川沿いのラプソディ


川沿いの住まいから、音楽、美術、映画その他文化一般を語りつくします。
by Crop Stock
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
> カギコメさん コメ..
by yokohama7474 at 21:36
> usomototsu..
by yokohama7474 at 21:34
こんにちは。この行人とい..
by usomototsuta at 18:09
> 行人さん なるほど..
by yokohama7474 at 02:12
「なるほど」が口癖 常套..
by 行人 at 01:31
> 吉村さん 確かにブ..
by yokohama7474 at 02:45
19日の定期、行って来ま..
by 吉村 at 22:47
> usomototsu..
by yokohama7474 at 01:46
> 徹さん 大間違いで..
by yokohama7474 at 01:45
先程のコメントはじっくり..
by usomototsuta at 19:21
メモ帳

文楽「南都二月堂 良弁杉由来 (ろうべんすぎのゆらい)」、「増補忠臣蔵」 2018年 9月24日 国立劇場小劇場

e0345320_23171067.jpg
東京・国立劇場における今月の文楽公演は、午後の部で上演された「夏祭浪花鑑」の初日の公演を以前レポートした。そして、なんとか午前の部の演目にも行けないかとあれこれ思案・調整して、なんとか行くことができたのは、千秋楽の 9/24 (月・祝)。その日の夜は既にこのブログにて採り上げた、サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団のコンサートがあったので、レポートの順番は逆になってしまったが、その午前の部について、ここで印象を記しておきたい。演目は、「南都二月堂 良弁杉由来」と、「増補忠臣蔵」。実はこの 2本は江戸時代の作品ではなく、明治に入ってから書かれたものである。今年は明治 150年記念ということで、明治期の作品を 2作上演する運びになったということらしい。

さて最初の「良弁杉由来」であるが、冒頭に「南都二月堂」とあることで明らかな通り、これは奈良の名刹、東大寺を舞台にした物語。その主人公は、奈良時代の高僧で、東大寺の開山である良弁 (ろうべん) 上人 (689 - 774)。これは東大寺開山堂にある国宝・良弁上人坐像。同時代の作ではなく、平安時代のものだとされているが、その凛とした佇まいは、さすが日本仏教史有数の名僧のひとりであり、第一級の彫刻である。これは秘仏で、毎年 12月16日の開扉。もちろん私は現地まで見に行ったことが何度かある。
e0345320_23420534.jpg
この文楽は、この良弁上人が幼少の頃、鷲にさらわれて杉の木にひっかかっているのを僧に助けられた、という伝説に基づくもの。以下の 4段からなる。
 志賀の里の段
 桜の宮物狂いの段
 東大寺の段
 二月堂の段

最初の段では、良弁の故郷志賀 (滋賀県のこと) で、30前にして夫を亡くした渚の方が、2歳の息子光丸とおつきの者たちを連れて茶摘みに興じていたところ、大鷲がやってきて光丸をとらえて去って行く。次の段はその 30年後。老いてすっかり正気を亡くしてしまった渚の方が、大阪の桜の宮を彷徨い歩き、水辺に映った我が身の老醜にはっとめざめ、東大寺の良弁僧正が幼少時に鷲にさらわれたと聞いて、奈良に向かう。次の段では、東大寺に辿り着いたはよいが、下々は御目通りすら叶わぬ高僧に、老婆が容易に接近できず、通りがかりの僧の知恵で、用件を書いた文を、良弁が子供の頃ひっかかっていたという杉の木 (二月堂の前にある) に貼っておくという手段に出る。そして最後の段では、感動的な親子の再会が描かれる。上演時間も手頃だし、登場人物も少ないので、文楽の演目の中ではかなり親しみやすいものだと思う。ところで、これはお寺好きでなくとも一般常識の部類だと思うが、東大寺二月堂は、早春に行われるお水取り (修二会) の舞台。この密やかな祭にはシルクロードの匂いがプンプンなのであるが、それはともかく、この文楽の最後の段は、その東大寺二月堂の前で行われる人間感情の炸裂である。実は今でも二月堂の前には、良弁が鷲にさらわれてひっかかったという杉の子孫と言われる木が存在している。その名も良弁杉。
e0345320_23325811.jpg
この「良弁杉由来」が明治の世に出てから、曲折を経て文楽のレパートリーに定着したにはいくつか理由があるらしいが、そのうちのひとつは、音楽の良さだという。例えば最初の段で使われる楽器に八雲琴というものがあるが、これは明治期の関西で流行した二弦の琴であるらしい。今回の上演でも、渚の方の踊りの伴奏で 2人の奏者が演奏したが、それはそれは見事なものであった。
e0345320_23453892.jpg
そしてここにはまたユーモラスな要素もある。シャボン玉を吹く行商人が面白く、彼が作った大きなシャボン玉には、「祝! 千穐楽!」と書いてあった。また、最後の段で感動的な親子の再会が起こる前に、良弁のおつきの者たちが、アクロバティックな芸を披露するのも大きな見せ場であろう。そのユーモラスさがあるゆえの、感動的な母子の出会いになるわけであろう。
e0345320_23503129.jpg
この良弁上人が鷲にさらわれた話は、ある種の貴種流浪譚であろうが、どこか日本人の感性に訴えるものがあるのであろう。幕末の土佐でおどろおどろしい芝居絵を描いた画家で、絵金 (絵師金蔵の略) という人がいて、私はこの画家に打ちのめされている人間なのであるが、その絵金の描く、良弁鷲にさらわれるの図はこれである。
e0345320_23535403.jpg
さて、もうひとつの演目である「増補忠臣蔵」であるが、これは読んで字のごとく、忠臣蔵のサイドストーリーである。後日譚ではなく、前日譚。つまり、浪士たちが高師直 (こうのもろなお。実在の人物だが、「逆賊」足利尊氏の執事であったことから、悪い奴というイメージが形成され、「忠臣蔵」においては吉良上野介の役名になっている) 邸に討ち入りをする前の話である。1時間ほどの演目だが、結構関係人物 (ここに出て来ない人も含めて) が多く、若干雑多な印象もある。明治期に書かれた文楽の前に、恐らくは先行して江戸時代に同じ演目の歌舞伎があったようだが、今回の公演のプログラム解説によると、「小さな世界で完結する創作ぶりは、明治以前の B 級の匂いがします」と、酷評されている (笑)。だがこの演目のテーマは分かりやすい。義を立てて主君に忠実に仕える者は、たとえ手段を選ばない行動によって誤解を受けたとしても、主君さえ諌言に耳を貸さない立派な武士であれば、その主君にはちゃんと真意が通じるということである。ここでの主人公、加古川本蔵は、このようにお縄になってしまい、主君である桃井若狭之介から手打ちにされることになる。絶体絶命のピンチ。
e0345320_00074204.jpg
ところがこの後、どんでん返しがあって、本蔵の命は救われる。面白いのは、この文楽に先立つ同じ内容の歌舞伎の演目では、「本蔵土壇」と呼ばれていたという。言うまでもなく、「土壇場」の「土壇」である。そう、自分が正しいことをしたと思ったら、潔く運を天に任せ、裁きを待てばよい。まぁ、現実世界ではなかなかそうも行きませんがね (笑)。だがしかし、これはこれで、B 級であろうとなんであろうと、人間の生き様を考え直すきっかけになる演目であろう。

この文楽の世界、それはそれは奥深いものであり、このブログをご覧の方々にも、クラシック音楽以外の舞台芸術で、このような素晴らしいものが日本にはあると、是非実感して頂きたい。

by yokohama7474 | 2018-09-28 00:14 | 演劇 | Comments(2)
Commented by エマスケ at 2018-09-28 12:12 x
こんにちは。
また立ち寄らせていただきました。

LSOの合間を縫っての文楽鑑賞ですか...。
お疲れ様としか言いようがないです(笑)
当方も、15日に昼の部を(N響Aプロ前ですね)、20日に夜の部を観に行きました。
夜の部は、人気の演目「夏祭」、しかも文楽界のスーパースター、勘十郎丈が団七を遣るというだけあって、連日ほぼ満席のようでした。
一方、昼の部は、演目が地味なこともあったのか、土曜日にもかかわらず空席が目立ちました。

「二月堂」は、歌舞伎で何度か観たことがありますが(仁左衛門と先代芝翫の組み合わせはよかったなあ)、文楽は初めてです。
今回は、「二月堂」の前に「志賀の里の段」と「桜の宮物狂いの段」が入っていたので、それまでのいきさつがクリアになりました。
それもあって、クライマックスでは展開がわかりきっているのに、千歳太夫&富助コンビの熱演に思わず涙腺が緩みました。

それから、絵金さんの良弁上人の絵につきましてご教示ありがとうございました。
絵金さんの、血飛沫が飛ばない数少ない絵なのですね。
歌舞伎の初演が明治以降ということを考えると、最晩年の作品なのでしょうか。
実物は、さぞ迫力があるのでしょう。
毎年7月に行われるという“絵金祭り”には、かねがね足を運びたいと思いつつ、まだ実現できていません。

LSOウィークも明日で最後。
ラヴェルがとても楽しみです。

あれこれと思いつくまま書かせていただきました。
失礼いたしました。
Commented by yokohama7474 at 2018-09-29 00:53
> エマスケさん
コメント深謝致します。まさに、クラシックをお聴きになる方が、クラシック以外の東京の舞台芸術の面白さを語って頂けることは、私にとって大変に有難いことです。しかも、絵金がお好きとは、趣味も合いますね (笑)。私は、高知にある絵金の美術館 (絵金蔵) に行ったことはあるものの、祭に行ったことはないので、人生の目標のひとつになっております。またお立ち寄り下さい。
<< シルヴァン・カンブルラン指揮 ... サイモン・ラトル指揮 ロンドン... >>


最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧