川沿いのラプソディ


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サイモン・ラトル指揮 ロンドン交響楽団 (ピアノ : クリスティアン・ツィメルマン) 2018年 9月24日 サントリーホール

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舞台の上に、ともに白髪の指揮者とピアニストがいる。指揮者は英国人サイモン・ラトル 63歳。ピアニストはポーランド人クリスティアン・ツィメルマン 61歳。ともに現代を代表する音楽家である彼らが、東京・サントリーホールで共演した曲目は、ベートーヴェンでもブラームスでも、あるいはショパンでもラフマニノフでもない。バーンスタインの作品だ。聴衆たちの喝采の中、私はしばしそのことを考えていた。クラシック音楽と呼ばれる分野の音楽を私はそれなりに聴いているのだけれども、この分野はいかんせん、世間一般においてはマイナーなもの。この分野の音楽が今後どのくらい聴衆を維持して行けるかは、どんな音楽をどんな演奏で聴くことができるかということと、密接に関係しているだろう。ともに音楽家として、広い視野と、そして同時に強い信念とこだわりを持つこの 2人。別に現代が「不安の時代」であると決めつけるつもりはないが、このような人たちが真摯な演奏を続けてくれる限りにおいて、音楽界には希望があると思う。

そんなことを書いているのは、ベルリン・フィルの芸術監督を今年退任したラトルが、既に昨年 9月から音楽監督を務めるロンドン響と、早くも来日公演を行っているからである。自他ともに認める世界最高のオケであるベルリン・フィルの芸術監督とは、これまでは指揮者にとっての最終ゴールにふさわしいポストであった。だがラトルは 60代前半でそのポストを返上し、新たな活動に入ることを決めたわけである。もちろんロンドン響は英国でベストを争う、歴史から見ても能力から見ても、文句のない世界的な名門オケではあるが、それでもベルリン・フィルを辞することを決めたラトルがそこを次の職場に選んだときには、驚きの声が上がったものである。ラトルとベルリン・フィルの演奏は、過去 2回の来日公演をこのブログでも採り上げたし、先般 NHK でも芸術監督としての最後の公演であったマーラー 6番を放送していた。彼のベルリンでの業績や課題をここで繰り返すつもりはないが、私の思いを一言で表すとするなら、やはり既に退任の潮時であったということだ。これはラトルとベルリン・フィルとの永遠の別離でも何でもなく、お互いに新たな道に入ったということである。この写真は、ロンドン響の本拠地バービカンにおける両者の演奏会の様子。
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そんなラトルが今回そのロンドン響との初来日に際して選んだ曲目は、なんとも意欲的なもの。東京での最初の演奏会となったこの日の曲目は以下の通り。
 バーンスタイン : 交響曲第 2番「不安の時代」(ピアノ : クリスティアン・ツィメルマン)
 ドヴォルザーク : スラヴ舞曲集作品72
 ヤナーチェク : シンフォニエッタ

これをどう評したらよいだろう。まず最初は、今年生誕 100年を迎える米国のレナード・バーンスタインの作品。そして後半は、なぜかチェコ音楽である。しかも、ポピュラーな「新世界」などではなく、スラヴ舞曲の第 2集 (有名な数曲の抜粋かと思いきや、8曲全部の演奏だ!!)、そして大変な名曲とはいえ、別動隊のトランペットを必要とするヤナーチェクのシンフォニエッタ。これはオケにとっても負担が大きいし、動員の面でも些か不安はありはしないか。実際に会場であるサントリーホールに足を運んでみると、いつもベルリン・フィルなら空席はほぼゼロになるところ、さすがに今回は、ほぼ満席に近いとはいえ、当日券も販売されていたし、ところどころに空席がある。だがその演奏は、期待に違わず、新たなコンビの門出に相応しい新鮮さで、ツィメルマンのピアノともども、実に素晴らしい内容となった。これは今年の 6月、退任間近のラトルが、ベルリン・フィルのステージでツィメルマンとともに、やはり「不安の時代」を演奏したときの写真。
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バーンスタインのこの作品は、3曲ある彼の交響曲のうち、唯一ユダヤ教色がないせいだろうか、最近演奏頻度が増えてきた。いかにもバーンスタインらしい平明さと都会的な孤独感、そして未来への希望を感じさせる曲で、米国音楽の代表作のひとつに数えられる。ピアノが全曲を通して活躍し、淋しいモノローグから、先鋭的な音響、はたまたジャズ風のフレーズまで、様々な表情を聴かせる。ツィメルマンのような高い芸術性を持つピアニストとしては異色のレパートリーかと思えば、実は 1986年に作曲者バーンスタインの指揮で演奏し、映像が残っている。そしてその時のオケもやはり、ロンドン響であったのである。今回のプログラムに記載あるところでは、ツィメルマンはバーンスタインと、100歳の誕生日に共演しようと話していたとのことで、つまり彼は今回、バーンスタインとの約束を果たしているわけである。もちろんそのピアノは、多彩な音響を素晴らしい説得力で描き出していて、いかにもこの人らしい奥行きを感じさせた。一方のラトルとロンドン響も、冒頭のクラリネット 2本から大変鮮やかでかつドラマティックな音で鳴っていて、曲への共感に満ちていた。もともとこのオケは大変に柔軟性があって、映画音楽も多く手掛けてきているわけであるが、あたかも映画音楽的な要素もあるこの曲には、もったいぶったところのないこのオケの音がよく合っていた。そしてラトルも、これはどう聴いても彼独自のものである密度の濃い音を自在に鳴らしていて、なるほどこのコンビの共演は、このように鳴るのか!! と、大変新鮮に聴いた。これは上記写真でご紹介したベルリンでのライヴ録音。このジャケットを見て、バーンスタインがツィメルマンに乗り移ったように見えるのは私だけか (笑)。ついでに、髭を生やしていた頃のバーンスタインの映像もアップしておこう。
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上述の通り、後半 1曲目のスラヴ舞曲第 2集は、8曲すべてを演奏したのだが、ここではさらに指揮者とオケが自在に音を繰り出すことで、とにかく誰が聴いても楽しい音楽に仕上がっていた。8曲中有名なのは 3曲ほどであるが、ラトルは 40分ほどの全曲をすべて暗譜で指揮。オケが盛り上がる箇所では、まるでシンフォニーのような壮大な鳴り方で、これもいかにもラトル風の「音楽が牙を剥く」瞬間だ。そして、さらには最後のシンフォニエッタでは、舞台裏手のオルガン前に 9人のトランペット奏者がずらりと並んだ。こんな大人数だから、日本でエキストラを募っているのかと思いきや、一人も日本人はいない。今回この曲を演奏するために、これだけの人数の楽員を来日させたということだろう。私はもともとヤナーチェクは大好きだし、このシンフォニエッタはその中でも最もお気に入りなのだが、なにせこの編成では、それほど実演で耳にすることはない。外来オケによる演奏だけでも貴重な機会であるのに、これだけの強い表現力の線が一本通った演奏となると、なかなか聴けるものではないだろう。ラトルは若い頃からこの曲をレパートリーにしているだけあって、ここでも完全に暗譜での指揮ぶり。ウェットに歌う部分もあるが、テンポは概して速めで、この作曲家特有のワイルドさが炸裂する。クライマックスは鳥肌立つような迫力で、すべての聴衆を圧倒した。これは 1982年に彼がフィルハーモニア管を指揮した録音。未だ 20代の頃の、彼のレコーディングキャリアでも最初期に属するものだ。
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ここで冒頭の感慨に戻ろう。クラシック音楽の場合、どうしても過去の名曲を繰り返し聴くということになってしまうし、もちろん名曲は何度聴いても名曲だとも言えるのだが、やはり、曲の新たな面を発見できるような新鮮な演奏を聴く機会がないと、新たな聴衆など生まれようはずもない。その意味で、サイモン・ラトルが、ロンドン響を指揮して、クリスティアン・ツィメルマンと、バーンスタインのシンフォニーを演奏することに、何か素晴らしい意義があるような気がする。いつもながら、こんな音楽を聴くことができる東京の聴衆は、やはり恵まれていると再認識するのである。このコンビのほかの演奏も、楽しみである。

by yokohama7474 | 2018-09-24 23:47 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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