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長野県 諏訪湖近辺 その 1 岡谷市 (旧林家住宅、旧片倉組事務所)

このブログでも毎年採り上げている通り、8月下旬から 9月上旬にかけて長野県松本市で開かれるセイジ・オザワ・フェスティバル松本に出掛けるときには、長野県の歴史的な場所を訪れるのを常としている。今年も、先に採り上げた秋山和慶指揮のコンサートに向かう途中、どこに寄ろうかと考えて、久しぶりに行きたいと思った場所がひとつ。それから、これまで知らなかった面白そうな場所を発見した。その二か所とも、松本の少し南側、ということは、東京から向かうとちょうど松本への途上にある岡谷市にある。この記事では、2回に分けて、その二か所と、その関連の場所を採り上げることとする。まずこの記事では、私がこれまでその存在も知らなかったが、今回調べて興味を持った場所からご紹介しよう。それはこんな場所である。
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長野自動車道をバックに、何やら古い門構えが見える。その前にある駐車場には、このような看板が。
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ほぅ。これは重要文化財であり、シルクの館とも呼ばれ、その名称は「旧林家住宅」、つまり、林さんという人の旧宅である。林さんとは一体誰なのか。門の向こうにはこのような立派な日本家屋が。
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私が訪れたときにはほかに人影もほとんどなく、40分くらいをかけて、係の方に説明をして頂きながらの観覧となった。入ってすぐに見える肖像写真がこれだ。
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これは林国蔵夫妻。林国蔵 (1846 - 1916) とは誰かというと、この岡谷の地が日本の製糸業の中心であった頃、その発展を築いた三大製糸家のひとつ林家に生まれた人で、創始者、林倉太郎の息子である。因みに三大製糸家のほかのふたつは、片倉家 (兼太郎) と尾沢家 (金左衛門) である。このうち片倉の方は、かつての財閥であり、今でも企業が存続するほか、この岡谷からほど近い諏訪湖のほとりに片倉館という昔の厚生施設 (やはり重要文化財) もある。その片倉館は随分前に行ったことがあり、今回も時間が許せば行きたかったが、それは叶わなかった。このように岡谷では製糸業が盛んであり、この林家の邸宅は、明治 30年代から 10年ほどかけて建造された大変に立派な建物なのである。係の方の説明だと、結局主は完成後ここに 10年ほどしか暮らさず、その後一家は東京に移住して、その後は夏の別荘として使われていただけだという。そのせいだろう、建造から 110年ほどを経ても、あまり生活感なく、当時の姿そのままに保存されている。例えばこのような調度品も当時のものらしく、大変に重いという。
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これは下座敷と上座敷の間にある欄間の彫刻。下座敷側から見て、なんと見事な鶴だろうと思ったら、上座敷側から見ると、明らかにそちら側が表で、下座敷側から見えるのは裏側であったことが分かる。
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これは床の間の仕切り部分 (狆潜りというらしい。犬の狆が潜り抜けるという意味だろう) の彫刻で、柏に鷹。
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これはやはり上座敷の書院の欄間彫刻。ちょうど私が訪れたときにはシルエットになっていて、実に印象的だが、これは牛を連れた中国風の衣装の老人。
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そこからこのような中庭を通って進んで行く。手水鉢も銅製の置物で、手が込んでいる。
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さて、この奥の部屋には、何やら華麗な模様を持った派手な壁紙が並んでいる。それは何かというと、その部屋の上の階にある、ちょっとほかにはないような独特な場所の壁紙を再現したもの。そこに入るための入り口は、このように、なんの変哲もない押し入れのような襖である。これを開けると、狭い階段があり、何やら秘密めいている。
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そして 2階に入ってみて、あっと声を上げた。こんな部屋がそこには存在していたのである。
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これは和室の座敷であるが、天井も壁も、大変に凝った洋風の壁紙で飾られている。これは金唐革紙 (きんからかわがみ) というらしく、西洋風に見えるが和紙で作られている。明治の頃にウィーン万博に出品されて好評を博し、その後バッキンガム宮殿の壁も飾ったが、いつしか製造方法が忘れられてしまい、近年に至るまで復元不可能であったようだ。この座敷の壁紙は、色こそさすがに褪せてしまっているが、一種異様なまでのその装飾性は残っていて、何やら怪しい雰囲気がある。横の壁も、床の間の壁も天井も、一面にこの金唐革紙が貼られている。
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この部屋は現在も密閉されていて昼なお暗いのだが、このように扉の部分と壁紙の間には漆が塗られていて、水分が滲みてこない工夫がされているので、このような保存状態で残っているのだという。
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そして、あとで外に出て分かったことには、この部屋が暗いには理由があって、このような漆喰の蔵作りになっている。これだと、この中にまさかあのような華麗な装飾があるとは、外からは絶対に分からない。謎めいた地味な襖の入り口といい、本当に秘密めいた場所なのである。
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実はこの旧林家住宅にはもうひとつの顔がある。それは、この日本家屋と背中合わせに建っている洋館である。実は私がこの家を知ったのは、「浪漫あふれる信州の洋館」という本においてであった。この本は数年前にやはり松本を訪れた際に購入した本で、大変美しい長野県内の洋館の数々を紹介しているもの。日本家屋から入ると、このような玄関ホールを見ることができる。ここの天井も金唐革紙であろうか。
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面白いのは、隅にあるストーブだ。これも当時のもので、諏訪湖から天然ガスを引いていたという。日本初のガスストーブであるようだ。ちゃんとガスの栓もある。
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この洋館、現在は改修中で、外からはその美しい姿を見ることはできないのは残念だ。
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せっかくなので、通常の状態でのこの洋館の写真を拝借して掲載しておこう。
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さて、洋館からまた日本家屋に戻ると、まだいくつか見どころがあるのだが、大いに目を引くのはこの作り付けの仏壇だ。
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大変に細かい細工がされていて、感嘆の声を上げてしまうほどである。上部のカーブは、細かく木片を少しずつずらしているし、真ん中の迦陵頻伽 (かりょうびんが) も、なんともたおやかなのである。
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さらに、最後に通ることになる台所と使用人たちのスペースには、こんなものを見ることができる。これはいわば呼び鈴で、家族がどこかの部屋でボタンを押すと、その部屋の番号を覆っている金属がバタンと落ちて、部屋のナンバーが現れるというもの。なんと近代的な。
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このように、製糸工業華やかなりし頃の雰囲気を随所に感じることができる旧林家住宅、実に見どころ満載なのである。さて、せっかくなのでこの場所からほど近いところにある、もうひとつの近代の遺産を見に行こう。それはやはり「信州の洋館」に紹介されている、中央印刷社屋。
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これは現在では中央印刷という会社が使用しているのだが、実は、やはり製糸工業を行っていた片倉組の事務所であった建物。大正11 (1921) 年の建設である。今でも現役の社屋であるというのは大変なことだ。すぐ横には、片倉組発祥の地であることを記念する大きな石碑が立っている。
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製糸工業で沸いた近代の岡谷市の歴史に思いを馳せることのできる、貴重な体験であった。だが岡谷市とその周辺には、それだけではない顔もあるのだ。次回はそれをご紹介したい。

by yokohama7474 | 2018-09-22 01:36 | 美術・旅行