川沿いのラプソディ


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大野和士指揮 東京都交響楽団 (ピアノ : リーズ・ドゥ・ラ・サール) 2018年10月13日 東京芸術劇場

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今や東京でもトップを争うクオリティのサウンドを聴かせる東京都交響楽団 (通称「都響」) であるが、今月の指揮台には、音楽監督の大野和士が登場。待望のこのコンビによる演奏は、4つのプログラム。興味深いことに、そのうち 2回はフランス音楽によるもの。残る 2回はドイツ・オーストリア音楽によるもの。いずれも大野ならではの凝った内容で、これはどれも必聴のプログラムなのである。
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今回の演奏会にはテーマがあって、「ジャン・フルネ没後10年記念」「ドビュッシー没後100年記念」とある。ドビュッシーの没後100年については、ほかのコンサートでも様々に採り上げられているが、ジャン・フルネについてはどうだろうか。ほかに彼の没後 10年を記念して開かれた演奏会というものは、寡聞にして知らない。それもそのはず、フランスの名指揮者ジャン・フルネ (1913 - 2008) と最も縁の深かった日本のオケは、この都響であり、このオケにとって彼は、永久名誉指揮者であるからだ。
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この指揮者が日本の音楽界に果たした役割は非常に大きい。都響だけでなく、N 響、日フィル、新日本フィル、読響や大フィル、群馬交響楽団などを指揮している。今回の演奏会では、大野が開演前に登場して、フルネについて語っていた。フルネがフランスで生を受けた 1913年には、「春の祭典」世界初演という音楽史上画期的な出来事があり、またドビュッシーの「遊戯」の初演もこの年。作曲家で言えば、ベンジャミン・ブリテンがこの年に生まれている。そのようにモダニズムの台頭期に生まれたフルネの初来日は 1958年。それはドビュッシーの歌劇「ペレアスとメリザンド」の日本初演であった (大野の説明にはなかったが、それはもともとドビュッシーと親交のあったデジレ=エミール・アンゲルブレシュトの代役であった)。都響には 1978年に初登場、その後密なる関係を築いた。現在その都響の音楽監督を務める大野は、藝大の学生の頃、フルネのリハーサルを見学していて、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」において、冒頭のフルートが弦楽器とハープに引き継がれるところで、スコアから目を上げたという。というのも、明らかにそこで、冒頭のフルートソロとは異なる、豊かな音が鳴り響いたからであった。だが、目を上げた大野が見たのは、淡々と指揮を続けるフルネの姿であったという。普通指揮者は、ここぞというときには身振り手振りが大きくなるものだが、フルネの指揮ぶりに変化はないのに、明らかに音が変わったことに、大野は驚嘆したという。そして大野は、彼らしく、フルネの指揮ぶりを真似たのだが、何歩か後ろに下がった際に、ヴァイオリンの譜面台を倒してしまうというハプニング (笑)。そして大野は、フルネの功績として、フランス音楽の中でも、フローラン・シュミット (詩篇第 47番や「サロメの悲劇」) やデュティユーの紹介を挙げていた。それから、大変興味深いエピソードとして、近年、リヨンにいた大野のもとに、フルネ夫人から 5冊の楽譜が届いたということがある。これらはいずれもフルネが使用していたもの。大野はその楽譜を都響に寄贈したとのことだが、今回の演奏会ではその実物が展示されていた。まずはラヴェルの「ダフニスとクロエ」第 2組曲のスコアに書かれた長いクレッシェンド。
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同じくラヴェルの「スペイン狂詩曲」のスコアには、コールアングレの 3連符を軽く奏するようにとの書き込みがある。
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この「牧神の午後への前奏曲」のスコアにある書き込みは、「ニュアンスは書いてあるところで正確に。その前から付けてはいけない」等とある。
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私も随分この指揮者の実演に触れたものだが、そのすべてが超絶的名演であったわけではないものの、大野も指摘していたその優雅な立ち姿を含めて、忘れがたいコンサートがいくつもある。都響との録音も沢山残していて、私の手元にも、今数えてみると、19組の CD がある。ついでに、彼のサインをもらっていないか否かを調べてみたが、残念ながらそれはなかった。その代わりと言ってはなんだが、1989年12月15日、ベルリオーズの劇的交響曲「ロメオとジュリエット」の演奏会でフルネが都響の名誉指揮者に指名されたときの楽団からのメッセージと、2005年12月20日、92歳のフルネがやはり都響と行った引退公演における本人からのメッセージをお目にかけよう。
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そんなフルネ没後 10周年を記念する演奏会の曲目は以下の通り。
 ベルリオーズ : 序曲「ローマの謝肉祭」作品9
 ラヴェル : ピアノ協奏曲ト長調 (ピアノ : ルーズ・ドゥ・ラ・サール)
 ドビュッシー : 管弦楽のための「映像」から「イベリア」
 ラヴェル : バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第 2組曲

まず最初の序曲「ローマの謝肉祭」は、上で言及したフルネの引退公演の曲目にもなっていた。その演奏は CD として市販されている。
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帰宅後に、自分も当日客席にいたこのライヴ録音を引っ張り出してきて聴いてみたが、今回の大野指揮の演奏よりも随分とテンポが遅い。もちろんそれは当然で、フルネと大野の持ち味はかなり違う。また、現在の都響のサウンドクオリティは、世界に誇りうるもので、颯爽と駆け抜ける演奏には、快哉を叫びたくなったものだ。そして 2曲めのラヴェルのコンチェルトを弾いたのは、現在 30歳のフランスのピアニスト、リーズ・ドゥ・ラ・サール。
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今回、大野のプレトークで、「ラ・サールというと、日本では学校の名前で知られているかもしれませんが、フランスの貴族の名前で、この人は貴族の生まれです」という説明があった。私は彼女の演奏を 10年ほど前から何度か聴いているが、貴族とは知らなかった。ご覧のように、まるでフランス人形のようなルックスで、正直なところこれまでの私の印象は、本当に人形のように、笑顔をあまり見せないタイプの演奏家というものであったが、今回は、その印象を一新するような鮮烈なラヴェルを聴かせた。今回のステージ衣装はお人形風のドレスではなく、黒いパンツルックで、しかも右腕は袖なし、左腕は袖ありというスタイリッシュなものであり、なるほど音楽家の印象は時とともに変わりうるのだな、と思ったことであった。一方、このコンチェルトでは、第 1楽章のトランペット、第 3楽章のファゴットといったパートに、思いがけないミスがあり、あぁっと思ったものである。都響と言えども、常に完璧ではない。ただそれも、人間の行っている演奏行為としては当たり前のことかと思う。ドゥ・ラ・サールは終演後何度かステージに登場し、「メルシー。アリガトウ」と言って、ドビュッシーの前奏曲集第 1集から「パックの踊り」を披露した。これも実に鮮やかな演奏であった。

休憩のあとの 2曲、ドビュッシーの「イベリア」とラヴェルの「ダフニス」第 2組曲は、それはもう素晴らしく中身の詰まった演奏で、大野と都響のコンビであればこれだけの高度な演奏を聴くことができるのだという好例であった。そうして私の思いは、オケの伝統というものに辿り着く。かつてフルネが指揮したこのオケには、そのフルネが死して 10年経っても、その足跡が残っている。同様に、かつてこのオケが演奏してきたマーラーや現代音楽というレパートリーも、それぞれの指揮者の思い出とともに、これからも繰り返されて行くものと思う。東京という街を代表するオーケストラとして、都響の今後には大いに期待したいものである。

by yokohama7474 | 2018-10-13 23:31 | 音楽 (Live) | Comments(3)
Commented by usomototsuta at 2018-10-18 19:05 x
また失礼します。ブログ主様はN響、読響、京響、都響といったところに国内で高い評価を与えているようですね。そのうちの読響のベルリオーズとドビュッシーとラヴェル(それにチャイコフスキーのバイオリン協)というフランス中心プログラムを福岡で聴きました。今回は都響のラヴェル中心の仏プロでまた面白かったでしょうね。九州ではなかなかこれらのオケの実演に接することは少なく、今年はN響と読響を聴けてラッキーでした。来春には都響もインバルと福岡に来るようで今迷ってるところです。確か2曲はこの7月、大分でN響がやったのと同じ曲ですが(笑)。一度都響を聴いてみたいとは思ってます。
Commented by usomototsuta at 2018-10-18 19:21 x
先程のコメントはじっくりと読まないままに書いてしまいました。ジャン・フルネと都響と大野和士のエピソードはとても読み応えのあるものでした。ありがとうございました。
Commented by yokohama7474 at 2018-10-19 01:46
> usomototsutaさん
是非都響をお聴きになって下さい!!
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