川沿いのラプソディ


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パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK 交響楽団 2018年 9月15日 NHK ホール

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前回の記事で採り上げた、上岡敏之指揮新日本フィルに続き、NHK 交響楽団 (通称「N 響」) も、今回が新シーズンの開幕である。上に掲げた写真の通り、今シリーズから N 響のプログラム「フィルハーモニー」誌の表紙は、指揮者の顔写真ではなく、楽器のイラスト (?) の一部のアップということになったようだ。この演奏会を指揮するのは、もちろん首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ。その地位に就いてまる 3年が経ち、これが 4シーズン目なのである。
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このブログでも何度も採り上げてきている通り、まぁこのヤルヴィと N 響の活動の多岐に亘ることには、本当に脱帽である。世界でひっぱりだこのヤルヴィが、これだけ頻繁に来日してこのオケと共演を繰り広げてくれていることは、東京の音楽ファンにとっての大きな幸せであることは間違いない。そして今回彼がシーズン最初の定期に採り上げたのは以下のような曲目。
 ヨハン・シュトラウス : 喜歌劇「こうもり」序曲、ワルツ「南国のばら」作品388、ポルカ「クラップフェンの森で」作品336、皇帝円舞曲作品437
 ヨーゼフ・シュトラウス : ワルツ「うわごと」作品212
 マーラー : 交響曲第 4番ト長調 (ソプラノ : アンナ・ルチア・リヒター)

ちょうど同じ日に聴いた前項の上岡 / 新日本フィルの R・シュトラスプログラムが、主として1880-90年代に書かれた曲によって成っていたのに対し、ここでも、J・シュトラウスの作品は 1869年から 1889年にかけての作品であり、またマーラー 4番は 1901年初演と、いずれもほぼ近い時代に書かれたものである点が興味深い。つまりこの 2つの演奏会を続けて聴くことで、大ハプスブルク帝国の首都であったウィーンを中心に花開いた世紀末文化の香りに思いを馳せることができる。ウィンナ・ワルツは、有名なウィーン・フィルのニューイヤーコンサートのイメージから、華やかな印象を一般の人は持っているかもしれないが、その華やかさの裏にはどす黒い退廃がある。結局 20世紀を大戦争の時代に導いた第一次世界大戦は、オーストリアの皇太子が 1914年にサラエヴォで暗殺されたことがきっかけであった。私見では、いわゆる世紀末文化の時代が本当に終わるのはそのあたりであり、人々が感じていた終末感は、戦争という最悪の結末に至ったわけである。R・シュトラウスだけは第二次大戦後まで生き延びたが、マーラーは第一次大戦前に世を去っているし、J・シュトラウスは彼らより一世代上の人なので、19世紀のうちに亡くなっている。だからこのプログラムには、世界が破滅に向かって突き進んでいる時代に、その不安を抱えながらも美しい瞬間を求める感性を聴き取ることができる。

さて、そんな歴史的な位置づけはともかく、音楽に耳を傾けることとしよう。まずメインのマーラーであるが、この 4番は、マーラーの全交響曲の中でも最も平穏なものと言うことは、あながち嘘ではない。だが、そこに聴かれるアイロニーや、緩徐楽章に込められた深い情感は、紛れもないマーラーのもの。やはり世紀末のコンテクストを持つ、大変な名曲なのである。ヤルヴィは N 響に着任以来マーラーを集中的に採り上げていて、既に 1、2、3、6、7、8番を演奏しているので、これで 7曲目のマーラーのシンフォニーということになる。今回の演奏は実に練れたものであり、その集中力といい明確さといい、ヤルヴィと N 響のコンビが築き上げている個性の刻印を、ここにもはっきりと聞き取ることができた。特に、上記の緩徐楽章、つまりは第 3楽章だが、ここでは音楽が揺蕩い、微妙なニュアンスで楽器同士が絡み合って、音の層を何重にも感じることのできる名演であった。もともとヤルヴィの指揮にはもったいぶったところがなく、きっちりと音を前に進めて行くというタイプであるが、それは決して無味乾燥を意味しない。今回のような演奏を聴くと、この曲のテーマである「天上の生活」の清らかさが、爛熟した世紀末文明のひとつの表れであることを、改めて感じることができるのである。そのような印象は、ソリストのソプラノ、アンナ・ルチア・リヒターの歌唱からも感じることができた。
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彼女の名前には記憶があって、それは、2015年にベルナルト・ハイティンクとロンドン交響楽団が来日公演でこのマーラー 4番を演奏したときにも、ソロを歌っていたからだ。ドイツ人で、オペラよりはリサイタルやコンサートでの歌唱の方が多いようだが、声のコントロールが実に巧い。そして今回は終盤の方には情念めいたものも表現していて、上記のような世紀末の文化の爛熟を思わせたのである。試みに、2015年 9月29日の記事で、自分の書いたロンドン響の演奏会について書いたことを読み返してみると、あっ、なんだ、その時も同じことを書いている (笑)。既に確立した歌唱スタイルを持っているということだろう。

前半のヨハン & ヨーゼフ・シュトラウスの 5曲であるが、こちらは予想通り、いわゆるウィーン風の緩くてたおやかな演奏とは異なり、シンフォニックな音楽としての持ち味を引き出したものであると思った。そもそもウィーン・フィルの真似は世界のどのオーケストラもできないわけであり、これらのレパートリーを演奏するにもウィーン・フィルの方法だけが唯一であると思う必要もない。ただ、そこで鳴っている音が呼吸し、喜悦感や美的なものが充分に感じられればそれでよい。端的な例としては、稀代の名ソプラノ、エリーザベト・シュヴァルツコップが無人島に持って行きたいレコードとして、フリッツ・ライナー指揮シカゴ響というウィーンと縁ない (あ、もちろん、ライナーはハプスブルク時代のハンガリーに生まれた人だが、その芸風は全くウィーン風でない) メンバーによるウィンナ・ワルツを選んだという逸話は有名だ。今回の演奏を聴いて、ちょっとその逸話を思い出したものだ。ところで 5曲のうち最後に演奏されたワルツ「うわごと」は、ヨハンの弟であるヨーゼフ・シュトラウスの作品。ワルツ王ヨハンよりも 2歳下だが、1870年に 42歳の若さで亡くなっている。
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この「うわごと」という曲は、1866年にプロイセンとの戦争に敗れたオーストリアにおいて、その翌年の医師たちが主催する舞踏会で、暗い世相を反映した「うわごと」がテーマとされ、ヨーゼフが書き下ろしたものである。私はこの曲を、すべてのウィンナ・ワルツの中でも屈指の名曲であると思っていて、まさに、暗い終末感を陶酔によって忘れようという退廃した感性が感じられるからなのであるが、それは上記のような今回のプログラムの位置づけ (私が勝手に決めているのだが 笑) には最適ではないか。因みに、ヨハンの作品で同様の感性を持っている名曲は、やはり皇帝円舞曲であり (例えば映画「ラスト・エンペラー」でのその曲の使用法に端的に表れているように)、今回のプログラムにこの 2曲が並んでいるのは、さすがヤルヴィ!! と感嘆してしまうのだ。ところでこの「うわごと」、私が初めて知ったのは 1983年のロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルの来日公演 (実演には行けなかったが放送で見た) のアンコールであったが、実はこの曲、カラヤンもお気に入りであった。様々な録音が残されているが、最近発売された 1962年のウィーン・フィルとのパリでのライヴは、ステレオ録音で音質もクリアであり、そのシンフォニックでありながらウィーン・フィルのたおやかな陶酔感も聞き取れる演奏は、一聴に値する。
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この脱線にはそれなりに意味があり、ウィーン・フィルのような特別な歴史を持つオーケストラ以外でも、このようなレパートリーは演奏するに値するし、それにはまた別の価値があると言いたかったのである。カラヤンとウィーン・フィルの過去の演奏にも耳を傾けつつ、ヤルヴィと N 響がこれからも広範なレパートリーで展開して行ってくれるであろう演奏活動に、大いに期待したい。

by yokohama7474 | 2018-09-16 12:01 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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