川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
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ローマ歌劇場来日公演 ヴェルディ : 椿姫 (指揮 : ヤデル・ビニャミーニ / 演出 : ソフィア・コッポラ) 2018年 9月17日 東京文化会館

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前日に続くローマ歌劇場の公演。今回の演目は、イタリアオペラ数ある中でも屈指の人気作、ヴェルディの「椿姫」である。なるほど、女性の権利に敏感な現代の聴衆にとっては、「マノン・レスコー」もそうだが、これも 19世紀の古いお話。だがこの作品にはどうやら朽ちない命があるようで、日本での上演回数も数多い。だがそれにしても、このように豪華な舞台の「椿姫」を東京で見ることができるのは、なんという僥倖であろうか。実際私は、今回のローマ歌劇場の来日公演を、そのチケットの高さとともに冷ややかに見ていたことは否めない。だが、どうやらチケットは完売ではないらしいと知り、正直なところ半ば義務感で見に行ったのである。ところが、前項で採り上げた「マノン・レスコー」は素晴らしい出来。なので今回の「椿姫」にも俄然期待が高まったのである。事前の情報で分かっていたのは、演出がソフィア・コッポラであること。もちろん、ハリウッドのレジェンドであるフランシス・コッポラの娘であり、父と同じく映画監督の道を歩んだ人。このブログでは、彼女の最近の作品である「The Beguiled / ビガイルド 欲望のめざめ」を採り上げたが、もちろんそれ以前にも何本も映画を撮っており、その中には、東京を舞台に展開した「ロスト・イン・トランスレーション」も含まれる。これが、最近の彼女と、父の作品「ゴッドファーザー」の中で洗礼を受ける、生まれたばかりの「男の子」としてのソフィア。
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これはそのソフィア・コッポラ初のオペラ演出であり、現地ローマでは 2016年に初演されて、随分と話題になったものと聞く。その後映画にもなっているこの演出、ほかにも話題があって、ファッション界のレジェンド、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが衣装を担当し、そして美術を担当したのは、あの天才監督クリストファー・ノーランとともに「ダークナイト」「インターステラー」「ダンケルク」などの美術を手掛けたネイサン・クロウリーである。失礼ながら、財政難を経験したローマ歌劇場としては、この豪華メンバーを実現するためのハードルは様々にあったものだと思う。それゆえに、その舞台がそっくりそのまま引っ越し公演を行う東京という街は、実に恐るべしである。これらは私が大傑作と崇める「ダークナイト」のイメージ。もちろんヒース・レッジャーがとてつもなく凄いのであるが、それだけではなく、そこにある世界観には、なんとも言えない不安を感じざるを得ない。世界の終わりはすぐそこかと思われるのである。
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この舞台が開いて早々に見ることができるこの長い階段には、ネイサン・クロウリーの美術の特色がよく出ている。この長い階段をヴィオレッタが降りてくるのであるが、見ているだけでクラクラするような不安を覚えるのである。
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そして衣装のヴァレンティノ。今年 86歳になる彼は、既に 10年前に引退しているのであるが、この舞台のために復帰したという。これは、このプロダクションのためにヴァレンティノが書き下ろしたイラストと、舞台上における華やかな衣装。
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これだけ見れば、何やら視覚的に刺激の多い演出のように思われるかもしれないが、しかしここに見られるのは、のっぴきならない人間の姿なのである。コッポラはこの演出を引き受けた理由として、このオペラが「極上の悲劇的ラブストーリー」であることを挙げているが、なるほど、そのような一種当然のことを語ることができる彼女は、それだけで閉塞的でエキセントリックなオペラ演出の枠外にいることが分かる。実際のところ、この演出では突飛なことは何も起こらない。だがよく見ると、そこにはイタリアオペラの、ある種強引なストーリー展開を、現代の聴衆にも分かりやすいものとして提示しようという意図が見える。例えば、第 1幕の後半でアルフレートがヴィオレッタに愛を告白する場面では、舞台奥、扉の向こうで 1組の男女がずっと踊っているし、第 3幕の舞踏会で、なぜかヴィオレッタとアルフレートが 2人きりになる場面では、舞台奥で花火が上がっている。つまり、主役 2人以外の人たちは、テラスから花火を見るためにその場を退出したのである。これはなかなかに巧い設定だ。そして終幕は、すべてが寒々とした青い色の中、遂にヴィオレッタは息絶えるのである。
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このようにスタイリッシュな演出であるがゆえにまた、歌手たちの出来栄えも試されるのであるが、主要人物を演じる歌手たちの、それは立派なこと。主役を歌ったフランチェスカ・ドットは今回が初来日という若い歌手。特に後半は見事な声のコントロールで、感動的であったが、あえて難を言うとするなら、第 1幕ではもっと明るく軽薄に振る舞ってもよかったのではないか。まぁ、この「椿姫」はそのあたりが非常に難しいオペラなのであるが。尚、第 1幕の最後では音を上げていて、それは見事なものではあったが、原点主義のリッカルド・ムーティは絶対に認めなかった歌唱である (笑)。
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そして、アルフレート役のアントニオ・ポーリは、そのリリコな歌声が素晴らしい。彼も最初はちょっと硬いかなと思ったが、幕を追うごとにその美声が響くようになったと思う。
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それから、ジョルジュ・ジェルモン役であるが、当初発表されたレオ・ヌッチに代わって登場したのは、アンブロージョ・マエストリ。現代最高のファルスタッフ歌いであり、2013年のミラノ・スカラ座来日公演では、ダニエル・ハーディングのもと、その当たり役を披露した。今回、ここでもまさに圧倒的な歌唱であった。
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そしてまた、特筆すべきはオーケストラの雄弁さである。指揮を受け持ったのは、ヤデル・ビニャミーニ。もともとリッカルド・シャイー (現在ミラノ・スカラ座音楽監督) に見出され、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団のクラリネット奏者となり、その経験に基づいて指揮者に転身した人。イタリアオペラの数々を指揮して活躍の場を広げているようで、東京でも、新国立劇場で「アンドレア・シェニエ」を指揮したり、アンナ・ネトレプコの伴奏を務めているらしい。その経歴を見て、きっと素晴らしい「歌」を持った指揮者であろうと予想していたが、今回の演奏では、前奏曲の繊細な音の鳴り方から、劇的なシーンの迫力まで、それはそれは、細部まで気配りの効いた指揮であった。面白かったのは第 3幕で、不安を煽る急速な箇所ではズンズンと音楽を進め、その合間にヴィオレッタが不安を歌うところではテンポを落として纏綿とした情緒を出していた。これはなかなかの巧者と聴いた。
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このように大変充実した公演で、イタリアオペラの神髄を堪能する公演になったのだが、実は今回、現地ローマに暮らしていた方と話す機会があって、それによると、このローマ歌劇場における通常の公演で、ここまで充実したものはちょっとないとのこと。うーんなるほど、分かるような気がする。このオケの楽員の人たちにとって、あるいは出演する歌手たちにとって、東京での公演に何か特別な意味があるのではないかと、その方はおっしゃっていた。そう、我々東京の聴衆は、世界的に見てもそれだけ恵まれた立場にあるのである。これからもその特権を享受できますように。

by yokohama7474 | 2018-09-18 00:51 | 音楽 (Live) | Comments(2)
Commented by エマスケ at 2018-09-18 12:19 x
こんにちは。
ローマ歌劇場公演の素晴らしさを共有いたしたく、コメントさせていただきます。

「椿姫」、初日の9日の公演に行きました。
おっしゃるように、前回の前評判の高かった2公演が「一通り」といった印象で、今回もポジティヴな判断材料が乏しく、失礼ながら私もあまり期待していませんでした。
が、冒頭の、階段を降りていくヴィオレッタから引き込まれました。
こんなにすべてが高水準といえる舞台を、東京に居ながらにして体験できるとは、まさに“僥倖”です。
ワンシーン、ワンシーンがいずれも西洋絵画のような美しさでした。
ヴァレンチノの衣装も、フォルムはもとより、オペラグラスでしか確認できないような素材のレースに至るまで吟味されたものでした。
もちろん、ヴィジュアル面のみならず、音楽も素晴らしかったです。
特に、フランチェスカ・ドットの、容姿に加え、隅々まで自在にコントロールできる声は驚きです(しかもフルート奏者から転向したという...)

「マノン・レスコー」は今週末に観に行きます。
こちらも貴ブログの評価が高いようですので、楽しみにしています。
今秋は、魅力的なコンサートが目白押しでスケジュールのやりくりがなかなか大変です(笑)

また、立ち寄らせていただきますのでよろしくお願いいたします。
Commented by yokohama7474 at 2018-09-18 22:38
> エマスケさん
コメントありがとうございます。今回のローマ歌劇場の来日公演の、前回とは見違えるような素晴らしさを共有させて頂けて、大変嬉しいです。こんなことが起こるのは世界でも東京だけではないかと思います。是非「マノン・レスコー」もご堪能下さい!!
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