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ヴェルディ : 歌劇「アイーダ」(指揮 : アンドレア・バッティストーニ / 演出 : ジュリオ・チャバッティ 2018年10月21日 神奈川県民ホール

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東京フィルハーモニー交響楽団 (通称「東フィル」) の若き首席指揮者、イタリアの俊英であるアンドレア・バッティストーニが、「アイーダ」を振ると聴いて、期待が募らないわけがない。これは、神奈川県民ホールによるオペラ・シリーズであるが、このホール以外にも、札幌 (文化劇場 hitaru のこけら落とし)、西宮、大分で上演され、それぞれの会場の主催者陣ととの共同主催によるもの。また、ローマ歌劇場との提携公演であるらしい。オペラのように膨大な資金のかかる催しは、やはり各地の劇場の共同制作が効果的である。その場合のメリットは、ただ 1ヶ所の聴衆だけでなく、共同主催する複数の場所での上演も可能ということである。これにより、東京に一極集中しがちなオペラ上演を地方に普及させることができるという点、大いに意義があるものと思う。ただその場合に課題になるのはもちろん、上演の質である。東京での公演であれ地方でも公演であれ、その上演の質がよくないことには、聴衆に充分アピールすることはできないであろう。その点この公演は、実に素晴らしい演奏であり、これなら地方の聴衆の方々も、オペラの醍醐味を十二分に堪能することができるはず。
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この上演、この横浜では 2日間に分かって行われるが、キャストは 2組からなっていて、それぞれに 1人だけ海外からの招聘歌手がいるものの、残りはすべて二期会の歌手陣。合唱も二期会合唱団である。それもなかなかに興味深いことであって、このブログでも何度か見てきた通り、二期会の活動は、国内において非常に積極的で活発なものであるというだけでなく、海外のオペラハウスとも提携して、世界のオペラハウスとソフト面の共有ができるような状態にあるからだ。こんなオペラカンパニーが、世界にいくつあることだろうか。それにはやはり、歌手陣の充実が不可欠だろう。実際この日の公演では、アイーダの木下美穂子、ラダメスの城宏憲、アムネリスのサーニャ・アナスタシア (オーストリア出身)、アモナズロの上江隼人、いずれも見事な出来であり、これは世界に出して恥ずかしくない水準である。特に、急な代役で (もともとは端役の伝令役で出演が予定されていた) 城は、声量こそ大きくはないものの、大変に澄んだ美声で、終始安定した歌唱。このようにして若手がチャンスをつかんで、活躍の場を広げて行くのであろう。ダブルキャストのうち前日は、ラダメスに福井敬、アムネリスに清水華澄、ランフィスに妻屋秀和、エジプト国王にジョン・ハオと、二期会でもより名の知れた陣容であったが、聴衆としては、これまであまりなじみのない素晴らしい歌手を発見することはまた、何物にも代えがたい喜びだ。私は今回のキャストでこの公演を見ることができて、大変ラッキーであった。これが城。
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それから、バッティストーニと東フィルの演奏の素晴らしさにも、最大限の賛辞を捧げたい。テンポは概して速めで、第 1幕最後の儀式の場面とか、第 2幕の冒頭とか、ハープを伴うリズムによって通常はゆったりと歌われるような箇所でも、キビキビとしたテンポ運びで迷いがない。そして、ステージの左右で 6本のアイーダ・トランペットが鳴り響く大行進曲や、第 3幕の極めてドラマティックな終結部も、それはもう、切れば血の出るような壮絶な響きがホール内を満たしていた。かと思うと、冒頭の序奏や、終幕での哀しく抒情的なシーンにおいては、密度の濃い音で実に美しく、そして繊細であった。東フィルの状態はすこぶるよく、バッティストーニの指揮棒に食らいついていって、彼らの首席指揮者の音楽の持つ多様な表現力を、余すところなく音にしていたと思う。お見事。

演出は、イタリア人であろうか、ジュリオ・チャバッティという演出家によるもの。内容はかなり保守的で、「アイーダ」らしく古代エジプトを舞台にしていた点は安心したが (笑)、刺激という点ではもう一歩か。ただ、これだけ素晴らしいオケと歌唱を聴くには、舞台上で余計なことをいろいろされてしまうと興ざめなので、このくらい、ある意味で控えめな演出がちょうどよかったとも思う。巨大な柱 6本と、神殿やそこにつながる階段などが可動式で、幕間の舞台転換の一部は、緞帳を下ろさず、ただ舞台を暗くしてスタッフが大道具を動かして行われていた。多くの劇場で使用するので、このような可動式な大道具になっているのであろうか。それはそれで効率的。最後の最後で、アイーダとアムネリスが閉じ込められた墓場の後ろから、にゅっとファラオ (?) の顔が出て来る点だけは、多少の意外性を伴っていて、面白く見ることができた。これが演出家チャバッティ。
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バッティストーニの出身地は野外オペラ「アレーナ・ディ・ヴェローナ」で有名なヴェローナであり、その野外オペラの演目としては、この「アイーダ」と「トゥーランドット」は 2枚看板だ。バッティストーニは東フィルでは既に「トゥーランドット」を採り上げていて、CD にもなっているが、今回の「アイーダ」も、それに劣らない凄まじい演奏であった。彼自身、今年のアレーナ・ディ・ヴェローナで既に「アイーダ」を指揮したということであったが、その指揮ぶりを見ていると、曲の隅々まで自家薬籠中のものとしていることが明白であった。プログラム冊子に掲載されている彼のコメントによると、自分は「アイーダ」をこれまで何度も指揮して来たが、指揮者の役割がとても重要なオペラであり、室内楽的な箇所もあるものの、やはり第 2幕の「力とエネルギーにあふれた音楽」が、指揮していていちばん楽しいとのこと。今回日本で「アイーダ」を指揮できるのは本当に嬉しい。「日本の北から南まで、劇場を熱狂で満たしたいと思っています」とのこと。実際この言葉の通り、神奈川県民ホールは熱狂に満たされた。残すは10/24 (水) の西宮・兵庫県立芸術文化センターと、10/28 (日) の大分 iichiko 総合文化センターの 2回。引き続いての熱狂、間違いなしだと思いますよ。

by yokohama7474 | 2018-10-21 23:02 | 音楽 (Live)