川沿いのラプソディ


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メモ帳

アレクサンドル・ラザレフ指揮 日本フィル 2018年11月 9日 サントリーホール

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日本フィルハーモニー交響楽団 (通称「日フィル」) の前首席指揮者であり、現在では桂冠指揮者兼芸術顧問の立場にあるロシアの名指揮者、アレクサンドル・ラザレフは現在 73歳。以前もご紹介したことがあるが、日フィルの指揮台に年に数回は立って、ロシア音楽を中心としたプログラムで、熱い演奏を繰り広げている。最近でこそ聞かなくなったが、彼が日本で指揮する機会が増えた 1990年代頃には、「ロシアのカルロス・クライバー」などと呼ばれていたものだ。今でも彼の指揮には何か特別な情熱が宿っているような気がするのであるが、今回の演奏会はまた、そのようなことを感じるには最適の内容であったと思う。このような曲目であったからだ。
 グラズノフ : 交響曲第 8番変ホ長調作品83
 ショスタコーヴィチ : 交響曲第12番ニ短調作品112「1917年」

ラザレフと日フィルは、アレクサンドル・グラズノフ (1865 - 1936) の作品の連続演奏会に取り組んでいるようだが、グラズノフ作品との組み合わせは、彼がサンクト・ペテルブルク音楽院の院長であった頃にそこで学んだ、ショスタコーヴィチやプロコフィエフの作品であるらしい。グラズノフは、ロシアの作曲家として決して無名な存在ではないはずだが、その作品はどのくらい日本で知られているであろうか。バレエ音楽「ライモンダ」や「四季」、あるいはヴァイオリン協奏曲は、それなりの知名度があると思うが、かく申す私自身、それらがいつも大いに親しんでいる曲たちかというと、全くそうではない。交響曲は 8曲書いていて、私は尾高忠明指揮 BBC ウェールズ交響曲の全集を持っている。そのうち今回演奏された 8番は、日本では以前朝比奈隆が時々採り上げたこともあり、私も彼の指揮する当時の新星日響との実演 (録音もある) を聴いたこともある。だが、そうであってもこの 8番がポピュラーな曲であるとはとても思えない。実際、上記の尾高の全集を聴いたのは随分以前のことであるが、どのシンフォニーを聴いてもロシア的土俗性が感じられて、私の感性にはどうにもしっくり来なかった記憶がある。だが一旦そのような過去の体験を離れ、ここでグラズノフの音楽史的な立ち位置を確認しておこう。1865年生まれということは、マーラーやシュトラウスと同世代。ロシアの中では、五人組 (1830 - 40年代生まれ、ムソルグスキーや R=コルサコフたち) やチャイコフスキーよりも一世代下であり、また、プロコフィエフやショスタコーヴィチ (1890 - 1900年代生まれ) よりも一世代上ということになる。そして何よりも興味深いのは、彼の人生には、1917年のロシア革命から、1924年のレーニンの死後に始まるスターリン時代までが含まれる。そのように考えれば、決してロシアの民族主義のみに立脚した人ではなく、ロマン主義とモダニズムの間、あるいは帝政と共産主義の間に生き、そして世界の秩序が激変する時代に生きた人であると理解できるのである。このように恰幅のよい人であったようだ。
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久しぶりに実演で耳にした彼の交響曲 8番を聴いて、若干驚いた。結構面白く聴けたのである。第 1楽章の主題は勇壮で広がりを感じさせるもの。第 2楽章には悲劇性があり、第 3楽章スケルツォは激しい音楽で、終楽章では音楽が脈打つような印象である。全体を通じ、音の層は概して厚く、常に休むことなくウネウネと前に進んで行くようなイメージの音楽だ。これは演奏する方はなかなか大変であろうと思うのだが、いつものように素手で指揮するラザレフの細かい指示に、日フィルが実によくついて行って、大変な熱演となった。弦楽器はいつものように深々と鳴り、以前少し課題を感じたように思った木管も、実に活き活きとした自発性がそこここに聴かれ、金管も上々。よく耳を澄ますと、モダニズムの断片が聴こえるような気もするが、やはり後期ロマン派風のイメージが強い。これこそがこの作曲家の複雑な持ち味なのであろう。因みにグラズノフは、この 8番完成 4年後の 1910年に 9番に取り掛かったが、例の 9番のジンクス (優れた交響曲作曲家はみな 9番までしか書いていない) への意識と、教職が多忙であったという事情から、結局 9番は未完に終わっているようだ。

そしてメインのショスタコーヴィチ 12番は、これも単純なようでいて実に複雑なシンフォニーである。いや、ショスタコーヴィチのシンフォニーはどれもこれもその性格が複雑にできており、ある時は一見体制に従順な態度を見せながらも音楽に暗号を忍び込ませたり、またある時は、どう考えても共産党幹部が喜ぶわけもない陰鬱な曲を書くことで、一筋縄ではいかない創作活動を生涯に亘って展開したわけである。そんな中、この 12番は、副題の「1917年」で明らかな通り、ロシア革命とその主導者レーニンを称える曲。だが、切れ目なく演奏される 4楽章からなるこの曲は、決して英雄的なものではなく、とりわけラストは、音楽は一応盛り上がりを見せるものの、これはどう聴いても勝利の凱歌ではなく、聴き終わったあとも何やらストンと落ちないものを感じさせる。だからこの曲は、かつて一般に思われていたような体制におもねった曲ではなく、彼のほかのシンフォニー同様、大変謎めいた音楽なのである。
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今回のラザレフと日フィルの演奏は、一言で形容するならば、大変な迫力。ラザレフは、ステージに登場して指揮台に上るや否や指揮を始め、鳥肌立つような凄まじいチェロの唸りからして、一気に聴衆の心を掴んでしまった。終始スコアを見ながらの指揮ではあるが、彼の頭の中にはこの曲が完璧に入っていることは明らかだ。いやそれにしても、今回の日フィルの演奏は、まさに会心の出来であろう。上記のグラズノフ以上に (曲自体へのなじみも関係していようが)、このショスタコーヴィチでは、それぞれの楽器から発される音の説得力が凄まじく、実に圧倒的である (ティンパニに拍手!)。ラザレフの指揮は、いつもにも増してしっかりと前に進んで行くもので、例えば第 1楽章で何度か出て来る休符も、普通ならそこで一旦停止して、力を蓄えてまた放つというやり方を取る指揮者が多いと思うが、彼の場合には、休符は休みや切れ間を意味せず、あたかもそこでも音が続いているように音楽は進んで行く。普通このようにすると雑な印象を与えかねないだろうが、ラザレフの場合は雑とは違う。雑な指揮者なら、あそこまで忙しく各パートに指示を与えることはないだろう。彼は、自分の頭の中で鳴っている熱い音楽を、まるで空気から彫り出すように現出させるのである。素晴らしい手腕ではないか。 演奏後の様子を見ても、今回の日フィルの演奏には、自身大きく満足したようである。
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さて今回面白いことがあったのだが、それはコンサートマスターだ。こんな人。
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彼は、音楽ファンにはある程度知られているであろう、白井圭。藝大を卒業してからウィーンでも学び、ウィーン・フィルに契約団員として在籍したこともある。また、サントウ・キネン・オーケストラのメンバーも何度も務めている。そんな彼が今回ゲスト・コンサートマスターとして日フィルに登場したのは、何かご縁があったのだろうか。オケのリーダーとしての経験はよく知らないが、今回のような豪壮な鳴り方が実現した一因は、彼の貢献もあるのかもしれない。

今後予定されているラザレフ / 日フィルの演奏会で注目は、来年 5月の定期で、ここではなんと、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の全曲が演奏される。常々、ラザレフのロシア物以外のレパートリーを聴いてみたいと思っていたので、これは絶好の機会ととらえ、是非聴いてみたいと思っております。

by yokohama7474 | 2018-11-10 01:20 | 音楽 (Live) | Comments(2)
Commented at 2018-11-10 15:54 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by yokohama7474 at 2018-11-10 23:11
> カギコメさん
いつもどうもありがとうございます。へぇー、半年も先の公演の準備がもう始まっているのですね。私は「カヴァレリア」が大好きで、いつも平常心で見ることができないくらい感動します。もしかしたら祖先はシチリアから来たのかもしれません (笑)。拙いブログですが、これからも是非ご夫婦でよろしくお願い致します。
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