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第九 マレク・ヤノフスキ指揮 NHK 交響楽団 2018年12月23日 NHK ホール

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NHK 交響楽団 (通称「N 響」) の第九、今年はマレク・ヤノフスキの指揮であるから注目だ。このポーランド生まれのドイツの指揮者については、このブログでも過去何度かその演奏を採り上げてきているが、N 響を指揮して達成した大きな功績と言えば、やはり、東京・夏・音楽祭において昨年完結したワーグナーの「ニーベルングの指環」全曲の演奏会形式上演であろう。その共演を経ての第九、これは大変期待できる演奏会である。今回のコンサートのプログラム冊子にはヤノフスキのインタビューが掲載されているが、N 響のドイツ人作曲家との特別な関係、多くのドイツ人指揮者との共演に触れ、上記の「指環」での体験を通じて、N 響のドイツ音楽との相性の良さを感じているので、現在は N 響と集中して仕事をしている、と発言している。既に 79歳。彼のレパートリーは決してドイツ音楽だけではないものの、やはりそのドイツ音楽に耳を傾けることで、何か得るものがあることだろう。今回彼は、NHK ホールで 5回、サントリーホールで 1回、第九を指揮するが、私が聴いたのはそのうちの 2回目である。
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ヤノフスキのドイツ音楽には、本来あるべき重厚さがありながら、決して鈍重でない点に非凡さがあると思う。今回の第九では、全曲を通してかなり速めのテンポでグイグイと押して、余分なタメを作ることは皆無なのであるが、随所に美しい歌を聴くことができた。そして、これは大変に厳しい第九の演奏であったと思う。ではここで、川沿い第九シートと行こう。

・第九以外の演奏曲
  なし
・コントラバス本数
  8本
・ヴァイオリン左右対抗配置
  なし
・譜面使用の有無
  指揮者 : なし
  独唱者 : なし
  合唱団 : なし
・指揮棒の有無
  あり
・独唱者たちの入場
  第 2楽章と第 3楽章の間
・独唱者たちの位置
  ステージ奥、合唱団の前
・第 2楽章提示部反復
  あり
・第 3楽章と第 4楽章の間のアタッカ
  なし

改めて、N 響の個々の奏者の能力と、合奏の妙味に耳をそばだてる。もちろん、このブログで多くの日本のオケの演奏を採り上げているように、N 響にも不調なときがあり、時にはミスもある一方、ほかのオケが素晴らしい演奏をすることも枚挙にいとまがない。だが、うまく行ったときの N 響はやはり、様々な部分で、他のオケよりもほんの少し上を行っているケースが多く、今回の演奏はそのケースであったと思う。最初から最後まで、音の充実感が途切れることがなく、このなんとも破天荒で厄介な曲を、一貫してずしっとした音で演奏し尽した。ドイツの巨匠も、これには満足したことだろう。独唱者は、ソプラノの藤谷佳奈枝、メゾ・ソプラノの加納悦子という日本勢の女声と、テノールのロバート・ディーン・スミス、バリトンのアルベルト・ドーメンという海外勢の男声の組み合わせ。男声 2人はいずれも国際的なキャリアで知られている人であるが、女声 2人も安定感ではひけを取ることはない。そして合唱団は、東京オペラシンガーズ。力強さで知られるこの合唱団の力を存分に見せた歌唱であったと思う。ところで通常合唱団の入るコンサートでは、合唱指揮者が終演後に出て来て挨拶するものだが、今回はそれはなし。だが、プログラム冊子によると、合唱指揮はなんと、田中祐子。このブログでもその演奏を採り上げたことがあるが、合唱専門ではなく、オーケストラも指揮して活躍中の若手指揮者である。N 響の第九の合唱が国立音楽大学から東京オペラシンガーズに変更したのは、2016年のヘルベルト・ブロムシュテット指揮のときから。思い立って調べてみると、その年のプログラム冊子には、合唱指揮者の名前の記載はない。だが、昨年のクリストフ・エッシェンバッハ指揮の第九では、この田中の名前がクレジットされている。裏方に徹した素晴らしい指揮者に、敬意を表したいと思う。
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さて、この演奏会のプログラム冊子に掲載されているヤノフスキのインタビューに興味深い箇所があるので、ご紹介したい。ヤノフスキは、通常はこの曲の中心であると見られることが多い終楽章について、合唱と独唱を入れるという実験的な試みはあるものの、ベートーヴェンはこの曲を作曲したときに既に聴覚を失っていたため、「必ずしもすべての部分がうまくいっているわけではない」と発言。この曲で最も意味があるのは、第 3楽章アダージョであるという。「ここにはとてつもない音楽の深さが存在するのです。正しい感性で演奏されれば --- 他によい表現がみつからないのですが --- 聴衆をより高い次元の音楽的な世界へ導いていくことが可能なのです」とのこと。そして、この楽章で最も大事な部分は、開始からほどなく、第 1主題が弦と木管 (今回は倍管の編成である)、ホルンで奏されたあと、第 2ヴァオイリンとヴィオラ (この時代にしては異色の選択であろう) が第 2主題を奏する直前の部分であるという。彼はこれを、「神を感じさせるような移行部」と呼んでいる。うーんなるほど、普段この箇所に注意して聴くことはあまりないが、言われてみれば、微妙に音楽の調子が変わり、崇高なものを感じさせる瞬間である。今後はこの部分を注意して聴くこととしよう。
  
現代におけるドイツ物の巨匠であるヤノフスキには、また N 響の指揮台に戻ってきて欲しいものであるが、来シーズン (2019年 9月から) の定期公演にはその名前はない。とすると、次に東京の聴衆が接するときには、既に彼は 80代。ますます立派な音楽を聴けることを期待したい。

by yokohama7474 | 2018-12-23 22:52 | 音楽 (Live)