川沿いのラプソディ


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メモ帳

マーラー : 千人の交響曲 井上道義指揮 読売日本交響楽団 2018年10月 3日 東京芸術劇場

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以前も何度か書いたことであるが、マーラーのシンフォニーの中でも、第 8番変ホ長調は、別名「千人の交響曲」と言われ、西洋音楽史上でも最大規模の作品であるがゆえに、世界的に見てもなかなか演奏されない。例えばマーラーのシンフォニーを順々に録音する指揮者も、この 8番は最後まで残ってしまうケースも多い。それほどに演奏機会が稀なはずのこの作品、東京では平均すると毎年演奏されているのではないか。これは世界のどの大都市を見てもまずありえないことなのだが、今年は全国に目を転じると、9月末には福岡で、九州交響楽団創立 65周年を祝う小泉和裕指揮の演奏会で採り上げられ、その数日後にはびわ湖ホール 20周年を祝って沼尻竜典と京都市交響楽団が採り上げた。そして 10月 3日、東京でこの演奏会である。一体この国はどうなっているんでしょう (笑)。私は九響もびわ湖ホールも興味はあったが、実際に出掛けることは叶わなかった。だが、この井上道義と読売日本交響楽団 (通称「読響」) の演奏会には、多少の無理を押してでも行きたかったのである。ほかの例を見ても分かるように、この曲は何かのお祝いといった特別な機会に演奏されることが多いが、この演奏会はそうではなく、相変わらず活発な指揮活動を展開する井上道義が、読響を指揮して行う、ただ 1度だけの単発演奏会である。興味深いのは、主催が会場である東京芸術劇場であること。これについてはまた後で触れよう。
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私が以前実際に体験した井上の指揮するマーラー 8番の演奏としては、2012年に彼が名古屋で、アマチュアオケとアマチュア合唱団の混成部隊を指揮したコンサートがある。だがその時は正直なところ、奏者たちの熱意は感じながらも、この大曲をアマチュアの混成部隊で演奏するとは、やはりなかなかに難易度が高いなぁと実感したものであった。この曲、大音響の箇所では、作曲者自身が「宇宙が鳴る」と自負したほどの凄まじさだが、その一方で繊細で緊張感に満ちた部分も多く、曲想の変化も大きい。そして何より、複雑に錯綜する声の扱いは、なかなかに厄介なものであるに違いない。それゆえ今回は、読響とのコンビを期待していたのである。これはその 2012年の名古屋での演奏会のポスター。なんでも、名古屋マーラー音楽祭の最後を飾る公演であったようで、今プログラムを取り出してくると、内容は大変にマニアックである。
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さて今回の井上と読響の演奏、このアマチュアオケとの演奏に比べると、音響の精度という意味では、格段に上であったことは間違いないだろう。井上は、心持ち速めのテンポでグイグイと進めて行く彼らしいスタイルではあったが、かなりの部分で指揮棒を使わずに丁寧に合唱団から歌を引き出す姿勢も見ることができた。井上らしい熱狂感を読響が高度な技術で音として放射しており、総じて聴きごたえ充分な演奏であった。ただその一方、つい先日聴いたばかりのロンドン響の音が耳に残っていると、ひとつひとつの楽器のクリアさにおいては、さすがに少し課題を残したようにも思う。それから、少し残念であったのは合唱団で、今回は「首都圏音楽大学合同コーラス」と名付けられているが、その名の通り、首都圏の音楽大学 (上野学園大学、国立音楽大学、昭和音楽大学、洗足学園音楽大学、桐朋学園大学、東京音楽大学と、ひとりだけ東京藝術大学) の学生とその OB による大規模な合唱団だ。ステージ奥と、両サイドの客席に陣取った合唱団の人数は 300人を上回っていただろうか。この曲の最大の聴きどころである第 1部の終結部と、第 2部最後の神秘の合唱では、鳥肌立つような素晴らしさであったが、この 80分を要する大曲の隅から隅まで完璧な合唱であったかと思うと、繊細な部分では課題を残したような気がしたものである。一方、少年合唱 (TOKYO FM 少年合唱団) は全曲暗譜での歌唱であり、この曲の前半がラテン語、後半がドイツ語であることを思うと、これはなかなかの健闘であったと思う。それから、この曲には 8人の独唱者が登場するが、女声陣 (菅英三小、小川里美、森麻季、池田香織、福原寿美枝) は概して素晴らしい出来であったのに対し、男声陣 (ロシア人フセヴォロド・グリフノフ、青戸知、英国人スティーヴン・リチャードソン) は少し線が細いと感じる瞬間があったように思う。今思い返してみると、うーん、やはりこの曲は大変な難曲である。今回の演奏のように、部分的には素晴らしい響きを聴くことができ、指揮者の情熱とオケの熱演があっても、さらに精度の高い響きを聴きたい箇所がいくつかあると、完璧な演奏という印象ではなくなってしまうのである。ただ、いわば演出上の工夫とも言えそうな点が興味深かったので、いくつか挙げておこう。
(1) 歌詞に字幕を導入したこと。これは、オペラでは通常のことであるが、コンサートの場合は結構少ない。しかも、時に天使の表示に色がついていたりして、分かりやすかった。まぁもっとも、この曲を全く知らない人が字幕を追って作品のテーマが分かったか否かは定かではないが (笑)。
(2) ステージ左右の合唱団において、向かって右側の手前の方は少年合唱で、白を基調とした服。その他の合唱団員は第 1部では全員真っ黒の衣装であったが、第 2部では、ちょうど少年合唱と対照の位置に来る女声合唱だけが、白いジャケットを着用した。これで、ラテン語による賛歌である第 1部と、ゲーテの「ファウスト」を歌詞とする第 2部、つまりは、宗教性はあっても人間的な要素を扱った部分の差が表現された。
(3) 第 1部では 7人のソリストはステージ奥の合唱団手前で歌唱。一方第 2部では、男性ソリスト 3名だけがステージ手前に移動して来て歌唱。第 2部の後半に登場する栄光の聖母 (森麻季) はさらに上部の、オルガン横に登場。これによって、第 2部のテーマが、永遠に女性的なるものによって (アルマが発想源?) 男性の魂が救済されるという図式が明確になった。
(4) 全曲の終結部では、音響の盛り上がりとともに客席の明かりが明るくなり、光の拡散を感じさせたこと。

これらは、どこにも解説されていないが、恐らくは指揮者の意図によるものであろう。この井上ミッチーのアイデアマンぶりはこのブログでも何度かご紹介して来たが、今回はステージからの語りはなかったとはいえ、様々な細部に彼の作品に対する思い入れを感じることができた。上では少し厳しいことを書いてしまったが、やはりこの曲の最後の「神秘の合唱」を聴くと、冷静ではいられないほど感動するのである。

さてここで、川沿いアーカイブから、貴重な映像をお目にかけよう。それは、1995年、磯崎新設計の京都コンサートホールがオープンした際に、京都市交響楽団を当時の音楽監督、井上道義が指揮して演奏した、同じマーラー 8番の NHK による放送の録画だ。このときには、上に書いた (1) から (4) は行われていないように思われる。
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というわけで、様々な思いを抱いて体験した今回のマーラー 8番であったが、上述の通りこれは、今回のコンサート会場である東京芸術劇場の主催。ここで思い出すのは、このホールでは首都圏の音楽大学オーケストラによる演奏会が定期的に開かれている。今回の演奏における合唱団は、いわばその合唱版ということになる。ここには何か、東京芸術劇場の運営ポリシーがあるのだろうか。実は今回のプログラムには、今回の 8番を皮切りに、このホールでマーラー演奏が行われていく旨の宣伝が掲載されている。それは以下のような具合
 2018/11/22 : 7番 マリス・ヤンソンス指揮 バイエルン放送響
 2018/12/16 : 1番 ダニエル・ハーディング指揮 パリ管
 2019/4/13 : 6番 ジョナサン・ノット指揮 スイス・ロマンド管
 2019/12/6 : 3番 指揮者未定 読響
 2020/1下旬 : 9番 エサ=ペッカ・サロネン指揮 フィルハーモニア管

今回はこのうち、ノットとスイス・ロマンド管による 6番のチケットを、一般発売に先駆け、しかも割引料金で販売していたので、早速ゲットした。実はこのノットとスイス・ロマンド管は、KAJIMOTO が招聘元になっているはずで、先般のサイモン・ラトルとロンドン響の演奏会で配布されたチラシ (のゲラのような粗雑な印刷) には、サントリーホールでの別の日のコンサートと、やはりマーラー 6番をメインとする演奏会が掲載されているが、後者の会場は大阪のザ・シンフォニーホールなのである。そうすると、ノット / スイス・ロマンドの演奏会のうち 1公演は、東京芸術劇場が主催ということなのだろう。これからの東京の音楽シーンは、ホールの自主的な企画が面白くしてくれるのかもしれない。

by yokohama7474 | 2018-10-04 01:10 | 音楽 (Live) | Comments(2)
Commented by 吉村 at 2018-10-04 22:07 x
一階席の前の方で聞いてましたが、確かに男声陣はもうちょいでしたね。アルトのお二人は素晴らしいでしたね。
井上さんらしい、粗い面もあるけど熱い演奏で、栄光の聖母のくだりと神秘の合唱では不覚にも涙してしまいました!
Commented by yokohama7474 at 2018-10-05 00:11
> 吉村さん
いらしたんですね。改めてこれはすごい曲なんだと思いますね。普通の街に住んでいる人は、一生に何度かしか実演を聴くことができないであろう曲をこんなに頻繁に体験することのできる我々は、本当に恵まれています。この曲の大音響は、録音では絶対に分かりませんからね。そういえば、本文に書き損ねましたが、バンダはステージ上部のオルガンの前に並びましたが、あれが客席の中にあれば、もっともっとホール全体が鳴り響いたかもしれませんね。
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