2ヴァイオリン 1、ヴィオラとチェロがそれぞれ 2という変則編成であるが、なんともたおやかな曲なのである。「カプリッチョ」はなかなか舞台にかからない曲だが、戦争中に書かれたくせに、オペラにおけるセリフと音楽の関係という浮世離れした題材で、この作曲家の指向をよく伝えている。これが晩年のシュトラウス。
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そして後半の 2曲も、シュトラウス音楽の面白さを堪能させてくれる演奏であった。例えば「ティル」の冒頭のヴァイオリンが奏する音型で、最初の「ティーラ」(音が上がる)と次の「ティーラ」(音が下がる) は、明らかにニュアンスが異なったし、そのあとのホルンのテーマも、1度目は思い入れたっぷりの粘る感じで、2度目はむしろ先を急ぐようなあっさりしたもの。その後もあの手この手で聴衆の耳に迫ってくるシュトラウスの魔術的な作曲手腕に、上岡と新日本フィルは真っ向から立ち向かう場面に立ち会うのは壮観であった。この作曲家の個性として、メインの旋律を奏する楽器以外の、いわば「寄り道」が大事であると思うのだが、今回の演奏では、聴いている耳が立ち上がるかと思うほど、様々な音響が鳴り響いていた。最後の「死と変容」も実に丁寧な演奏。未だ 20代半ばという作曲者の若書きを全く感じさせない、人間と死の対峙というなんとも深い内容の曲を、上岡と新日本フィルのコンビは、音が練り上がって行くような感動とともに、中空に向かって放出したのであった。演奏後の上岡の表情は何か、深い感動に自ら満たされているように見えた。それにしても改めて思うのは、このオケが本拠地であるすみだトリフォニーホールで響かせる音の美しいこと。以前にも何度か述べた通り、東京のオケの中でも、専属のフランチャイズ契約を持っているのは稀なことである。その決断から 30年を経て、この墨田区で鳴り響く音楽には、個性溢れる美がそこここに聴かれるようになっているのである。

さて、演奏後のカーテンコールで、何度か袖に引っ込んだ上岡が、自ら大きな花束を抱えて舞台に戻ってきた。何かと思うと、なんと、トロンボーンの宮下宣子 (のぶこ) が今回で引退するのである。女性トロンボーン奏者は今でも大変珍しいのだが、彼女はもう随分長くこのオケで演奏してきた。随分以前に新聞のインタビューで、ブラームス 1番の終楽章を例に挙げて、西洋音楽においてトロンボーンが登場する瞬間の重要性を説いていた。プログラムによると、1981年入団、実に 37年の長きに亘る演奏歴である。うーん、7月の白尾彰に続く、長く楽団の顔を務めてきた奏者の引退である。上岡も彼女の席まで花束を持って行き、結構な時間、何事かを話しかけていた。宮下さん、長らくお疲れ様でした!!
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このように始まった新日本フィルの新シリーズであるが、去るメンバーもあれば加わるメンバーもあり。オケの活動はこれからも絶え間なく続いて行く。そして上岡は、今シーズンも頻繁に指揮台に立ち、音楽監督としての重責を果たすのである。それぞれの演奏会が大変に楽しみであるが、今回のシュトラウス演奏の水準に鑑みて、いずれこの作曲家のオペラを演奏会形式で採り上げてはいかがか。まずは手始めに (?) 「サロメ」か「エレクトラ」、そして「影のない女」なんて面白そうだと思うなぁ。ドイツでの活躍、歌劇場での経験に鑑みて、上岡がこれらの作品を指揮すると、絶対成功間違いなしと思う。新日本フィルさん、是非ご検討を!!

by yokohama7474 | 2018-09-16 00:54 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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