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ジャナンドレア・ノセダ指揮 NHK 交響楽団 (ピアノ : アリス・紗良・オット) 2018年11月10日 NHK ホール

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今月の NHK 交響楽団 (通称「N 響」) の定期演奏会は、3つのプログラムのうち 2つをイタリア人指揮者が、残る 1つを日本人指揮者が振る。日本人指揮者は広上淳一。そしてイタリア人指揮者とはこの人だ。
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音楽ファンには既におなじみであろう、1964年生まれの名指揮者、ジャナンドレア・ノセダである。彼は以前、東京交響楽団の指揮台に頻繁に登場し、マーラー 8番という大曲も指揮していたものだが、当時私は、彼の手腕に瞠目しながらも、この長い名前をなかなか覚えることができず、ふざけてダレナンジャ・ソレハなどと呼んでいたものである (笑)。あのゲルギエフが、自身音楽監督を務めるマリインスキー劇場で、イタリア物のレパートリーを劇場に定着させるべく呼び寄せたイタリア人指揮者であるが、それも既に 20年以上前のこと。その後彼は活躍の場を大きく広げて行っており、オペラの分野ではトリノ王立歌劇場 (来日公演も素晴らしかった!!) の音楽監督をかつて務めていたが、2021年のシーズンからはあの名門チューリヒ歌劇場の音楽監督に就任予定である。またオーケストラでは、かつての手兵 BBC フィルとの相性もよかったが、2017年 9月からは、ワシントン・ナショナル響の音楽監督でもある。また N 響とは 2005年の初顔合わせ以来、何度も共演している。そのソレハ、じゃなかった、ノゼダが今回採り上げたのは以下のような曲目。
 ラヴェル : ピアノ協奏曲ト長調 (ピアノ : アリス・紗良・オット)
 プロコフィエフ : バレエ音楽「ロメオとジュリエット」抜粋

ノセダのこれまでの活動から、やはりレパートリーとしては、フランス物、ロシア物、そしてイタリア物が中心というイメージがあるので、これは彼の実力をじっくり楽しむことのできる充実の内容であると言える。しかもラヴェルのコンチェルトを弾くのは、ドイツ人の父と日本人の母を持つアリス・紗良・オットである。今年 30歳になった。
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彼女のピアノは非常にスタイリッシュなのであるが、それと同時に真面目さも持っている。何を弾いても聴かせるが、洒脱でジャズのイディオムを使ったこのラヴェルのコンチェルトなどは、最適のレパートリーではないか。そして彼女のひとつのウリは、ステージに裸足で登場すること。今回もベージュの長いドレスから時折覗く足の先は、確かに裸足である。ヴァイオリニストでもパトリツィア・コパチンスカヤという女流奏者はやはり裸足で演奏するが、彼女のヴァイオリンは一種野性的なものであり、裸足のイメージには合うと思うのだが、このアリス・紗良・オットの場合は、そのしとやかな外見や真面目な音楽性とのギャップが面白いのである。そして今回のラヴェル、ある意味では事前の予想通りの演奏だったと言えようか、小股の切れ上がったスタイリッシュなまとめ方をしながらも、一音一音疎かにしない丁寧さも感じる演奏であった。ノセダの指揮もいつもながらキビキビしたもので、この曲の場合、そのようなテンポの負担は管楽器に行くのであるが、N 響は密度の高い音でついて行っていた。ごくごく些細な傷はないでもなかったが、曲全体を通して本当に都会的で洒脱なラヴェルであったので、充分楽しめるものであった。そして紗良・オットが弾いたアンコールは、同じフランス音楽ではあっても、ラヴェルやドビュッシーではなく、サティの「ジムノペディ」第 1番である。これも音楽にふさわしい透明感と孤独感を漂わせた、都会的でいて味わい深い演奏。そう、彼女の最新アルバム「ナイトフォール」にも収録されているナンバーだ。
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後半の曲目は、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」からの抜粋である。この曲は全曲の演奏に 2時間半を要するが、随所にプロコフィエフの天才が感じられる素晴らしい曲である。作曲者自身が 3つの演奏会用組曲を編んでいるが、それらが演奏されることは少なく、指揮者の好みで抜粋版を作って演奏されることが多い。だが面白いのは、抜粋版に欠かせない「モンタギュー家とキャピュレット家」とか、ある場合にはラストに置かれる迫力満点の「タイボルトの死」などは、実は全曲にはそのようなタイトルはないし、曲自体も原曲そのままではない。その意味では、やはりプロコフィエフが、バレエ上演ではなくオーケストラコンサートのレパートリーとして編曲したことが、今日でもこの曲が頻繁に聴かれる理由のひとつであると思われるのだ。今回の演奏では 14曲が選ばれ、45分程度の演奏時間であった。ノセダは、サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場での経歴において、ロシア物のバレエを手掛けたことがあるのか否か分からないが、やはりバレエ公演の多いあの名門劇場でのキャリアは、このようなコンサートにも活きてくるのではないだろうか。余談ながら私も、マリインスキー劇場を訪れた際に見たのは、この「ロメオとジュリエット」(指揮者は知らない人であったが) だった。そして今回のノセダの演奏、さすが彼らしく、思い切りのよいオケのリードを基本として、細部のニュアンスまで描き出した素晴らしい演奏であったと思う。最初が例の「モンタギュー家とキャピュレット家」であったが、その絶叫的に鳴り響く不協和音が、両家の間の不和と、これから起こる悲劇を象徴しているように思われ、まさに聴衆の心を一気に掴んでしまった。この曲は、もったいぶったところは全くなく、ストレートに場面場面の特徴を描き出す必要があると思うのだが、その点ノセダの指揮は、いつもの通り切れ味抜群で、劇場的なセンスも感じさせるような素晴らしいものであった。そして「タイボルトの死」が熱狂的に大きく盛り上がった (打楽器がドン、ドン、ドンと繰り返すあたりのクライマックスには、ノセダの指揮棒が空間を切り刻み、まさに手に汗握るものがあった) あとに、長いコーダのように「ジュリエットの墓の前のロメオ」と「ジュリエットの死」が続き、深い情緒に満たされてコンサートは終了した。ノセダ、やはり素晴らしい指揮者である。もう、ダレナンジャとは言わせない (いえいえ、もともと私以外、誰もそんなこと言っていません。笑)。ますますの世界的活躍は間違いないが、日本でもこれからはドイツ物も是非披露して欲しいものだ。
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今シーズンの残りの N 響の曲目を眺めていると、招聘する指揮者の得意とするレパートリーにも関係しているのだろうが、ロシア音楽とフランス音楽がかなりの比重を占めている。かなり以前はどうしてもドイツ物偏重というきらいのあった N 響は、今や本当に多彩なプログラムを組んで、聴き手を飽きさせない活動を展開していると、改めて思うのである。

by yokohama7474 | 2018-11-10 22:59 | 音楽 (Live)